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第30話 親衛隊隊長、マリオン参上

 議長が「茶番だ!」と叫んだ人物をにらみつけた。

 その視線に沿って、群衆が道を開いた。


 視線の先に立っていたのは、マリオン親衛隊隊長だった。


 彼女の後ろには20名の親衛隊が整列して隊をなしていた。全員がテルメール王女付きの女性だけで構成された親衛隊であった。王都民に紛れていたのだ。


 市民はマリオン隊長と親衛隊を見ると、大喝采をあげた。


 人望の厚いテルメール王女を守る女性騎士団は、市民の憧れだったのだ。特に美しいマリオン隊長は人気が高い。


 壇上の議長が言い放った。

「おや? 王国では、部外者がいきなり裁判に乱入するのですかな?」


 マリオン隊長は、煽られて少しずつ怒りが沸騰してくるのを感じた。


「お前らの勝手な言い分はなんだ。弁護にすらなってないではないか!」


 怒声のようなマリオン隊長の声が、広場にこだました。

 隊長も風の技能を使いこなせる。潜入したときのように声を消すことも、逆に大勢に対して声を上げることもできるのだ。


「ほう。我が帝国の裁判が不正であると?」


「そもそも帝国からの申し出こそ、大嘘ではないか! その証拠が侵略軍だ! 豊穣の祈りを捧げられる王女を殺して、王国と南大陸を奪い取るつもりに決まっている!」


「証拠もない陰謀論を話されても困りますな。お嬢さん」


 マリオン隊長の怒りは抑えることができなくなっていた。


「私はお嬢さんではない! テルメール王女親衛隊の隊長、マリオンだ!」


 議長が壇上で笑い出した。


「何が可笑しい!」


 マリオンの怒号のような問いかけに対して、


「王女を弁護すると思えば、共犯者でございましたか」


 議長が平然と答えた。さらに


「その共犯者を捕らえよ!」


 と号令を出した。

 ステージ台を囲んでいた警備兵の中から、とりわけ屈強そうな兵士が前に進み出た。


「我は第1軍団警備隊隊長ロイエンバルグである。得意は槍術!」


 警備隊長は長い槍を両手で掲げると「尋常に勝負!」と叫んでマリオン隊長に挑みかかった。


 マリオン隊長は、槍先を盾で受け流しつつ、右から滑り込むようにロイエンバルグ警備隊長の懐に入り込もうとした。警備隊長も慣れたもので、間合いを詰められないよう数歩後退した。


 格闘戦での男女の優劣差はない。魔力を使って肉体を強化しているので、魔力の強いほうが腕力も俊敏性も高いのである。しいて言うなら男性のほうが背が高く手が長いぐらいが戦闘で有利な点だろう。


 マリオン隊長の俊敏性は、ロイエンバルグ警備隊長の想定をはるかに上回った。


 槍を下げるより早く懐に入られ、槍を持つ手をはたかれてしまった。痛みで槍を落とし、一瞬にして敗れてしまった。


「どうだ! 降参か!」


 マリオンが勝鬨の声を挙げた。

 王都民も「マリオン隊長!」と大声援を送った。


 警備隊長は勝負には敗れたが、受けた命令には忠実だった。


「この女をひっ捕らえろ!」


 そう叫んだところで、マリオン隊長に剣で頭を叩かれ、気を失った。


 警備隊長の命令に従って、20名ほどの警備兵が前に進み出た。


 一斉に掛け声をかけると、前の10名が盾を、後ろの10名が槍を構えた。これなら懐に入られても盾で守りながら、後衛の槍で攻撃ができる。マリオン隊長が優秀であろうとも、20名相手では分が悪いように見えた。


「そんな、へなちょこ槍で何ができるか!」


 マリオン隊長は、自分に活を入れるように大声で叫ぶと、周りの民衆はやんやの大喝采をあげた。王女を助けてほしいと誰もが願っていたのだ。


 マリオンは20名の帝国軍部隊へと突進した。


 だが、さすがに分が悪すぎた。避けても避けても10本の槍が追いかけてくる。何とか槍をかいくぐっても、盾の壁を突破できない。20人の兵士が必死で操る盾と槍に、何度も危なく突かれそうになり、じりじりと後退していった。


