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第35話 王女救出

 ブローチを見たときの反応を見れば、メグの目の前にいる女性が本物の王女だという確信が持てた。


 ガルドにみせたときもそうだった。喜びと達成感と、そしてこれで何とかなるという安心感が混ざったような表情と言えばいいだろうか。そして、そんなタイミングで、この星を訪れた偶然には、少しばかり運命というものを感じたメグであった。


 メグは、すぐに王女の手にはめられていた手錠を切断した。


 王女は自由になると、すぐにひざを折って礼の姿勢をとった。


「女神様にきていただき、ありがたき幸せにございます」


 メグは王女の言葉を遮った。


「あー、そういうのは後で! まずは脱出よ!」


 メグが周りを見渡した。

 さっきの公開裁判で偉そうにしていた議長が、慌てふためいて命令を出しているのがよく見えた。周りの警備兵も、囲んだまま手出しができない。


「簡単に結界を破れないものね」


 予定通り、結界発生装置の周りには王国兵らしき軍団が陣取っている。


 とはいえ、こんな場所に長居をするつもりはない。

 結界の上から爆炎を放り込まれたら酸欠で死んでしまう。


 さっさと脱出だ。


「ガルドは遅いわね!」


 メグのつぶやきに王女が反応した。


「ガルド様が来ておられるのですか!」


「来てるも何も。すぐ近くにいるはずなんだけど…」


 そんなことをメグが言ったときだった。

 二人の下の地面がぱっかりと割れた。


 その穴の中から、にょきっと顔を出してきた人物がいた。


 ガルドだった。


「遅くなってすまん。穴掘りはザイールの得意分野だからな。手間取っちまった」


「なにを言い訳してるのよ!」


 メグが王女の手を取った。


「さ、入るわよ」

 と言うと、ガルドの横から穴の中に入っていった。


 王女も、引っ張られるようにしてガルドの横から穴に入っていった。

 王女にはガルドに言いたいことがたくさんありそうだが、時間がない。メグは、さっさと王女を連れて、穴の中を進んでいった。


 穴は、最初はほぼ垂直に落ちたあとは、少し斜めになっていた。

 転がるようにして三人が穴を降りていくと、少し広い部屋に出た。


「帝国が作った地下の待機所だ。ちょうどステージ台の真下にある」


 最後に穴から出てきたガルドが説明した。


 おそらく数百人は待機できる広さがあった。地球の大学校にあった体育館より少し広いぐらいか。天井は低いが。


「ここに帝国兵が待機してたのさ。マリオンとザイールで全員を広場に誘い出したのさ」


 ガルドは待機所から広場につながる出入口に向かった。


「そして、今度は俺たちの脱出路になるのさ」


 ガルドは広場に出ると、空に向かって脱出の合図を送った。


 爆炎を応用した巨大花火だ。

 魔法陣を埋め込んだ短筒から打ち出すのだ。


 緑色の花火が広場の上に広がった。

 青い空でも、よく見える花火だ。これは爆炎を応用したからこそできた花火だった。


 花火を合図に、王国側の撤退が始まった。


 広場に散らばっていた王国警備兵は、撤退の合図とともに広場中央を目指した。一方で、広場の周辺で戦っていた王国兵は細い路地へと逃げ込み始めた。


 撤退戦は難しい。

 だが、今回は違うのがひとつ。


 広場には黒鱗騎士がいることだ。

 黒鱗騎士は大きな盾を使って防御しつつ、広場から地下室の入り口までの進路を確保してくれた。


 地下室に、次々と王国の兵士たちが入ってきた。

 がらんとした部屋は、合図から10分ほどで王国警備兵であふれそうになっていた。


 地下室の外では黒鱗騎士が入り口を死守している。命を持たないからできる無茶な撤退計画だった。


「全員、広場から撤退完了しました」


 警備兵隊長がザイールに報告した。


「何名残った?」


