第19話 王都リナエルテ
ノスアルムズ市から王都への旅は快適だった。
最初に馬車に乗せてもらったコンロン穀倉地帯への出稼ぎの御者は、このあたりの商隊では古株だったようで、すぐに王都へ行く商隊を見つけてくれた。
メグとガルドの腕も買われたようで、大きな商隊を紹介してくれた。食事も美味しく、なによりも馬車の乗り心地が快適であった。
この星にはケイ素を柔らかく加工する技術があるらしく、車輪からの振動を吸収する装置があるとか。
「射手座連合は浮かべちゃうし、地球は金属加工が大好きだし… 意外とケイ素の化合物でバネを作る技術がないのよね」
「そうか、俺たちしか知らない技術があったんだな」
ガルドは素直に驚いた。
メグは、ふと前の会話を思い出した。
「というか、何であんたは知らなかったよの!?」
「だから土加工は俺は苦手だって言っただろ!」
「苦手でもいいけど、知らないってどうなのよ」
「悪かったな」
ガルドは相手にするのを避けることにした。
「まぁまぁ、これは最近になって土魔法のザイール賢者様が作られた技術ですから。まだ、それほど普及はしてないので、ガルド殿が知らなくても無理はございません」
この商隊長さんがにこやかに説明してくれた。
そういえば、この10年ほどガルドは隠居していると言ってたのをメグは思い出した。なるほど新しい技術を知らないのは、それが理由かと一人で納得したメグであった。
そんな会話をしているうちに数日で王都に到着した。南大陸でも随一のバイエスタ街道だけのことはある。道中では何も危険なことは起こらなかった。
ただ何度か帝国軍の補給部隊とすれ違った。その時は広い街道から脇に降りて先を譲る必要があった。
そんな快適な旅を二日ほど続けた後、昼頃に王都に到着した。
ここ王都リナエルテでも城門での入出制限が行われ、王都民とクロクムス軍関係者だけが城の出入りが可能となっていた。商隊が城門から少し離れた場所に集まってるのも、門の前に臨時の市場ができているのも、ノスアルムズ市と同じであった。
二日間、お世話になった商隊にお礼を言うと、ガルドは市場を歩き始めた。
「何か探してるの?」
メグは、きょろきょろしているガルドに聞いてみた。
「あぁ。ちょっとな」
ガルドは、眼光鋭く屋台の一つを見定めると、つかつかと寄っていった。
「これを二つもらおう」
そういって買ったのは、白いパンのような食べ物だった。
ガルドは受け取ったパンを一つ、メグに手渡した。
そして一言、「旨いぞ」と告げた。
「これが探してたもの?」
「いや、違う。だが、まぁ探してなかったと言えばウソになるな。小腹が減ってたしな」
これ以上ガルドは説明する気がなさそうなのを感じて、メグは白いパンを頭からパクリと食べた。
「美味しい!」
「これは王都名物の羊の串焼きだ!」
ソースにつけた羊の肉を焼いて、それを饅頭みたいな薄いパンに包んでいた。ゴロンとした羊の肉がソースに絡まって美味しいだけでなく、付け合わせとして野菜もいい味を出していた。立ったままでも食べれて、手も汚れない、外の屋台で食べるには、最高の料理だった。
「この二日間の食事には満足だったがな。ここに来たら食べたくなるのさ」
ガルドも、食べながら説明した。
かなり速いペースで食べ終わった二人は、また市場を歩き始めた。
歩きながら、ガルドは汚れた手を腰につるした布できれいに拭いた。この布には魔力が込められていて、自動できれいになるという優れものであった。
最初は不衛生に思えたメグだったが、何度か使ってみて考えを変えた。非常に楽なのであった。
「次は、あの店に寄るぞ」
ガルドは呟くと、すたすたと市場の端に構えていた大きめの屋台に向かった。
メグが屋台に入ると、薄暗い中に食器、布、香辛料などが雑多に置かれていて、広い屋台が狭く感じられた。その奥には暇そうにしている二人の店番がいた。
「よお。お二人さん。この店の人かい?」
ガルドが二人に声をかけた。
「あぁ。何かお探しですかな?」
少し太ってひげを生やしたほうの男性が答えた。
「ちょっとレストランを始めたくてな。会長のヨルクに話がしたい」
「ほお。それは、どのようなものがご入用で?」
「小麦粉と羊の肉。そして剣を二本欲しい」
「剣が必要とは。何にお使いでしょうか?」
「それと盾が二枚必要だな」
ガルドは質問に答えず、さらに欲しいものを追加した。
「承知いたしました。お名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ。チャルガド森から来たイルガディスだ」
「それでは商会長にお伝えいたします。今は城内にいますので、二時間ほどで返事できると思いますので、そのころにまた」
「よろしくな」
ガルドは、屋台の外に出た。メグも、ガルドを追って屋台の外に出た。
昼間の日差しがまぶしかった。
「さて、あと二時間ほど暇つぶしするぞ」
「いいわね! 喉が渇いたかも」
「飲み物とデザートだな」
「賛成!」
メグとしては飲み物なんかより、ガルドを質問攻めにしたいところではあった。が市場の真ん中で聞くわけにもいかず、もうしばらくガルドに任せることにした。
* * *
「今宵のドラゴンの住まう左の指輪にて、剣と盾2枚を差し出すべし」
それが商会長からのメッセージだった。
二時間も待って出てきたのが訳の分からない秘密のメッセージだった。やはり市場の真ん中でガルドに確認することもできず、メグは一人で悶々としていたのであった。
一方、ガルドは呑気に市場を見て回って楽しんでいた。さすが南大陸で一番裕福な国の王都である。占領軍下であっても、物や食料は豊富に出回り、美しい服も大量に飾ってあった。すぐにメグは悩むのはやめて、心行くまでウィンドウショッピングを楽しむことにした。
夜は、商人たちが集まっている城外の広場で休憩をとることにした。この惑星は魔力が少ない星域に存在する。明かりを出すための魔力が限られるので、夜になるとみんなさっさと寝てしまうのだ。
皆が寝静まった夜の9時ごろ、ガルドとメグは広場を抜け出した。途中、見張りの衛兵に見つかったが、二人きりでデートと思われたのか何も言わずに通してくれた。
「おい。あまり近づかくなよ」
「しょうがないでしょ。まだ衛兵がついてきてるんだから」
真夜中だとメグの探知スキルはとても便利だった。さっきの衛兵が見張りとしてついてきているのが手に取るようにわかるのだ。
月が出てるので、ほんのりと地面と木の影が見える。王都の周りは整地されて広場になっているが、少し離れると緩やかな丘陵になった。平らなようでいて林や小さな沢があちこちにあり、隠れるには好都合だった。
二人は、林を抜けたところで、沢伝いに身を隠すように進んだ。
「で、どこで待ち合わせてるの?」
「あぁ。こっちだ」
一時間ほど歩いたところで、小さな林に囲まれた窪地でガルドは立ち止まった。
「ここだ」
月明かりが木々に阻まれて、ほとんど真っ暗だった。
闇の中から声が聞こえた。
「剣は持っているか?」
「あぁ。二本ある」
ガルドが間髪を入れずに答えた。
「盾は二枚持ってきた」
今度は闇の中から答えが返ってきた。
そして、窪地の脇の地面がうっすらと光った。
どうやら扉が隠されていたらしい。向こうの明かりが漏れてきたのだ。




