第51話 王国軍、突撃
エルダイズ王国が強いのは、ガルドとザイールの二人で作り出す黒鱗騎士がいるからだ。痛みを感じず、矢や槍で突かれたぐらいでは戦闘力が落ちない黒鱗騎士が密集陣形の周囲を守るのだ。
さらにサルマネン国王が自ら結界を作り出せるのも大きい。結界を作るには大きくて重い結界発生装置が必要になる。足場の悪い戦場で結界を張りながら動き回るのは難しい。だが国王が結界を張る王国軍は機動力で敵を上回れたのだ。
これがエルダイズ王国が南大陸で無敗を誇った理由だった。
だが、一か月前の帝国軍との会敵では、王国の強みが総崩れにあった。魔法阻害の矢を打ち込まれ、気が付けば自慢の黒鱗騎士たちが無力化されたのだ。さらに自慢の結界も相手の結界破壊弾により破られ、王国にとって初めての負け戦を喫してしまったのだった。
だが敗戦からは学べばよいのだ。
黒鱗騎士軍団は「盾」を持つことになった。大きな盾で敵の矢と槍を防ぐことを第一に考えたのだ。今までの二本の大剣に比べれば攻撃力は落ちてしまうが、もともと攻撃力は高いので問題はない。
結界については破られることを前提に、すぐに張りなおすことで対応する。そのため結界装置に魔力を供給するための結界担当を倍に増やした。
そして残っていた恒星間通信装置から取り出した浮揚カートを15台、またタビ―貿易からも浮遊バージを数台ほど提供してもらった。これに結界発生装置を乗せることで移動スピードも上がった。
この陣形で15隊を用意し、三角形の隊形に整えた。
その隊形を保ったまま、敵の司令塔にめがけて突っ込むのだ。
三角形の頂点はサルマン国王のいる密集陣形だ。王国の存亡をかけた戦いということであり、エルダイズ軍の意気を大いに上げることができた。一方、国王のいる陣形が崩れたら負けである。当然、帝国軍は国王のいる陣形に対して猛攻撃を加えてきた。
国王は、ちらっと上を見上げた。
「メグ、見えるか?」
呼ばれたメグは、戦場の上空300mほどを浮遊していた。
「きれいな三角形が見えるわ」
メグは答えると同時に国王と視覚共有を始めた。これでメグが見える景色が、国王にも見えるわけだ。さらに視覚はガルドやザイールといった賢者たちや王国参謀にも視覚共有することで戦場の状態を伝えることになっていた。
「こりゃいいな」
ガルドが感嘆とともに念話を送ってきた。
「まさに戦争での革命であるな。これが一か月前の会戦があれば」
ザイールも会話に入ってきた。
「何をのんびりと会話しているの!」
怒り心頭といった風情で会話に入り込んできたのはルミナスだった。
彼女の魔法部隊は射撃部隊も兼ねることになったのだ。魔法の射出と銃の扱いとが似ているということで、魔法部隊が銃やりゅう弾砲を扱うことになったのだ。
クロクムス軍の三角隊形の中央に魔法部隊が陣取り、敵への長距離攻撃を行うとともに敵の砲撃を狙撃銃で打ち落とすのだ。だが、その間にも敵からの砲撃が降り注いでくる。砲弾から守るために結界を張っていては、攻撃ができない。攻撃魔法を扱える隊員と結界を張れる隊員を組ませて、攻撃する一瞬だけ結界を解くことで攻撃と防御を両立していた。
まだ敵軍との接触は始まったばかりで地上での戦闘はおとなしいと言えたが、その代わりにりゅう弾による激しい砲撃が敵から撃ち込まれていた。ルミナスの部隊は、すでに大忙しだったのだ。
「メグ! 敵の砲撃部隊の位置を教えて!」
ルミナスから怒号のような念話が入った。
「了解!」
メグは敵の陣形をじっくりと観察した。
