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第31話 包囲網

 公開裁判の議長役を仰せつかっていたのは、帝国軍第4軍団の軍団長であった。


 今も、ステージ台の上から冷静に状況を観察していた。今のところ現れた王国側の兵士は、まだ20名ほど。それと王国の所属ではないが、南大陸で有名な賢者が一名。まだまだ隠れているのは明らかだった。


 王国側の作戦など、ちょっと考えれば誰でもわかる。戦力を小出しにして王女を守る警備が手薄になったところで、一気に王女を助け出す。だいたい、そんなところだろう。


 帝国の作戦は小出しにしてくる王国にとことん付き合い、隠れている王国兵を誘い出すことだ。そして最大の目標は賢者だ。最低でも一名、出来れば何名かの賢者をあぶりだして確保するか殺害する。


 軍団長が合図を送ると、ステージの下から100名ほどの兵士が出てきた。これで手薄になったステージ台の周りの警備はもとに戻った。


 この下には地下室が作られており、まだ300名ほどの兵士が待機している。

 そして、このような地下室が広場のあちこちに作られているのだ。広場を囲む建物の最上階には魔法隊と矢組隊が待ち伏せている。相手の泥人形や魔法部隊の対抗策も十分練れている。


 さらには広場を囲むように王都内と、王都の外にも兵士が待ち伏せている。空からの攻撃には空挺部隊が待機している。合図とともに全軍で王国軍を一網打尽にするのだ。


 軍団長は自分の後ろを振り返った。


 王女は結界の中に閉じ込められたまま、じっと座っている。助けを信じているのだろう。だが王女を助けるには高さ20メートルはある結界を破壊するか、上部から侵入するかしかない。


 軍団長は上を見上げた。広場を見下ろす王宮の主塔が見えた。


 あのバルコニーではキリアムス皇子と将軍が状況を観察している。皇子の合図とともに、全勢力を持って、敵をせん滅することになっているのだ。


 軍団長は大きく息を吸うと、自分自身に気合を入れた。

 王国の賢者どもよ、いつでも来い!


 その瞬間だった。


 軍団長の目の前の広場の路面に亀裂が走ったと思うと、大賢者ザイールが出現した。

 両手には大きな岩を持ち上げていた。おそらく広場の路面だろう。


 だが、広場は黒石で強化したはず。剛力のザイールと言えども、簡単に壊せるはずがない。いや、そもそも地下から現れるとは、どういうことだ?


 ザイールは、持ち上げた大岩を議長目掛けて投げつけた。


 議長は大岩を避けたが、壇の一部と地下室への通路は破壊されてしまった。


 軍団長がザイールを睨むと、

「貴様、どこから出てきた!」

 と叫んだ。


「いやー、地面の下は狭かったぜ。やっぱ、地上の空気はうまいな」


 ザイールは、涼しい顔で答えた。


「戯言を。取り囲め!」


 軍団長の命令を聞くまでもなく、ステージ台の警備兵200名の兵士はザイールを取り囲んでいた。


「そうこなくちゃ」


 ザイールが呟くと、ザイールの周りに8体、そして取り囲んでいた兵士の間から20体ほどの黒鱗騎士が出現した。体長2mほどの巨体に、大きな盾を構えた不死身の兵士だ。


 だが帝国兵も準備は怠っていない。

 黒鱗騎士から少し離れた位置に、盾を並べ、槍でついてきた。


 槍の先には、例の魔法阻害の薬を塗ってある。足でも手でも刺されれば、泥人形と言えども動けなくなるのだ。


 ほんの少し前の王都攻略のときに絶大な効果をあげた戦法だ。だが、今回は対策済みだった。

 黒鱗騎士は盾での防御を徹底してきたのだ。帝国兵の槍は、盾に阻まれて突き刺せずにいた。そして剣による攻撃はせずに、盾でごり押しをしてきたのだ。


 巨体に押されて、あちこちで兵士の隊列が崩れ始めた。

 このままでは、不味い。


「矢組隊! 一斉斉射!」


 軍団長が叫んだ。


 広場を囲む建物の最上階にある窓が一斉に開いた。

 そこに現れたのは、帝国が誇る矢組隊だ。


 四方八方から撃たれれば、黒鱗騎士であろうと避けようがない。特に兵士と戦っている黒鱗騎士を後ろから狙うのだ。もちろん矢には魔力阻害の薬が塗ってある。


 逃げ場はない。

 絶対の自信を持っていた作戦だったが、結果は大きく異なった。


 兵士と相対していない黒鱗騎士が盾で矢を防いだのだ。まるで訓練された人間兵のような連携だった。黒鱗騎士は守りと攻めの役割を分担しているのだ。


 このまま200名の兵士で28体の黒鱗騎士相手では力負けしかねない。


 できれば乱戦は避けたかったが仕方がない。軍団長は、広場周辺で待機していた兵士にも黒鱗騎士への攻撃命令を出した。建物などに隠れていた帝国兵が姿を現すと、わらわらと広場に集まり始めた。


 さらにステージ台下の地下室からさらに100名の兵士を出動させた。


 これで黒鱗騎士の動きを止めることができるはずだ。隊列を組みながら包囲する。いかに黒鱗騎士でも、盾による力押しだけでは進みは遅い。ザイールは、黒鱗騎士に守られながら、こちらをうかがっているようだ。


 軍団長は広場の反対側にチラリと目をやった。王国の親衛隊は、いつの間にか40名ぐらいに増えているようだ。だが、帝国兵側も戦力は十分で、戦列は拮抗しているようだ。ひとまずは無視してよさそうに思えた。


 軍団長の頭上で大きな爆発が起きた。


「今度はなんだ!」


 団長お付きの護衛兵が

「爆炎魔法と思われます」

 と返事をした。さきほどの弁護人役をしていた兵士だ。


 あと告発役の3名も、同じく護衛兵だ。4名で軍団長を守っている。


「報告にあった魔法か。炎と一緒に大量に煙が出るやつだな」


「煙幕の代わりとのことです」


「相手の魔法兵を探せ。それと煙幕の排除だ」


「了解」


 護衛のうち2名は魔法兵だ。

 このぐらいの煙幕なら、簡単に除去できる。


 さらに、矢組隊と一緒に魔法兵団もいる。

 まだ大丈夫だ。と自分に言い聞かせながらも、軍団長は焦りも感じていた。


 今のところ王女に近づかれてはいない。だが相手は、こちらの武器や戦法を研究している。もう賢者が2名も出現したのだ。そろそろ殲滅戦に移りたいというのが、正直な気持ちだった。


 だが、それを決定するのは、頭上から見ているキリアムス皇子だけだ。

 命令が下されるまで、我慢するしかない。あとは我慢の時間が短いことを祈るのみだった。


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