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第43話 カグヤ号

 昼飯が終わってからメグ、ガルド、そしてザイールの三人はカグヤ号へ移動した。歩いて30分もかからない距離なので、食後の良い運動である。


「カグヤ、魔力析出装置をオンにして」


 三人が艦橋に入ると、まずメグが指示を出した。


「了解です」


 カグヤ号の返事が艦橋のスピーカーを通して帰ってきた。カグヤは念話ができないので、ガルドとザイールとは話せないのが残念だ。だから返事はメグが通訳する必要がある。


 通訳というと大変そうだが、カグヤの言葉をそのまま繰り返すだけで音声に思念が載るので楽である。これで3人プラス一隻で会話になる。


「おー、魔力がみなぎってきたな」


 ガルドが嬉しそうだ。


「わざわざ装置を起動していただいてありがたいのである。が、今の我々には必要はないので少しもったいない気がするのである」


「ザイール、気にしないで。どうせルミナスが泊まってくから。今晩は魔法部隊も一緒かな」


「なるほど、ここなら魔力の回復しながら何度も訓練も繰り返せるのであるな。ルミナス殿なら限界まで訓練しそうなのである」


「ほんと便利よね。この装置があるから一人でこの星まで来れたのよね」


 そしてメグは艦長席の前に鎮座している魔力析出装置をポンと叩いた。


 オリオン特異星域を単独で飛行するなど、この装置なしでは危険とみなされていたのだ。万が一、魔力を使い切ったら、魔力が戻らない可能性が高いからだ。


「一応、秘密の装置だから口外禁止はまもってね」


 とメグは言ったものの、保護管理局の派遣社員であるメグが使ってるのだ。もう最高機密情報ではないだろう。あと少しすれば、あちこちで使われるようになるはず、というのがメグの考えだった。


 そのとき、メグはガルドの目線がきょろきょろしてるのに気が付いた。


「ガルド、どうしたの? 挙動不審になってるわよ」


 ガルドが苦笑いした。


「なんかお願いでもあるの?」


「ああ…」


 ガルドが何かを言いかけたところで、言葉が切れた。

 そんなに言い出しにくいことでもあるのだろうか?


「確かにお願いがあるんだ」


 ほんとに、お願いだった。

 なんでも自分一人でやりたがるガルドが頼むなんて珍しい。


 メグは頷いて話を聞くことにした。


「実は俺からではなくてな、微精霊が憑依したいと煩いんだな」


「え? 憑依? 何の話?」


 何を言われているのかよく分からない。

 ザイールが質問した。


「ガルド殿、それは珍しい。だが何に憑依したいと言っているのであるか?」


「この船だそうだ。正確には艦橋にあるAIや魔力析出装置かもしれん。自分も正確にはわからん」


 メグは困ってしまった。


「そんなこと急に言われても判断できないじゃない」


「だよな。実はな、析出装置をオンにしたときから微精霊が自分から召喚してきててな。いや呼んでないので召喚じゃないんだが… とにかく勝手に船に憑依するわけにはいかないのでメグ殿から許可が欲しいらしい」


「は念話ができる微精霊であるな。それは珍しい。しかも許可が欲しいとは、精霊というより妖精なのではないか」


「確かに人間と社会生活の経験がありそうだな」


 妖精? 精霊と何か違うの?


 メグは頭を振って、今の疑問を頭から振り払った。

 違いなど今は重要じゃない。


 さて、どうしよう? と考えたがよくわからない。

 なので、いつものようにカグヤに聞いてみることにした。


「ねぇカグヤ、あなたに憑依したい精霊か妖精さんがいるって。どうする?」


「え? 今なんて? 憑依する対象として本船を選ぶのですか?」


 AIには感情がないはずだが、たぶんカグヤは驚いたのだと思う。


「規定によると、本船の破損または許可のない改造は違反になります。ですので憑依による破損がなく芽上船長の許可があれば違反ではありません」


「私が許可すればできると。そうねぇ、話せるということは考えることができるのよね。つまり自律する船になるってことよね。やってみたい気がするけど… ガルドは憑依させたらどうなるかわかる?」


「話せる精霊をしゃべる機械に憑依させたことがないからなんとも言えんな。だが少なくとも何かを壊すなんてことはないとは言える」


「例えば船を乗っ取ったりとかできちゃうのかな?」


「それはないだろうな。憑依するときに約束をするからな」


 え、何それ!?


「契約みたいな感じ!?」


「そんな大層なことじゃないがな。人間と違って精霊って単純なんだ。羽を広げて飛びたいとか、矢になって的に当たってみたいとかだな。この精霊は… 人と話がしたい、というか一緒にいたいらしい。なら必ずメグの命令は守るはずだ」


