第26話 皇子と司令官
メグとマリオンの爆炎音が王宮に響いたとき、元司令官であるヤールイコ将軍は新たに赴任してきたキリアムス皇子と食事し終わったころだった。
すぐに一人の兵士が応接室に入ってきた。
「報告であります」
ヤールイコ将軍は、頷いて報告を促した。
「司令部に侵入されました。残念ながら捕獲に失敗。王女の替え玉を連れて、司令部の屋根を伝って王宮外へと脱出。警備部隊が追跡しましたが、見失ったとのこと」
ヤールイコは
「わかった。追跡の結果が分かり次第、報告しろ」
と一言だけ伝えると、兵士は応接室から退出した。
キリアムス皇子が、ヤールイコ将軍ににやりと笑みを見せた。
「計画通りにいくかな」
「頂いた例の装置次第かと思われます」
ヤールイコは冷静に返した。
「まぁ、その通りだな。今日は到着したばかりで疲れたよ。報告は明日の朝に聞く。久々のベッドだ」
「皇子、お疲れさまでした」
うむ、とだけ言い残して皇子は応接室を後にした。
ヤールイコも、ほどなくして応接室を去り、部屋に戻った。
* * *
翌日、ヤールイコ将軍は、いつもの時間に目を覚ました。
侵攻軍の司令官として王都の治安維持、補給物資の管理、部隊の見回り、など忙しい日々が続いていたが、疲れているというわけではなかった。魔力が高いということは、疲労回復も早い。
そもそも少々の運動では疲れることすらないのだ。ヤールイコは、帝国内でも魔力が高いほうのため、あまり疲労しないのだ。
ただし肉体的に疲れないと言っても、計画立案や判断には十分な睡眠が大事だと、ヤールイコ将軍は信じていた。今のように部隊が駐留しているときこそ、十分に休んで入念な準備をすることこそ、将軍の務めと考えていた。
一方で、キリアムス皇子は魔価が高いわけではない。帝国から王都までの行軍による疲れは大きかっただろうと思われた。
コンコン
ヤールイコの寝室をノックする音が聞こえた。
「お目覚めでしょうか。朝食の準備が整いました」
ドアの向こうから、兵士の声が聞こえてきた。
「分かった。着替えてから行く」
ヤールイコは返事をすると、着替えを始めた。
着替えと言っても、持ってきている服はひとつだけである。あとは戦闘時の服装と、王との謁見をする際の豪華な服しか持ってきていない。
そもそも服には魔力が込められているので、高価であるとともに長持ちするのだ。ほとんどの平民は、一張羅で過ごす。そして清浄を使えば、汚れはたちまちに落ちてきれいになる。
ヤールイコが応接室に入ると、すでに朝食が並んでいた。皇子はまだであったので、飲み物に手を出した。
ガラスのコップにジュースを注ぐと、グイっと飲み干した。
「相変わらずうまいな。何というジュースだったかな?」
「マンゴーと言う果物です」
きりりとした応接室付きの兵士が返事した。
「そうだったな。さすがフルーツ大国とも言われるだけあるな」
ジュースを飲み終わるとキリアムス皇子が、おつきの二人とともに応接室に現れた。
「久々にぐっすりと寝れたぞ」
皇子は元気そうに言うと、お付きから飲み物をもらった。
「これはうまいな。これはなんだ?」
「マンゴーと言う果物です」
「もう一杯だ」
皇子は、すぐにジュースを飲み干すと、
「ここの司令官はこんなうまいものを毎日飲んでいたのか」
とちょっとした嫌味を言うのも忘れなかった。
二人は朝食を食べながら、昨晩の報告を聞いた。
報告に来たのは、昨晩とは別の兵士で、警備隊長だった。
「追跡装置を使って、敵の隠れ家を突き止めました。第三南街区の外れにある宿の4階でした」
キリアムス皇子は、報告をせかした。
「で、捕らえられたか?」
「いえ、残念ながら」
警備隊長は、下を向いた。
「警備隊が宿を取り囲み、治安部隊が突入したのですが、部屋には誰もいませんでした。見つけたのは発信機だけでした。それとメッセージが残されてました」
そういうと、兵士は一枚のカードを取り出した。
「貸してみろ」
皇子は、兵士からカードを奪うように取り上げた。
カードを読むと、キリアムス皇子はニヤついた笑みを隠せなくなっていた。
そういうと、カードをに渡した。
テルメール王女
必ず救出する
ガルド
司令官はカードを見た。なかなかの達筆だ。
「王宮攻略の際、大鷹を使ってテルメール王女と脱出したのがガルドです。追跡部隊が交戦し殺害したとの報告でしたが、とどめは刺していなかったとのことです」
警備隊はメッセージについてすでに調べ終わっていた。
将軍は皇子に説明した。
「ガルドが生きているとなると、ちょっと厄介なことになりますね」
「どんな奴だ?」
「人形使いと呼ばれる賢者のひとりです。一度に何百体もの泥人形を動かせるので、彼一人で軍団と同じ働きができると言われています」
将軍は皇子の質問に答えると、今度は警部隊長に質問した。
「宿の探索は? 隠し通路があるはずだ」
「探索は続行中ですが、今のところ怪しい通路などは見つかっておりません。宿の主人も、三日前からの宿泊客としか知らないようであります」
「宿を更地にしても構わん。徹底的に調べろ。行け!」
「了解しました」
警備隊長は、踵を返して応接室を後にした。
皇子のニヤニヤが止まらない。
「どうやら失敗したようだな」
皇子は、将軍の失敗を見るのが楽しくて仕方ないようだった。
だが、将軍は、気にする様子もなく会話を続けた。
「そのようですね。しかし、どうやって発信機に気が付いたのか…… 魔力を使わずに場所がわかるという話だったのですが。」
「確かにな。見た目は普通のブローチだからな」
「それと皇子、メッセージの意味はなんだと思われますか?」
少し皇子は考えた。
「王女への応援ではあるが… 我々へのメッセージでもあるのだろうな。我々の計画に乗るので王女を殺すな、というあたりか」
「なるほど、であります」
皇子は、あくびをすると、続けていった。
「さて、朝食の後にでも、王女に会いに行くか。ついでにカードを渡す」
「では、私もお供します」
皇子と将軍は、ゆっくりと残りの朝食を平らげることにした。
今日ぐらいは、のんびりとしたいというのが二人の本音だった。明日から、また忙しくなるのだから。