ざっくりと言えば、味方から見て逆T字のように敵は展開していた。縦棒が短いので、凸に近いかもしれない。敵の司令塔は縦列陣形の一番奥に位置していた。こちらの突撃を予想して、防御を固めてきたのだろう。
砲撃隊は縦列陣形の中心部分に陣取っているようだった。前に出る舞台ではないので、ここで間違いないだろう。
「距離にして3.4㎞、方位0-1-5です」
冷静な念話が入ってきた。
視覚を共有しているのは、もう一人いた。
いや、もう一台だ。
カグヤN105号に憑依したカグ君だ。
人工知能による最新式の自律型飛行艇に、妖精が憑依したことで人間と念話できるようになったのだ。
メグ、サルマン国王、そしてルミナスにつけてある位置測定装置とメグからの視覚情報、さらに何台か飛ばしているドローンからの映像を解析することで敵の正確な位置を測定できる。それを念話で伝えるのがカグ君の役割だった。
「了解! 砲撃を開始する。着弾位置を確認よろしく、メグ!」
そういうが早いか、何発かの榴弾が三角形の中央部から放たれた。さらに真っ赤な爆炎弾がその後ろを追いかけていった。
砲弾により敵の結界を破ったところに爆炎弾が着弾して、激しい爆発を引き起こしたのがメグの視界に入ってきた。
「命中! 少し右にずれたかな」
メグから報告が来た。
それを聞くと、サルマン国王が大きく右手を振り上げて叫んだ。
「敵に大打撃!」
その音声は広報官により強化されて戦場に響いた。
戦闘開始から結界発生装置の上で仁王立ちしている国王は、敵からも良く見える。彼を落とせば戦争は終わるのだから、敵からの攻撃が集中する。だが、それがこの布陣の目的だった。国王がいる密集陣形に攻撃を集中させることで、後方の魔法部隊が遠距離攻撃できるようになるのだ。
敵の攻撃を防いでいるのは三重とも言える結界だ。通常は一台の結界発生装置だが、戦闘陣形には三台が置かれていた。一枚が割られても次から次に結界を張りなおす。結界に魔力を供給しているのは防御担当の兵士だけでなく、いざとなれば四賢者のガルドとザイールも魔力を供給することになっていた。
そのうえに国王自らが結界を張っていた。
彼の結界はメグから教わった最新方式だ。結界破壊砲弾への対策として小さな6角形の小さな結界を組み合わせるものだ。
これにより小さな結界が破られても全体の結界は保ったままでいられる。攻撃を通すには、破られた小さな結界部分に命中させる必要がある。メグによれば、この方式なら今までの10倍ぐらいの攻撃に耐えられるはずだそうだ。
こうなると敵の攻撃は結界を避けて、地上戦が主軸となる。
これに関しても前回の失敗を踏まえて対策済みであった。
黒鱗騎士に盾を持たせて防御面を向上させるだけでなく、二重に配置した。前線の黒鱗騎士の動きが鈍くなると、すぐに後ろの黒鱗騎士と交代して戦闘を継続するのだ。
動けなくなった足や手から矢などを抜くと、しばらくすれば元の動きに戻る。黒鱗騎士と呼んでいるが、中身は泥人形なのだ。魔法阻害薬が混じった泥さえ排出してしまえば、また動き出せるのだ。
こうして、敵の苛烈な攻撃を防ぐことができるようになったのである。
メグからは着弾点が少しずれたと報告があったが、明らかに敵の砲撃が緩んだのをサルマン国王は感じていた。これが勝機だと。
「遠距離攻撃による追撃を行いつつ前進する! 」
今度は広報官ではなく通信兵を使って全密集陣形に伝達した。
目標は敵司令部だ。帝国軍は5万と言うが、半分以上は兵站部隊だ。さらに実戦経験のある精鋭部隊はさらに少ないはずだ。数でも大きく見劣るものではないのだ。
そう自分に言い聞かせると、国王は自軍を鼓舞し続けた。