 そんな攻防が何度か行われたとき、周りを取り囲んで見物していた民衆の中から、女性の声が響き渡った。


「助太刀するなり! 大勢で一人と戦うとは卑怯である!」


 その言葉とともに出てきたのは、一人の女性だった。

 少し派手な青い衣装をまとう一方で、武器らしきものを持っていない。


 警備兵は「何者?」という感じで戦いを中断した。だが、王国民なら誰もが彼女のことを知っていた。武の大賢者とも呼ばれるアルイダだ。王国の隣国に住む格闘家であり、テルメール王女の友人としても知られていた。王女の公開処刑の話を聞いて、駆け付けたに違いない。


 アルイダは、「とぅっ!」ジャンプするとマリオン隊長の横に降り立った。


 マリオン隊長は、思いがけない援軍に感謝の意を伝えた。

 軽く、会釈をしただけだが。

 昔から王女を通して知り合い、というか友人のような関係になっていたのである。


「お久しぶりなり!」


 アルイダからマリオン隊長への挨拶である。


「良いときに来てくださいました」


 アルイダの顔が大きく笑った。


「ここは、まかせるなり!」


 そういうと、今度は怒りに満ちた顔で警備兵をにらみつけた。


「王女を泣かせるやつ、許さない! お前ら全員叩き潰す!」


 アルイダは、大きく叫ぶと、一気に20名の部隊との距離を詰めた。


 再び10本の槍が、今度はアルイダを目掛けて突き放たれた。

 だが、まるで踊るかのように、アルイダは槍を受け流したり避けたりして、一切当たる気配がない。兵士たちは、アルイダの動きに動揺しているように見える。


 そしてマリオン隊長も、そんなアルイダの戦いをみて驚いた一人だった。王女の親友として、アルイダ殿とは長い付き合いがあった。そういえば、本気で戦うところは初めて見たのだった。


 どうして、素手で槍を受け流せるのだろう?

 というか、少し当たっているように見えるのだが… 怪我しないのだろうか?


 そんなことを考えたときだった。

 アルイダが敵に近づいたと思うと一本の槍を掴んだ。


 そして、グイっと引っ張ったのだ。


 いきなり引っ張られた槍の兵士は体勢を崩して、盾を持つ兵士の上に覆いかぶさってしまった。


 さらにアルイダは別の槍を掴んで左右に振り回すと、別の兵士と兵士が足をひっかけて体勢を崩してしまった。最初は隙間なく敷き詰められていた10枚の盾による防御だったが、今や盾の壁には穴が開いたようなものだ。


 そこにアルイダが飛び込むと同時に大きな回転蹴りを見舞うと、数名が吹き飛ばされた。さっきまでの整然とした構えは、完全に崩れていた。まさに一瞬のことだった。


 マリオン隊長は、アルイダの戦いを目で追いながらも、後ろにいる囚われている王女の状態を確認するのを忘れなかった。


 王女のいるステージ台を囲む警備兵から20名は引っ張り出したはずだが、また最初と同じ数に戻っているようだった。この程度では、警備のスキを突くには足りない。


 マリオン隊長が剣を上に掲げて叫んだ。


「隊列が崩れたぞ!」


 そして後ろに整列している王女の親衛隊を鼓舞した。


「ここで王女を奪還する!」


 20名の親衛隊も剣を掲げると、マリオン隊長の声に合わせてたけびを上げた。


「王都民に告ぐ! ここは危険だ。できるだけ離れろ!」


 マリオン隊長が群衆に向かって叫ぶと、それまで人だかりができていた広場から、人が逃げるようにいなくなった。今までは余興のようなものだ。これから王女奪還の戦争が始まるのだ。ここにいたら巻き込まれてしまう。


 一方、帝国側の警備兵からは、さらに100名ほどがマリオン隊長率いる親衛隊とアルイダの前に立ちふさがった。先と同じく、盾と槍で武装している。


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