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第34話 混乱

 王宮のバルコニーでメグが参謀と戦っている間も、広場での戦いは激しさを増していた。


 黒鱗騎士を狙った矢組隊、そして爆炎による煙を飛ばした魔法兵団に対して、隠れていた王国の王都守備軍が襲い掛かったのだ。


 王都から脱出したのは主にサルマン王直属の近衛兵だった。王都守備軍200名ほどが地下迷宮に隠れて次の指令を待っていたのだ。もちろん、帝国は地下を探索したが、人手も時間も足りていなかった。ザイールが作り上げた地下迷宮の秘密通路のおかげでもあった。


 地下迷宮から伸びる大量の柱が王宮や地上の王都を支えていた。ダイヤモンド並みに硬いと言われてる炭化ケイ素の柱を、さらに魔法で強化した頑丈なものだ。帝国も、まさか、その柱の中に通路が隠されているのには気付かなかった。


 柱の通路から広場への出口から、次から次へと王国守備軍が広場に飛び出した。狙うのは、矢組兵と魔法兵だ。


 王国警備軍は、王国の軍隊の中のエリート集団だ。

 全員が剣技と魔法の両方を扱える。


 魔法兵の弱点は近接戦闘だとよく言われる。近くまで寄られたら、魔法で攻撃するより剣で叩き切ったほうが早いからだ。ましてや抗魔法領域や物理結界で魔法攻撃が通りにくい状況に加えて、建物の中のように見通しが悪い場合、魔法兵の強みを発揮するのが難しい。


 矢組兵と魔法兵を狙って爆炎を撃ちながらけん制し、建物に突入すると剣で帝国兵をなぎ倒していった。


 ステージ台の上で指揮を執っていた第四軍軍団長は、湧き出てきた王国兵に驚いた。広場の地面だけは安全を確保したと思っていたからだ。だが対応は早かった。虎の子ともいえる矢組兵と魔法兵を守るため、広場を囲んでいた第二列から応援を要請した。


 応援の部隊は、すぐに行動を開始した。だが広場へ続く道は比較的狭い。数による優勢を作りづらい状況だった。


 もっともこの状況も帝国軍には想定内だった。

 一部の兵は屋根伝いに移動して応援に駆けつけた。窓から突入できなければ屋根を壊してでも、矢組や魔法兵がこもる建物に入りこんで、王国兵と戦った。


 一方で、広場には爆炎による煙が充満していた。


 建物内の兵士不足には対応したが、帝国の魔法兵に排煙する余裕がなくなっていた証拠だ。


 軍団長は、見通しの悪い中でも戦況を把握しようと四苦八苦していた。

 自分と王女がいる台の前では、帝国兵がザイールと黒鱗騎士と戦っている。いつのまにか黒鱗騎士が増えたようで、動きを抑えきれていない。


 広場の反対側では王女親衛隊とアルミダが戦っているのが見えた。こちらも王国兵の数が増えているように見える。だが膠着状態は続いているようだ。お互いに陽動の役目を忠実にこなしているだけとも言える。


 やはり王国の抵抗は混乱を起こすことに集中していて、王女を奪還する動きが見えない。まだ王女奪還の時ではない。そう王国側が判断しているということだ。


 軍団長が王女に目をやった。ステージ台に張り巡らされた透明な物理結界の中に王女が座っている。さっきから微動すらせず助けを待っているようだ。


 だが王女を助けようと思えば、結界が張られていない筒の上か下から進入するしかない。上は飛行能力を持っていないと無理だ。下の床には厚さ2mの炭化ケイ素を敷き詰めてある。無理に結界を破壊しようとすれば、王女も巻き添えを食う。


 こちらには、まだ50名の護衛兵が残っている。


 そう簡単に奪還されることはないはずだと、軍団長は判断できる。

 とはいえ、こうも戦況が混乱すると不安が隠せない。キリアムス皇子から総攻撃の命令を待ち望んでいた軍団長であった。


 そんなとき、軍団長の頭上で大きな爆発音が聞こえた。

 上を見上げると、王宮のバルコニーが崩壊していた。王宮の結界内にはバルコニーの破片らしきものが堆積しているではないか。


 何が起きた!?


 いったい何事だ? そう軍団長が思ったとき、耳の受信装置からキリアムス皇子の叫ぶような命令が聞こえてきた。


『王宮から女が脱出した。捕まえろ! 絶対に逃すな! 殺しても構わん!』


 皇子の声とともに、広場にバルコニーの破片が大量に降り注いできた。


 もうもうと上がる土煙が収まると、ステージ台の裏側にはケイ素コンクリートの残骸がばらまかれていた。


 軍団長は、女性という言葉を頼りに、広場を見回した。

 髪型は? 服装は? おそらく、見ればわかるのだろう。


 その時、思いがけない方向からゴトリという音が聞こえた。

 軍団長が後ろを振り返ると、王女を囲む結界の中に見たことのない女がいた。


「王女だ! 王女と一緒にいる女だ!」


 軍団長が叫んだが、どうやって結界の中の二人を捕まえるのか?


「そうだ、結界を解除しろ!」


 何人かの帝国兵が結界発生装置に近づいた。

 だが、帝国兵士の中から一人が飛び出したかと思うと、結界に近づく兵士を斬り伏せたのだ。


 さらに数名の兵士が飛び出してきて、結界発生装置を取り囲んだ。この数日の間に盗んだ帝国兵士の装備を使って王国軍が忍び込んでいたのだ。結界発生装置の周りに10名近い王国軍が陣取った。


「くそっ、矢組兵に伝達! 王女が上空から逃げた場合は撃ち落とせ。絶対に二人を逃すな!」


 軍団長は焦りはじめた。

 このままでは王女に逃げられてしまう。


 * * *


 メグは王宮から飛び降りると同時に結界を破壊すると、広場を見回した。王女を囲む結界を探しているのである。


 爆炎による煙が立ちこめる広場だったが、王宮に近い一角だけ煙が立ち上っていない箇所があった。公開裁判が行われていた台だけ、煙がほとんどない。


「さっすが王国兵士。ちゃんと煙の流れる方向まで考えて戦ってるのね」


 メグが独り言を呟いた。


 王女の周りでは戦いを避けるという計画だったというだけなので、本当に計算したのか、たまたまなのかはわからない。


 メグは、落下速度を落とすと、ふわりという言葉が似合うような優雅さで王女が閉じ込められている結界の中に舞い降りた。


「お待たせしました、テルメール王女様」


 突然現れたメグからの質問に、王女は

「あなたは、どなた?」

 と聞くしかなかった。


 メグは、王女の質問に答える代わりに、胸からブローチを取り出して王女に見せた。


「これに見覚えは?」


 死にかけたガルドのポケットに入っていたブローチ。

 おそらく王女が最後まで祈りを捧げていたブローチだった。


 ブローチを見た王女の目から涙があふれた。


「ああ。私の祈りは…」

 王女は、高ぶる感情を押さえつけて、言葉をつなげた。

「通じていたのですね」


 メグは王女の目をしっかりと見つめながら答えた。


「遅くなってすいません。私が女神のメグです」


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