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第50話 ロナウスバレー

 サルマン国王がクロクムスの侵入軍との決戦の地に選んだのはロナウスバレーだった。エルダイズ王国と南方諸国との国境に近い場所にあり、バレー()と名前がついているが、四方を低山に囲まれた盆地のような場所だ。


 ロナウスバレーからさらに南に進むと、難攻不落と呼ばれるエルディアス砦へと通じる。万が一、平地での決戦で敗れそうになっても、砦に逃げ込むことで少しは時間稼ぎができるはずだ。


 サルマン国王は、砦へと続く道をふさぐ形で約2万の自軍を展開させた。ここで首都から南下してきた帝国軍を迎え撃つのだ。


 国王が布陣を完了したころ、クロクムス軍が盆地へと進入してきた。

 先遣隊は急襲に備えるため、盆地に入ると即座に展開した。そのあと少ししてから残りの軍隊が侵入してきた。約5万の軍隊だ。


 最後にクロクムスの大将が乗っていると思われる大きな山車のような乗り物が到着した。格好良く言えば、軍艦の艦橋のようにもみえる。何にしても、10メートルはある高さは、戦況を確認するにはうってつけだろう。


「やはり敵さんの布陣が完了する前に叩くほうがよかったのでは?」


 ザイールが国王に聞いた。

 一か月前の敗戦を考えてるのだ。


「計画通り、相手の大将を引っ張り出す。そのため今は待つ」


 サルマン国王が冷静に答えた。


 予想した通り、帝国軍は戦車を使ってこなかった。

 もし戦車が現れていた場合は、裏に広がる丘陵地帯へ誘いこむ計画だった。


 これなら計画通りに勧められる。


 ただザイールの言い分も理解できる。何も相手に陣形を整える時間を与えることはない。


 このタイミングでよいだろう。


 サルマン国王はそう思うと、自らの陣形からゆっくりと歩み出て、クロクムス軍へと向かった。随行しているのはザイールと数名の広報官だけである。


 そして国王は大声で宣言した。

「我が名はサルマン。エルダイズ王国の国王である!」


 すぐ横にいた広報官は国王の言葉を強化した上で、この戦場にいる全員に国王の声を届けた。自らおこした風に思念を乗せるのだ。


 サルマン国王は続けた。

「そして問う! 布告もなく王都を占拠し、未だに我が王国を蹂躙する賊の名はなんぞや?」


 ここで少し間を開けた。

 敵方の反応を見るためである。


 想像した通り返事は来なかったので、さらに続けた。


「さらに問う。この侵略を行う義はいかにあるのか! 無ければ、この場から立ち去るがよい!」


 こう言い切ると、エルダイズ軍から大きな歓声が上がった。

 国王は右手を挙げて歓声にこたえると、敵からの返答を待つことにした。


 * * *


 サルマン国王が名乗りをあげたとき、エルダイズ討伐軍を率いるキリアムス皇子とヤールイコ将軍は討伐軍司令塔に詰めていた。司令塔には参謀としてマグザールのダニエマルカムとその腹心5名も一緒だった。


 敵方の名乗りを聞いたとき、キリアムス皇子は不思議そうな表情でヤールイコ将軍を見た。


 一方、ヤールイコ将軍も、いきなりの名乗りの目的を測りかねていた。


「返事として一発お見舞いするのもありだと思いますがね…」


 将軍の返事を聞いた皇子は、今度はダニエマルカムの顔をうかがった。参謀としての意見を聞きたかったのだ。


「私は軍事参謀なのでね。政治には疎いのですよ」


 ダニエマルカムは肩をすくめて、ごまかした。エルダイズ王国側の意図を読みかねていたからだ。数的不利な相手が、広い盆地を最終決戦に選んだことが理解できなかったのだ。自分だったら夜襲で輸送路を寸断して相手を弱らせてから戦う。


「王国軍は想定外の行動をとってますな。自分なら展開する前に急襲するでしょうな」


 わざわざ敵軍が展開するまで待つ必要などないのだ。

 となると…


「もし私が不利な状況で戦うなら、敵トップを狙うでしょう。つまりキリアムス皇子ですね」


 参謀らしい分析だった。


 ヤールイコ将軍が質問した。


「つまり返事をさせることで我々の位置を特定するのか? そんなことが可能なのか?」


 相変わらずダニエマルカムは退屈そうに返答した。


「それは分かりませんが、この戦場にいるのは確認できるでしょうな」


 これ以上は考えても無駄そうだと将軍は判断した。


「どうされますか、皇子?」


 キリアムス皇子は答えを決めていた。


「敵と味方の全員に響き渡ったのだ。ここで答えなければ逃げたと思われる。位置が特定されても何も出来まい。返事をする」


 将軍が叫んだ。


「通信兵、ここへ!」


 クロクムス討伐軍の通信兵も、王国軍と同じく戦場全域に皇子の声を行き渡らせることができる。


 司令塔の中から、皇子が大声で返事をした。


「我が名はキリアムス皇子。クロクムス国の第一皇子である」


 その声が響き渡ると、クロクムス軍から大歓声が起こった。


「わが祖国、エルダイズ王国においては食料不足を克服した。貧しかった北大陸を豊かな土地となり人々は祖国への忠誠心に満ち溢れた。この戦いは、圧政に苦しむエルダイズ王国民を救うことである。今すぐ投稿し我が帝国の下に集うがよい!」


 キリアムス皇子が言い終わると、サルマン国王から反応があった。


「笑止。すでに10年前の大干ばつと大嵐による傷は癒え、小麦も毎年のように実りを迎え、美味いフルーツにも民は満足しておる。北の蛮族は、南大陸の豊かな小麦の土地が欲しくてたまらないとみえる」


 サルマン国王は右手を大きく上げると、司令塔を指さした。


「これをもって会戦を開始する!」


 サルマン国王が戦争を宣言すると、国王の足元にある土地が浮き上がった。土の中に浮遊バージを隠していたのだ。


 即座に国王を守るために王国親衛隊100名が本隊から移動してきた。


 サルマン国王は、まず結界を張った。地上から3メートルほどの高さに屋根のような結界が出現した。結界の半径は50メートルほど。この下なら敵の矢や爆炎弾の心配をしなくても大丈夫である。


 国王の横には、いつの間にか横には土の賢者ザイールが立っていた。


 ザイールは、懐から小さな宝石のような玉を取り出すと、周りにばらまいた。すると玉からは屈強な黒鱗騎士が起き上がってきた。これがザイールとガルドが作り上げた黒鱗騎士の元だ。中に込めた魔力と周りの土を使って、黒鱗騎士を作り出すことができる。


 またたく間にサルマン国王とザイールの周りを100体ほどの黒鱗騎士が囲んでいた。彼らが防御と攻撃を担当する。


 結界を張れる術士あるいは結界発生装置を中心にして、数百名の騎士が一つの陣形を作る。さらに周囲は屈強な黒燐騎士が防御する。古代ギリシャで見られたファランクス密集隊形みたいな陣形だ。これが王国の戦い方だった。


 国王の後方では密集隊形の部隊が次々と立ち上がっていた。

 全部で12隊。これで敵の頭を叩く。


「女神の加護とともに!」


 サルマン国王が叫んだ。

 広報官も、今まで以上に音声を強化し、国王の声が咆哮のように戦場に鳴り響いた。


 エルダイズ王国の全軍団も叫んだ。


「女神の加護とともに!」


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