第27話 囚われの王女
朝食の後、キリアムス皇子と将軍は、テルメール王女に会いに王宮の主塔に向かった。主塔は王都攻防戦の激戦により半壊しているが、内部は補強済みだった。
主塔の3階まで階段で登ると、王女を監禁している部屋の前まで来た。
「扉を開けよ」
皇子の命令で、王女を監視していた兵士が、部屋の扉を開けた。
中は、ベッドと机、それと小さなワードローブが一つあるだけの、簡素な部屋だった。そこに皇子と将軍、それと護衛の兵士3名が入ると、少し狭く感じられる。
王女は、すでに正式な衣装に着替えていた。
「おはようございます、テルメール王女」
ヤールイコ司令官が王女へ恭しくあいさつした。
王女は、きつい目線を司令官に投げつけると、少し乱暴に言い返した。
「おはようございます、司令官。降伏して王都を開放する用意はできましたか?」
「相変わらず気がお強いですな。それと『元』司令官ですな。今日から司令官の役を解かれました」
将軍は、王女の前に皇子が来るように少し横にずれた。
「初めましてだな。クロクムス帝国の第一皇子のキリアムスだ」
皇子は、テルメール王女をしげしげと見つめた。
少しほっそりとした少女の趣を残した女性であった。少し緑がかった長い髪と、大きな瞳が特徴的だ。強い魔力を持つもの特有の色だ。人によって緑や青、あるいは赤といった色が出るのだ。
「今日から南大陸平定軍総司令官となる。よろしくだな」
そう言うと、皇子は手を差し出した。
だが、王女は皇子の握手を無視した。
皇子は王女の無礼を気にするでもなく、カードを見せた。
「昨晩、襲撃がありましてね。隠れ家に乗り込んだところ、王女へのメッセージが見つかりましてね」
キリアムス皇子は、カードを王女に手渡した。
王女がメッセージにある名前を見たとき、あまりの嬉しさで王女は涙を流しそうになった。あの状況でも生きていてくれた。
なんとか感情を押し殺した王女は、できるだけ威厳を保ちながら言い放った。
「ガルドは生き延びましたか。もう安心ですね。早く降伏なさい」
キリアムス皇子は、王女の精いっぱいの強がりに笑いがこらえられなくなった。
「いや、これは失礼。あまりに嬉しそうなもので、つい笑みが出てしまいました」
皇子が笑いをこらえると、
「そんな王女には、悪い知らせを伝えなければなりませんのが残念ですな」
と告げた。
「あなたを処刑することにしました。今から四日後です」
王女は殺されることを覚悟はしていた。だが…
「私を処刑したら、豊穣の祈りは誰が捧げるのですか? 収穫が減れば国民が不安になり、帝国の治安維持にも問題がでます」
もう少し王女が狼狽すると思っていた皇子は、少しがっかりした。
「では教えてあげよう。もう豊穣の祈りは必要ないのだよ。帝国の配下になれば、新しい農法による豊かな生活を保障する。もう一人の巫女に依存するのは終わるのだ」
少しきつめに王女に告げると、皇子は少し声を落として続けた。
「そんな巫女を助けるために、ガルドとかの隠れた連中が出てきたところを捕まえるのだ。つまり、王女は餌というわけだ」
王女は、皇子の意地の悪い言葉を一切無視することに決めた。
ガルドたちを信じて、救出を待つ以外、何も出来ることはないのだから。
「その毅然とした態度で、あと四日間を過ごしていただきたい」
皇子は、再び意地の悪い言葉を王女にかけると、部屋から出て行った。
「ヤールイコ。確認だが、ここの警備は万全だな」
「部屋の上下左右には兵士が待機してるので、昨晩のようにはいかないはずですな」
ヤールイコ将軍は、さらに提案してみた。
「完全を期すなら、魔法阻害粒子を王女に打ち込むのが良いのですが…」
「それは、さすがに不味いか」
「健康を損ねる可能性が高いですから」
魔力を阻害すれば魔法が使えなくなるのは確かだ。だが健康にまで影響がでる場合がある。まったくもって魔力の高い人物を捕まえておくのは難しいのだ。
服従しない強者は、殺すしかない。
それが、この世界での常識だった。
主塔を出たところで、皇子がヤールイコ将軍に小さな声で
「あの王女なのだが…… 好みなのだが、結婚とかできると思うか?」
と尋ねてきた。
ヤールイコは、大きくため息を吐いた。
「公開処刑と言い出した本人と結婚ですか?」
「何か策を考えないとなぁ」
「策などと考えずに、もっと正々堂々と申し込める状況を作るべきかと思いますが」
はぁ。と司令官は心の中でため息をついた。
もともとヤールイコ司令官はクロクムス帝国の将軍であり、皇子が小さいころから家族同様の付き合いがあったのだ。
なので皇子の悪いところもよく知っている。基本は優秀なのだが、変なところで抜けているところがある。自ら自分自身を裏切るような行動をとるのだ。




