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第29話 公開裁判

 テルメール王女の公開裁判の日になった。

 この季節ならではの、雲一つない快晴の朝であった。


 午前中に、帝国から第三弾の軍団が到着する予定であった。


 第一弾として、ヤールイコ将軍の約2万の侵攻軍が王都を攻略。第二弾はキリアムス皇子が率いる約6万の討伐軍。そして今日到着するのは約4万の平定軍である。治安維持と地下組織の摘発などが主な任務となる。


 その平定軍に、帝国参謀が一緒に来ていた。


 今までは皇帝の裏方として、ほとんど表舞台に立たずに来た。だが、王都攻略の知らせを聞いて、初めて帝国の外に踏み出したのだ。


 約4万の平定軍が列をなして王都への街道を埋めていた。その中央には、幅10m、長さ30mほどの巨大な移動砲台が3台もあった。これは、帝国参謀が持ち込んだ浮遊技術を使った移動戦術兵器だった。自分の力で移動することはできないが、少し地面から浮いているため、馬や人の手で動かせる。


 そこに物理結界装置を乗せることで、軍団全体を守ることが可能なのだ。

 これが、きわめて少ない損害で、エルダイズ王国を攻略できた理由だった。


 他の軍団と同じように、平定軍も王都の中には入らずに、城壁の外側に陣営を張った。だが、移動砲台の一つと前後を守る兵士の一群が、王都に入場した。そのまま王宮の前まで入ったところで、止まった。


 移動砲台から、黒いローブを着た男が降りてきた。


 彼を向かえに出たのはキリアムス皇子であった。


「ようこそ、王都へいらっしゃいました。帝国参謀殿」


 キリアムス皇子が、恭しく黒いローブの男にあいさつした。


 ローブの男は、少し頭を下げたように見えた。


「この後、余興を用意しました。長旅の疲れを忘れて、存分にお楽しみください」


 * * *


 公開裁判は、王宮の城門真下にある広場で行うことになっていた。


 先日の王都侵攻時に、ここから近衛兵が脱出した広場だ。城門の下には木製のステージ台が設置されていた。台上には帝国軍の軍団長のほかには王女が座らされていた。


 広場にはすでに数百名の市民が集まっていた。

 一人の男性が壇上に立った。


「王都の市民に告ぐ! これからテルメール王女の公開裁判を行う!」


 大きな声で宣言した。


 風の技術を応用した拡声具を使っているので、広場を超えて王都の広い範囲に声が響いた。


 と同時に、群衆から叫び声のような声がこだました。


 今まで、南大陸での収穫を支えてきた王女様だ。民衆の信頼が厚い。その王女を、いきなり処刑すると言われて納得する市民など一人としていなかった。


「静粛に! 主塔におられるキリアムス皇子のもと、厳正かつ公正な裁判を行う。私が議長として、裁判をすすめる!」


 議長と名乗った男の声が、王都に響き渡った。


 民衆が上を見上げると、王宮からそびえたつ主塔にあるバルコニーに2名の影が見えた。キリアムス皇子とヤールイコ将軍だ。もちろん、その後ろには帝国参謀がいる。非難が渦巻く罵声が湧きあがったが、皇子は落ち着いた様子で右手を挙げて答えた。


「それでは、王女の罪を読み上げる。告発人は壇上へ!」


 三名が壇上に上がってきた。それぞれが、王女の罪を大声で叫び始めた。


 まず一人が一歩前に出ると、大声で話しかけた。


「王女は豊穣の祈りを捧げ、穀物の収穫を保障してきた。これにより南大陸の多くの民に対して十分な食料が提供されいてとされる」


 次の一人が一歩前に出た。


「だが、しかし! 騙されてはいけない。これは真っ赤な嘘であり、偽りの姿である」


 最後の一人が、一歩前に出た。


「我がクロクムス帝国は、豊穣の祈りを必要としない穀物を育てることに成功した。新しい穀物により、より多く収穫できるのだ。これにより我が帝国は繁栄し、帝国市民は豊かな生活を享受してきた」


 そして、小麦粉が詰まった大きな袋を見せた。


「これが新しい小麦だ。今回の遠征を支えるだけの豊富な食料が我が帝国にはあるのだ」


 また最初の一人が前に出た。


「帝国は新しい穀物を提供することを申し出た。だが、それを断ったのが、ここにいるテルメール王女、その人である!」


 次の一人が前に出た。


「なぜだ! なぜ断ったのか! それは権力を独占するためである。豊穣の祈りを独占することで、王国は繁栄してきた。それを手放すことを拒んだのだ」


 最後の一人が前に出た。


「これを罪と呼ばずしてなんと呼ぶ? 答えよ、市民たちよ。アルタイズ王国とテルメール王女は、皆から豊かな生活を奪ったのだ」


 広場を埋めていた市民が静かになった。


 それも仕方のないことである。いきなり知らない事実をまくしたてられても、理解するのには時間がかかる。ましてや敬愛していた王女様の告発など納得できるはずがない。そして何が真実か判断することもできないのだから。


 告発が終わり、告発人たち三名は台の後ろに下がった。

 議長が前に出た。


「テルメール王女の弁護人は、ここへ!」


 今度は一人が壇上に上がった。


「えぇ、みなさん。わたくしがテルメール王女の弁護人であります。この数日の間、王女と面談しまた結果、先の告発は間違いであると申し上げます」


 集まった市民から、安どのようなため息がもれた。


「テルメール王女の母君であるメシストリーネ女王様は、王国だけでなく南大陸の人たちに大いに尽くしてくれました。特に10年前の大災害のときには、命を懸けて収穫の祈りを何度も執り行ったのは皆様の記憶に残っていることでございましょう」


 広場の市民たちは、10年前の大干ばつの後の洪水を思い出した。多くの小麦が枯れ、残った小麦も洪水で水浸しになったことを。


「負担の大きい収穫の祈りのため、女王は命を落としてしまいました。その女王の姿を見て育ったのがテルメール王女であります。その王女が、保身のために帝国からの提供を断るなどありえません」


 弁護人が、いったん息をついた。


「では、断った理由は何だったのでしょうか?」


 弁護人の声が大きくなった。


「それは女王への愛であります! 女王の命を奪った豊穣の祈りを捨てるという決断ができなかったからであります」


 弁護人が議長を向いた。


「王女の父であるサルマン王が、王国の利権を守るためという判断もありました。だが王女には女王への敬愛によるものであるという点をご考慮いただきたいと思っております」


 そう言うと、弁護人は壇上の奥へと下がった。


 ゆっくりと議長が壇上の前に出た。


「以上、弁護人の弁である」


 千人近くに膨れ上がっていた市民は、一言も発することはできなかった。

 本当なのか? そんなはずはない。だが…


 その時、群衆の間から大きな声が発せられた。


「もう茶番はうんざりだ!」


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