「そうなの。じゃ試してみようかな。カグヤ、精霊を憑依させてみるけど大丈夫ね?」


「はい、芽上船長の判断に従います」


「じゃ、ガルド。憑依やってみよう!」


 ということでガルドの指示に従って微精霊の憑依を進めることにした。

 ガルドによると、まず憑依する対象に自分の魔力を張り巡らすとのこと。そこにメグの許可を受けた精霊が憑依することで契約が完了するのだそうだ。


 メグが魔力をカグヤ号に染み渡らせたところで、ガルドの詠唱が始まった。


「アラカルの星にただずむ精霊に

 求めるは古き眷属のものなり

 その力の一助を借りて

 このものと供に歩みたまえ…」


 何度か詠唱を繰り返したところで、カグヤ号に精霊が憑依した。

 なぜわかったかというと、メグ、ガルド、そしてザイールの頭の中に思念が入ってきたのだ。


『私はカグヤN型105番艦…』


 カグヤからの念話だ。


『…に憑依した精霊。差し支えなければナギとお呼びください』


 ザイールが驚いたらしく口笛を鳴らした。


「自分から名前を名乗るのであるか」


「俺も驚いたぜ」


「えぇと、ナギさん? 私の声は聞こえるかしら?」


『はい、メグさん。聞こえます。日本語と英語なら理解できます。ただ音声の思念を感じることはできないようです。できれば念話を主体にお願いします』


「発声は?」


 ガルドの質問に『こちらも無理のようですね』とスピーカーから日本語で返事が返ってきた。残念ながら音声に思念は載っていなかったので、念話が必要になった。


『スピーカーとマイクの電気信号へ干渉することで音声による会話が可能になると思います。少しお時間をください』


 * * *


 このあと三人とナギの4名で1時間ほど話し合ったが、これといった結論は出なかった。球体関節などアイディアは出たのだが、今から作りこむには複雑すぎたのだ。


『黒燐騎士に盾を持たせるのが最適、というのが結論だな』


 疲れ切ったガルドがこぼした思念の愚痴に、ザイールも賛成した。


『そう考えるしかないですね』


 そうして、思念による会話が途切れた時、ナギから思いがけない報告がきた。


『音声による思念会話ができるようになりました』


「もうできたの! 早いじゃない!」


「そりゃありがたいぜ」


「ガルドとは思えない言葉遣いが聞けて楽しかったのであるが、それも終わりであるな」


 ザイールの言葉にガルドは苦笑いした。

 思念で話すと、なぜか口調が丁寧になってしまうのだ。


「話すほうはどうなの、ナギ?」


 メグの質問には思念で返事がきた。


『マイクの電流制御に苦労しています。練習が足りてないのかもしれませんが』


「じゃあ、これからはナギは思念で話しかけるということで、オッケー!」


『それでお願いします』


 煮詰まっていた話し合いだったので、ちょうどよい気分転換になった。

 そんなことを思ってメグは提案してみた。


「黒燐騎士の改善じゃなくて、ぜんぜん違うことを考えてみない?」


 ザイールがさっそく提案にのってきた。


「ふむ、例えばどんなことであるかな?」


 ガルドが頭の後ろで手を組んで天井を見上げると…


「そうだな… 前から聞いてみたかったことがあるんだ。帝国軍が俺たちの結界を簡単に破壊しただろ? ありゃ、どうなってるんだ?」


「あれは成形炸薬弾というのを使ってるはず」


 メグは即答した。

 だって大学の授業で最初に学ぶことだから。


「なんだそりゃ?」


「えっと… ナギちゃん、解説お願い!」


 すると艦橋のスクリーンに成形炸薬弾の構造が表示された。


『爆薬を漏斗状に成型してから爆発させると、内側の金属が爆発圧で噴出します。この圧力により結界を効率的に破壊することが発見されました』


 ナギはびっくりするほど物知りなのだ。

 というかAIの知識を使いこなしているようだ。


「びっくりするほど構造は単純だな」


「どうやって爆発させるのであるか?」


「この信管という部品を使うはず。ナギ、信管を調べて」


 ナギはすかさず信管の構造図を表示した。


「うーむ…」


「こっちは複雑だな…」


「そもそも、爆発のタイミングをどうあわせるのか…」


「うーん、ねぇカグヤ、なんか魔法を使った方法はないの?」


 メグの質問に、カグヤ号から意外な答えが返ってきた。


『開示の条件を満たしていない可能性があります』


「あー、なるほどね。管理局の権限により、結界を破壊するための情報の開示を許可します」


「了解しました」


 というやり取りの後、今度は魔道具を利用した図が出てきた。

 こっちが結界破壊弾と呼ばれる方式に近い。


「さらに単純になったな!」


 ガルドの意見は、もっともだ。

 それはメグも思った。


「起爆は魔力を流し込むだけだからであろうな。だが爆裂魔法の魔道具が必要である。こちらは情報開示は可能であるか?」


 問題ないようだ。

 カグヤ号は爆裂魔法の魔法陣構成図を表示してくれた。


 だが…


「これは、すぐには無理だな」


「であるな。黒燐騎士の魔法陣とは複雑さが違うのである」


 メグも魔法陣を一目見て無理だと思った。


 これはカグヤ号にある3Dプリンターですら作るのは難しそうだった。作れても巨大化してしまう。おそらくレーザー加工ぐらい微細じゃないと爆弾に使うのは無理だろう。


 さてどうするか。


「ナギ、何か簡単に実現する方法を探せない?」


『そうですね、ちょっと検索してみます… はい、いくつか見つかりました。過去に火薬を自作した事例はいくつも見つかりました。また信管として魔力を使って発火させる方法も見つかりました。成形を工夫すれば自作は可能ではないでしょうか?』


 と何個かの資料を示してくれた。


 それから3時間。


 様々な資料を検討して、さらに3Dプリンターで信管結晶サンプルを作った。さらに設計図も何枚か印刷できた。


「ふぅ~、こいつらを研究所に持ち帰って試してみるか」


「それが良いであるな。そろそろ夕食の時間でもある」


 ということで3人はカグヤ号を後にして、神殿の食堂へと向かった。


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