第41話 研究所
サルマン国王たちに射手座星間連合の保護管理局に関する話をしてから二日目。
お昼になったので、メグは昼食に向かっているところだった。
昨日はルミナスの魔法部隊に新しい魔法を教えていた。簡単で威力の高い攻撃魔法と結界を無視して攻撃できる魔法とかだ。
途中、サルマン国王とすれ違った。
昨日もサルマン国王は忙しそうに何度も秘密基地と神殿を行き来していた。国王として射手座連合について確認しなくてはいけないことを、何度も質問してたのだろう。
きっと、サポートしてくれる行政がいないのを恨めしく思っているに違いない。こういう時は役に立つから。
忙しい国王は放っておくことにして、メグはガルドとザイールの研究所に足を運んだ。彼らも、魔力阻害に対抗できる新しい構造を考えているところなのだ。
研究所と言っても、森の木を切り取って作った草地に、掘っ立て小屋があるだけの場所だ。万が一魔法が暴発しても安全なように、少し離れた場所に作ったと言ってた。
小屋の中は乱雑に並べられた机と椅子が数個、そして端には土の塊が積まれてあった。
「お昼だけど、一緒にどう?」
ガルドが顔を上げて、メグを見た。
「もう、そんな時間か」
「ちょうどいいタイミングだし、食事がよいのである」
二人が立ち上がると、メグは上を見上げる感じになった。
二人とも背が高いのである。
「ルミナスたちのほうはどうだい? ずいぶんと熱心だったな」
「もう、かなりいい感じ。新しい魔法が二つも!」
「そりゃ、すごいな。というか一日で二つも教えられるのか?」
メグは、胸を張った。実際、大変だったのだ。
「そりゃ、頑張ったからね。同調っていう方法があるのよ。自分とルミナスの感覚を共有してね、魔法の使い方やコツを直接伝える」
「そんな方法があるのか!」
「えへん! 私の得意分野なんだな」
ガルドとザイールの尊敬のまなざしを受け止めつつも、メグは本音も話した。
「効率はいいけど、そのあとは数時間は気持ち悪くて… 昨晩は何も食べずに寝てました」
ザイールが、ポンと両手をたたいて、
「そういえば二人とも昨晩の夕食で姿を見なかったのは、それが理由であったか」
と、しきりに納得していた。
「でも、一晩寝て気分はすっきり。ルミナスも、新しい魔法の練習で気合が入ってたわ。魔法部隊の人たちも、今日中に完璧に覚えるんだって」
「それでメグの姉貴が一人なのか」
最近、ガルドが「姉貴」と言ってくる。
悪い気はしないのだが、ガルドのほうが年上だ。年上から姉貴と言われるのに微妙に抵抗感があるのは確かだ。
「で、二人の進捗はどう? すごい騎士でも完成したかしら!」
メグの期待感はマックスだった。
そのメグの高すぎる期待に、ガルドとザイールは顔を見合わせて苦笑いをすると、ガルドが状況を説明した。
「それがな、進展してないんだな」
「いわゆる難航している状態であるな」
メグは、大きく息を吐くと、
「しょうがないわね。聞いてあげるから説明して頂戴!」
と二人に聞いた。
ちょっとメグが威張ってる感じがある。
「ひとつひとつ、説明してみるか」
「それが最良であると考える」
「まずは俺だが、妖精を召喚して人形や動物に憑依させることができる。黒鱗騎士を作っているのがザイールで、そいつらに憑依させて軍団を作っている」
「強化炭素で骨格を作り、その周りを柔らかなケイ素の筋肉で覆うことで人間のような動きができるのである。さらに剣や盾を強化炭化ケイ素で作り上げると黒鱗騎士になるのである」
「おれが作ると泥人形、ザイールが作ると黒鱗騎士って言われるんだぜ」
ガルドが大笑いをして説明を加えた。
メグも、この意見には賛成せざるを得なかった。ガルドが下手というより、ザイールの作る人形が精巧かつ格好良いのだ。まぁ才能の違いということで、ガルドのネタになっているぐらいなのだ。
「この黒鱗騎士のいいところは、頑丈な骨格で激しい戦いができるし、壊れにくい。柔らかな土が筋肉のように動くことで人間のように滑らかに動けるんだが…」
ガルドがザイールをちらっと見た。
「恐ろしいところは、要するに土でできているので剣で切られても槍で突かれても平気なところだな。骨さえ壊れなければ、いつまでも戦い続ける」
この続きはザイールが説明した。
「であるので、黒鱗騎士一体で10人の兵士と戦えると言われているのであるが、もし10体の黒鱗騎士がいれば兵士百名では太刀打ちができないのである。これはガルドの召喚する妖精が共同作業ができるのがすごいのである」
どうやら、一体を10人で取り囲むことはできても、10体を一度に百人で取り囲めないからだそうだ。黒鱗騎士が連携して守るので、攻略は難しくなる。ましてや平原や細い通路で黒鱗騎士と相対したら、まず勝てないらしい。
「それが帝国の魔法阻害の薬とやらで逆転されちまった。矢が一本でも腕に打たれたら腕が使えねぇなんてな」
「そこで最初に考えたのが、筋肉を鎧で覆うことである。いや、メグ殿が教えてくれた外骨格のことであるな」
「せっかくだから見てみてくれよ」
ガルドが立ち上がると納屋に入った。
すぐに何か変わったものを持って出てきた。
持ってきたのは、カニのような四本足の外骨格で覆われた体に、人間のような上半身がくっついたモノだった。
「いや、二本足で歩かせるのが難しくてね」
「あれは不思議であるな。なぜ歩けないのか、全く理由がわからないのであった」
「もっとも歩けたとしても問題は出ただろうな」
「大きくすると重くなるのである。そして鎧で覆う人形を大量に作るのは大変なのである」
そんな話をしているとカニのようなモノが机の上を歩き出した。
「こいつは動き回るのが大好きなんだ」
そのあと机から飛び降りようとしたカニさんだったが、地面との高さを感じたのか机の上から降りることはなかった。
「その高さから落ちると、ばらばらになってしまうのである」
メグからクスっと笑いが出た。
地面に降りたくても降りれないようにみえたのだ。
「かわいいわね。そして周りがよく見えてるのね」
最初にカニをみたとき、ちょっと気持ち悪いかもと思っていたメグだったが、こうして動くところを見るとかわいらしく感じるのだから不思議なものだ。
「ガルド殿の召喚する妖精が優秀なのであろうな」
「ザイールの作った人形に憑依できるぞ、って念じると優秀なのが降りて来るのさ」
「二人とも、すごい能力よね」
メグの心からの賛美だったが、かえって二人の顔は曇ってしまった。
「だがな、今のところ試したものは全部だめだったんだ」
ガルドの一言に、ザイールもうなずいた。
「であるな。攻撃も防御もと詰め込むと作るのに時間がかかる。今からだと間に合わないのである」
「黒燐騎士のバランスがよすぎるんだな…」
二人の姿を見て、何かできることはないか考えるメグであった。
「ちょっと船のAI君に聞いてみようかな」
「そのAIっていうのは何であろう?」
「うーん、地球の知識を集めた人工知能。博学というか、雑多な知識が豊富でね、最近の単独航行の宇宙船に載ってることが増えたの。暇つぶしの相手に最高よ」
とはいえ、言葉で説明しようにも船のAIは念話ができない。
文字を表示しても読めない。
意外と面倒だ。
「昼食が終わったら、一緒に船に行ってみない?」
メグの提案にガルドもザイールもすぐに賛成した。
「うむ、昼飯には最適な時間なのであるな」




