第46話 女神装備
いつのまにか航海士が新しい箱をいくつか運び出していた。
「残りは備品と、メグ嬢専用の装備っすね」
艦長がメグを見た。
「あー、保護管理局一式装備ってやつだな。あれは、ポッドの中で装着するのがいいな。どれ、俺が一緒に説明してやるよ」
「艦長、手出しちゃまずいっすよ」
「おいおい、俺は女子供には紳士なんだぜ」
「知ってますけどね」
「その間、備品の説明を頼んだぜ」
「了解っす、お頭」
艦長とメグはポッドの中に入っていった。やはり中のほうがポッドより広い。
広いポッドの中には色々な箱や装備が所狭しと並べられていた。その内のひとつに「保護管理局」と書いてある一つの箱を艦長は取り出した。
「あぁ、こいつだ。この説明書を読んだら、あっちの部屋で装着してくれ。終わったら声をかけてくれや。ちゃんと装着できたかチェックしなくちゃいけねぇんだ」
箱を受け取ったメグは、あっちの部屋に入ってみた。要するに操縦席の後ろにある区切られた一角だった。説明書を読むと、一式装備は地肌に装着する必要があるようだ。なるほど周りの目が届かない部屋を用意してくれてたのだった。
服を脱いで小さなランドセルのような鞄を背中に、ネックレスを首に、そして手と足にはリングをそれぞれ装着した。また服を着ると、一式装備を装着してるとは誰も思わないぐらい目立たない装備だった。
「装着したわよ」
メグが部屋から出ると、艦長は暇そうに一式のマニュアルを読んでいた。
「おう。じゃ、チェックだ。一つ一つ、確認するぜ」
普段は目立たない一式装備だが、実装すると鎧のように体を覆う。万が一、装着方法を間違っていると、最悪は身体を切断してしまう場合があるらしい。そのために、チェックは一人で行わないという規則になっていたという話だ。
ネクライス艦長は、足、手、背中、そして首と順々に装備の確認を始めた。そんな間にも艦長のおしゃべりは止まらずメグに話しかけてきた。
「さっき女神装備は初めて装着するって言ってたな。もしかして新人か?」
「いえ、実は派遣なんです」
「ほー、それがレッド案件にぶち込まれたのか」
「派遣元の恒星通信局の仕事で、この星に来てたんですよ。そしたら侵略騒動に巻き込まれてしまって」
「恒星通信局か… うーむ」
というとネクライス艦長は黙り込んでしまった。
妙な沈黙というか間のあと、艦長がぼそりとつぶやいた。
「なるほどな。じゃ、戻れねぇかもな」
想定外の言葉に、メグは言葉が出なかった。
「いやな、ここだけの話だが通信局はつぶされるって話だぜ」
そしてメグの頭が弾けそうになった。
「新しい通信装置ができてな。誰でもメンテできるようになったので、保護局や俺らの支店を使って通信ネットワークを作ろうってな。そういう話が入ってるんだよ」
もう艦長の言葉は、半分も頭に入ってこなかった。
なのでメグは、一つだけ大事なことを聞いた。
「つまり、もう、派遣元に戻れないと…?」
艦長がうなづいた。
「多分、な…」
メグは血の気が引いた。
動転しているメグのことなど気にも留めず、ネクライス館長は女神装備の確認を続けた。
「よしっ! 装着完了」
艦長の後をふらふらとついていくようにしてメグはポッドから出た。
ポッドの外は相変わらず良い天気でまぶしい日の光が降り注いでいた。
艦長とメグがポッドの中にいる間、航海士は個人用物理結界、いわゆる個人用シールド装置や、回復カートリッジなどの説明をしていた。
「おう、終わったか?」
艦長の質問に、航海士は自信満々に頷いた。
「艦長も早いですね。こっちは完全にマスターしました、ですね」
艦長が大賢者たちにチラリと目を配ったが、全員が難しそうな顔をしている。
