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第64話 戦場上空

 ダニエマルカムが乗る巡洋艦は地上500メートルほど上空で停止していた。上から戦車隊の進撃を観察するためだ。


 探知班からの視覚共有により地上部隊の動きがはっきりと見える。奥へと続く街道に沿って8台の戦車隊が、両翼には6台ずつの戦車隊が、奥へと向かって進撃を開始していた。


「これが手に取るように見える、ってやつだな」


 ダニエマルカムの独り言だが、艦橋にいる全員が同じ景色を見ているのだ。


「それにしても地図がないのは不便ですな」


 ハリカムにしては珍しい感想だった。その気持ちはダニエマルカムにもよくわかる。上から見ても丘陵地帯は同じような丘が続く。地上の戦車からだと、どこに王国軍が隠れているのか見当もつかないだろう。


『ヤールイコ将軍、聞こえるか?』


『聞こえております。閣下』


『上から戦車の位置がよく見えてるぜ。目的は国王の位置を見つけることだ。上空から監視しているから、地上戦車隊は怪しい丘をしらみつぶしにしていけ』


『了解であります』


 即席の機動部隊だが、戦車を扱う兵士はベテランぞろいだ。魔法にたけた王国軍と言えども、戦車の火力を前に生身で戦うなど自殺行為と言える。俺なら、逃げる自信がある。


 そんなことをダルカルムが考えている間にも、戦車はゆっくりと丘陵地帯へと入っていった。王国軍が逃げ出す様子は見えない。


『ヤールイコ将軍。一番の右翼2台と連絡は取れるか? 同じ場所を何度も往復している』


『はっ』


 上空からではわからないが、おそらく急斜面に遮られたのだろう。いざとなれば戦車ごと浮かせて移動できるが、随伴兵と離れてしまう。それに浮かんでいる戦車は狙われやすい上に、一番弱い戦車の底面が見えてしまう。


 さっそく2台の戦車の動きが変わった。来た谷を見つけ出したようだ。丘陵地帯から盆地に出ると、残りの戦車隊を追いかけるように丘陵地帯へと入っていった。


「この作戦のために装甲を厚くしといたのは成功だったな」


「動きがドンくさいのがな」


「まぁな」


 ダルカルムの指摘は正しい。が、弱い敵を蹂躙するには、分厚い装甲。そうダニエマルカムの考えだった。自分たちの攻撃が通じないというのは、精神的なダメージがでかい。


「自殺攻撃してきたときは驚きましたが、例の黒鱗騎士軍団だったようですね」


 ハリカムが会話に参加してきた。


「ああ。少しはまともな奴らだったようだな」


 ダニエマルカムもだが、彼の部下も人を殺すのが好きなわけではない。


「王国の攻撃ですが、有効なのは兵士相手のみのようですな」


「だな」


 もう午後に入ってしばらくたった。

 夜の暗闇の中、入り組んだ地形で探し物をするのはまっぴらだ。


『将軍』


『はっ!』


 返事が早い。


『索敵陣形を維持しつつ、もう少し早く進撃できないか? 夜になる前に国王を見つけ出したい』


『兵士部隊が遅れているようです。随伴兵のみで進撃すれば早くなるかと』


 どうやら将軍も夜までに作戦を終了させたいようだ。


『それで行ってくれ』


 眼下の戦場から4台の戦車が離脱した。先の2台の戦車を残して。


 王国軍が敵ながらあっぱれとも言えるような攻撃を仕掛けてきたが、大勢には影響がない。兵士部隊には敵の地下陣地攻略を命じて、戦車部隊による進撃を優先させた。


 * * *


「おい、あの攻撃はなんだ?!」


 ダルカルムが驚いたのは、戦車への包囲攻撃だった。


 まさに罠にはめられたとしか言いようがない。目の前の丘だけでなく、通り過ぎた丘からも攻撃が降り注いだ。戦車は前からの攻撃には強いが、全方向から集中攻撃を食らうことは考えられてない。結界が割られていく。


「おい、あの武器はなんだ?」


 ダルカルムが目ざとく見つけたのは、数人が手に持っている槍のような武器だ。あれで戦車に突撃するのか?


