第65話 メグ、目覚める
メグが中学生だったころ不登校になったことがある。
最初のきっかけは親友が引っ越していなくなってしまったことだった。いじわるな男子が一人いて、毎日のようにからかってきた。いつの間にかクラス内で孤立してしまったのだ。
学校の対策も効果なく、気が付けば一年以上登校しない日が続いていた。
それなのに、今は中学校にいる。
鼻がむずむずする。あの頃の匂いが入り込んだみたいだ。
周りには同級生がたくさん座っていたが、でも誰一人知らない人ばかりだ。大嫌いな男子の姿もみあたらないが、いてもたってもいられなくなり、クラスから走り出した。
家に帰ろうとしても、家の場所を思い出せない。
見覚えのない市街地をぐるぐるとあてもなく走り回っていた。
なんで、こんなことをしているのだろう?
あぁ、夢か。
嫌な夢だ。最近は見なかったのに。
目をあけると、見覚えのある白い天井と壁。カグヤ号の居住区だ。横の簡易ベッドの上で寝ていた。
「お、目が覚めたか」
聞き覚えのある、ちょっと低めの声…
ガルドの声だ。
「えぇと、確か」
さっきまで何か重要なことをしていたはず。体を起こしてベッドの上に座ろうとするが、誰かに体を押さえられ、また横になってしまった。
「まだ寝ていなさい」
今度は女性のつややかな声だ。
横を向くとルミナスがいた。
「まだ火傷の治療中よ」
そう言うとルミナスはやさしく顔を撫でてくれた。
「それにしても、すごい薬ね。傷口が直っていくのが見えるなんて」
メグは自分の右手に貼られていた絆創膏パッチを見つめた。これだけではない。体中の肌が突っ張っている。体中にパッチが貼られているのだろう。
「確か、ルミナスの熱光線の一撃を見て、そのあと敵の巡洋艦が現れて…」
うーん、その後が思い出せない。
「あの一撃のこと、覚えてないのか?」
ガルドが心配そうに聞いてきた。
とはいえ、メグには何を言われているのか分からなかった。
「あの一撃?」
「敵の巡洋艦からブラスター砲で撃たれたのよ」
とルミナス。
「あぁ。もうダメかと思ったぜ。救出してから、ここに連れてきたのさ」
ガルドが足にはめたアンクレットを指さした。
あれで飛んで助けてくれたってことね。
「ちなみに私は魔力が切れて戦力外。ここで待機するよう国王から命令されたの。それから、あなたの面倒を見るようにって」
「つまり私はブラスター砲の直撃を受けて、生きているということ?」
『はい、そうです』
ナギが念話で会話に入ってきた。
『ビームの収束度が低かったようです。おかげで火傷程度ですみました』
「カグヤが絆創膏パッチの使い方を教えてくれたのよ。顔には火傷がほとんどなくて良かった」
右手で顔のパッチをなでながらルミナスがつぶやいた。
「これも女神装備のおかげ、ってやつか?」ガルドが聞いてきた。
『その通りです。高い耐熱性に耐電防止効果の装甲服、さらには頭部付近には簡単な結界もあります。不意打ちでも自動で結界を生成します。さらに自己修復能力で女神装備はほぼ機能を取り戻しています。ただし見た目はまだ少し焼け焦げてますが』
ナギが自慢げに説明してきた。
「思い出した。つまりルミナスの一撃でも戦争は終わらなかったのね」
「ああ。帝国は戦車20台と飛行軍艦を繰り出してきた。こちらは丘陵地帯で撤退戦をしながら敵の戦力を減らしているとこだ」
「じゃあ助けなくちゃ」
立ち上がろうとしたメグだが、力が抜けてベッドに座り込んでしまった。
「まだ寝てなさい。傷が治りきってないのよ」
ルミナスが優しく言葉をかけた。
「ああ。まずは休んでくれ。助けたいという気持ちは嬉しいが、この戦いは俺たちの未来のためだ。メグが命を懸ける必要はないんだ」
ガルドはゆっくりと、しかし力を込めてメグに伝えた。それを聞いたメグは心が揺らいでしまった。部外者である自分が戦うことに意味はあるのか。
「そうだ。国王から、メグが目を覚ましたら連絡してほしいと言ってた」
そしてガルドは国王と念話を始めた。国王と一緒にいる通信兵と繋がると、すぐに公開念話が始まった。
『メグ殿、聞こえるか? サルマン国王だ』
メグはうなづいて答えた。念話では見えないのだが、なぜか通じることが多い。
『今回の戦いでは助けていただき感謝してもしきれない。こんな状況だが、もう一つ私からお願いがある。どうか本国に戻り、この戦いのことを伝えてくれ。そしてできるだけ早く援助隊を連れてきてほしい』
メグは、すぐに返事ができなかった。国王の言いたいことは伝わった。だが、このまま帰れば見殺しにするのではないのか?
返事ができないメグに代わり、ガルドが質問した。
『サルマン、戦況はどうだ?』
『今はルミナスとザイールが地下陣地で戦闘している。苦戦はしているが戦車を2台も破壊したぞ。手製の榴弾の戦果だ。これなら侵略軍と十分に戦えるぞ』
『メグから教わった熱光線もあるわ。あれなら帝国の飛行船も一撃だし、私が復活すれば勝てるしね』
『メグが戻るまで戦えそうだな』
『ああ。さらにレーザーとブラスター銃もある。あれなら弾切れの心配はない。南大陸を簡単には支配させない。だから、どうかメグ殿。安心して本国に戻ってくれ』
ガルドだけでなくルミナスやサルマン国王にまで帰るように言われたメグだが、やはり納得はできなかった。
『ねぇ、ナギ。本当に大丈夫かな?』
これはカグヤN105号とだけの念話だ。ほかの誰にも聞かれていない。
『王国軍は効果的に抵抗していますが、被害も大きいと推定されます。消耗戦が続けば王国側の損害は大きくなるのは確実でしょう』
『そうよねぇ…』
メグは決断が付かなかった。そもそも必要な報告は送っているし、すでに援助部隊の編成は始まっているはずだ。今から自分が戻っても同じとしか思えなかったからだ。
沈黙してしまったメグの横では、王国の3名が戦術について話し合っていた。ガルドの黒鱗騎士、ザイールが作る榴弾砲、ルミナスの熱光線など、長期戦を行うときの効果的な使い方などが話題だった。
そんな時、4名の念話を繋げていた王国通信兵が会話に入ってきた。
『敵からの公開念話が来ました』
誰も思ってもみなかった事態だった。