「140名であります」


「そうか」


 奪還計画に参加したのは200名だった。

 生き残ったのはたったの140名。


「親衛隊はまだなの?」


 メグが尋ねた。


「あいつらなら広場の後方で戦ってたからな。大丈夫だろうと思うが」


 ザイールが答えた。


「マリオン隊長とアルミダもいるしな。逃げ切れるだろう」


 ガルドも賛成した。


 ザイールが、地下室への入り口を封鎖した。

 土魔法が得意と言うのは確かだった。硬い炭化ケイ素で出来た通路が、あっという間に塞がった。これでしばらくは、追いかけてこれないだろう。


「これから撤退する」


 ザイールが大きな声をあげると、それまでうるさかった待合室の中が静かになった。聞こえるのは、広場から聞こえる剣戟の音だけであった。


 ガルドがメグから譲り受けた剣で、地下室の壁を切り払うと、秘密通路へ繋がった。さすがの切れ味である。兵士からどよめきが起きた。


「この脱出口から地下街へ出る。そのあと撤退戦をしつつドラゴンの内臓を通って脱出する」


 不安そうな兵士の顔を見たザイールだが、続けて計画を説明した。


「大丈夫だ。特任部の連中が助けてくれることになっている。特任部の指示を受けつつ、警備隊は陽動作戦を開始する。王都を脱出するのは、テルメール王女様、ガルド、そして補佐のメグ殿の三名だ」


 * * *


 秘密通路を降りると、地下迷宮と呼ばれる地下都市にある建物の中に出た。幸い、外の通路には帝国兵はいないようだった。


 地下都市と言っても、巨大な空間が一つあるわけではない。およそ500m四方ぐらいの広さの区画の街が集まっていて、区画は分厚い壁で仕切られている。区画の高さは5階建てぐらい。問題は区画を行き来する通りは限られていて、そこは帝国兵が封鎖していることだ。


 囮役の警備隊員が、王女の服と鎧を交換した。

 前のときのように服に発信機が仕込まれている場合に備えてだ。


 テルメール王女は、王女役になる女性兵士の手を取った。


「よろしくお願いします。女神の加護がありますように」


 危険な役と知りながら受けてくれた囮役への、王女の精いっぱいの感謝だった。


「ありがとうございます。王女も、どうかご無事で」


 囮役となる兵士も、王女の無事だけを考えているようだった。


 そんな二人を見て、メグは気持ちが苦しくなってしまった。

 自分が脱出の先頭に立って道を切り開けば、陽動作戦はいらないかもしれない、と。


 そうすれば、囮役も陽動の兵士も、死者は少なくなるはずだ。


 だが…


 保護管理局という立場上、あまり大っぴらな援助は禁止されていた。あくまで、後ろから手を貸すことになっていた。


 もどかしい。

 ほんとは人が死ぬのを見たくない。


 そんな気分で沈んでいたメグに気が付いたのか、ザイールが近づいてきた。


「メグ殿。貴殿の力がなければ奪還は不可能だった。本当にありがとう。脱出はまだ終わってないが、先にお礼を言わせてくれ」


 ザイールは、そう言うとメグに最高の笑顔を見せた。

 王女を奪還できたことが、本当に嬉しかったのだろう。


 ザイールの笑顔を見たメグは、さっきまでの思い悩みは忘れることにした。

 やはり全てを手伝ってしまってはいけないのだろう。主役は彼らなのだ。


 ザイールは、今度はガルドの肩をつかんだ。


「王女を頼むぞ、ガルド」


「まかせろ」


「じゃあな。後で会おう」


 ザイールの言葉を合図に、生き延びた140名のうち、まだ戦える100名ほどが建物から飛び出した。ザイールを先頭に、囮役の王女を中央に守るようにして進撃を開始した。

 

 けがで動けない40名の兵士は、特任隊が別の秘密通路に案内した。王都のどこかで治療するとのことだった。


 残ったのは、三人と道案内の特任部隊の一人だった。


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