 単なるバカの突撃としか見えないが、嫌な予感がする。


 その中の一人が結界に槍を突き立てると、爆発が起きた。

 次々と爆発が起きて結界が破壊され、とうとう戦車でも爆発が起きた。


「ありゃ俺たちの結界破壊弾と同じだ」


「みりゃわかるが、あんなの見たことねぇぞ」


「作ったんだろ、自分たちで」


「自作ってか? そんなの作れるのか?!」


 確かに地球製とは思えない雑な作りだ。うちらが使っている結界破壊砲弾と同じ効果なのだから、女神が王国に教えたとしても不思議ではない。だが、しかしだ。原理を知っただけで作れるものなのか?


「あれを自作できるとなると問題だな」


「戦車を引き換えさせますか?」


 ハリカムが聞いてきた。


 それが一番の安全策だ。戦車への対抗策が無尽蔵にあるとなると戦術を変える必要がある。だが、それは今の目標をあきらめるということでもある。


 ダニエマルカムが逡巡している間に、またも集中攻撃が起きた。

 今度は成形弾も混じっている。不味い。このままでは戦車4台は全滅だ。


「まずは戦車の援護だ!」


 とにかく目の前の問題を解決する。


「岩石弾の準備! 敵の陣地を確認後、発射する」


「敵陣地2か所を確定したぜ! 攻撃班」


 ダルカルムが叫んだ。


「よし、発射!」


 巡洋艦から岩石弾2発が落ちていった。

 丘の中腹に命中し、陣地が潰れた。


「よし。次、準備」


 淡々と作業が進んでいく。


「あ!」


 ダルカルムが、ちょっと間の抜けた声を上げた。


「結界を張りやがった。あいつらバカだぜ」


 ダニエマルカムにも結界が見えた。


「これで12か所、確定だぜ」


 舌なめずりをするような声でダルカルムが報告してきた。


 まさかの敵の失敗だ。ただ、思っていた以上に敵陣地が多いのが問題だった。アッカムがいないので連射が難しいのだ。まぁいい。一か所ずつ潰すだけだ。


「岩石弾の準備、どうだ?」


「いつでも発射できますぞ」


 その返事が終わると同時に、艦橋が小さく震えた。


「なんだ?」


「熱光線攻撃? みたいな?」


 珍しくダルカルムが弱気だ。レーザーは見えない場合があるので確信がないのか。


「いや、光線跡みつけたぜ。敵の熱光線だ」


「対閃光結界、展開します…… 展開、完了しました」


 ダニエマルカムが命令を出す前に、ハリカムは結界を展開し終わっていた。


「よし! 敵陣地の発見いそげ。見つけ次第、岩石弾発射!」


 今は監視と攻撃はダルカルム一人で担当している。負担は大きいが、発見から攻撃まで時間がかからないのは利点だ。心配なのは監視隊の目がレーザーで焼き切れらないように祈るだけだ。


「ダニー、見つけたぜ」


 そう言うと、すでにダルカルムは岩石弾を発射していた。今までは真下への投下のような軌道だったが、今度は少し離れた丘への投射だ。


 岩石弾は、いきなり出現した3枚の多重結界によって阻まれた。最初の一枚は抜けても、次の結界までは破壊できない。岩石弾2発では、足りなさそうだ。だが…


「あの結界は、サルマン国王のものでしょうな」


 随分と冷静なハリカムの報告だ。


 ああ、俺もそう思うぜ。

 ダニエマルカムは興奮を抑えるのに苦労した。


「目標は左前方3㎞。あっちが本命だ」


 ダニエマルカムは地上にいる全戦車を集合するよう命令を発した。

 ゆっくりと巡洋艦が王様の隠れる丘陵地帯へと動き出した。


 いよいよ総攻撃だ。


「よう王様。いつまでも隠れてられると思うなよ」


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