航海士が言い足した。
「おっと間違えた。マスターしたのはマニュアルの使い方で。それぞれの箱についているカートリッジと同期すれば、何度でも使い方が見れるので問題なしです」
艦長も航海士の言葉には
「まぁ、当然だよな」
と頷いていた。
「で、こっちのマニュアルは教えたのか?」
艦長が示したのは、小さな箱だった。
「あ、これからです…」
航海士が小さな箱を取り上げた。
よくみると、何かの教習マニュアルだ。
「まずは、こっちの戦術マニュアルをしっかり理解してほしい。どうやって銃を使って戦うのか、実戦での軍の運用方法がまとまっている」
話を聞いていると、箱についてるマニュアルより、こっちのほうが重要そうだ。
艦長が声を張り上げた。
「ここにいる国王や大賢者は、まず銃を使った戦い方をしっかり理解してくれや。まさかと思うが、銃を持って平地で合戦するとか考えてるんじゃねぇだろうな」
サルマン国王が頷いて答えた。
「帝国との最初は平原での合戦だったな。ほぼ同数の2万の軍隊で挑んだが、勝負にならなかったよ」
艦長の顔がゆがんだ。
「剣と鎧なら、それもありだがな。敵も銃を使うとなら、大量に死人がでるぜ」
ルミナスが手を挙げて、質問した。
「要は敵全員が魔法兵と考えるということか?」
艦長が「そうだ」と頷いた。。
「それなら分かりやすいな。魔法を打ち込まれないよう結界を使って、抗魔法領域を展開しながら近づいて進むのと同じだな」
「だが相手もこっちも、対結界弾がある。つまり結界は使えない。そして抗魔法領域は銃には効かない。なら、どうする?」
艦長がルミナスに質問を返した。
ルミナスは少し考えてから返事した。
「何かに隠れながら戦うかな」
「そうなるよな」
艦長が小さな箱を叩いた。
「ということで、こっちもしっかり理解してくれや。敵ならまだしも、こっち側の被害は少ないほうがいいからな」
「わかった。最初に軍隊の編成と戦略について学ぼう」
サルマン国王が答えた。
一緒にいる大賢者たちも、しっかりと頷いた。
* * *
少しの沈黙のあと、ガルドが手を挙げた。
「あの~、さっきの専用装備ってのは、装着できたのかい?」
ザイールも
「女神装備であったな。ぜひ見たいのである」
と言い出した。
メグは聞こえないふりをした。
だが艦長が、メグの肩をポンと叩いた。
「せっかくだから見せてやんなよ」
本当は見せたくなかったのだが…
「仕方ないわね…」
そして続いた「顕現!」という言葉とともに、メグの体が光に覆われた。
光が収まると、メグの上半身は純白の鎧、膝から下の足は銀色の金属で覆われていた。よく見ると、細かな意匠が施されていた。見る者に美しさを感じさせると同時に、力強さも兼ね備えたデザインだった。
「おぉ、すげぇな」
ガルドが声を漏らした。
「これは美しいだけでなく強そうだな。我が王国の騎士団のデザインに使いたいぐらいだ」
サルマン国王も、しきりに頷いていた。
一方のメグには、みんなの目線が痛く感じた。
ちょっと派手にすぎる。
だがメグは気が付いた。自分が恐れていたのはみんなの期待だったことを。そしてメグ自身は派遣の速場でたまたま遭遇した事件であり、これが終われば元の職場に戻ると軽く考えていたのだと。
でも、もう帰る職場はない。
女神局の一員として、しっかりと考えないといけない。
「右手の武器選択ボタンを押してみな」
艦長に言われるまま、最初のボタンを押した。
すると、何もないところから大きな剣が右手に出現した。
「武器も選んで顕現できるぜ」
大賢者たちが盛り上がるにつれて、メグは少しずつ気分が落ち着いた。
やっぱり、この人たちと一緒に戦って勝利したい。そう思えた。




