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第18話 ノスアルムズ市

 討伐した山賊たちが森の中へと消えていったのを確認してから、メグとガルドを乗せた馬車は再び走り出した。


 もともと乗客を詰め込んでいたところに、二名が入ったのだから、さらに室内は狭くなった。そのうえ、かなり振動がある。街道は、土と粘土を魔法で固めて作られてはいるものの、あちこちに段差がある。


 馬車は木を魔法で強化した素材でできていて、結構頑丈そうだが、揺れを抑えるダンパーやタイヤなどがない。

 揺れと振動で、メグは椅子から落ちないようにするので精いっぱいだった。


 憧れていた馬車旅行とぜんぜん違う。

 それがメグの感想だった。


 馬車は、時速20㎞程で街道を西へと進んだ。


 暗くなるまで馬車は進み、真夜中になって休憩になった。馬車の外に出て、簡単な食事をとると、誰もが寝てしまった。過酷な馬車の旅で、誰もが疲れ切っているのだ。


 翌朝は朝早くから出発。再び過酷な旅の始まりだ。


 だが、頑張っただけあって、その日のお昼ごろにはノスアルムズ市に到着した。バイエスタ(縦断)街道沿いに発展した街で、北に行けば地峡、西にはコンロン穀倉地帯、東は草原のある放牧地帯、そして南へ進めば王都へ続く交通の要所だ。


 メグたちが同乗した講団一行は、このまま西に進んでコンロン穀倉地帯へ、メグとガルドは南の王都へと向かうので、ここでお別れだ。


 残念なことに、ノスアルムズ市の城壁内には商隊は入れなかった。クロクムス帝国の軍隊が城門を取り囲んで、住民と帝国軍だけしか街には入れないのだ。その代わりに城門から少し離れた広場に商人の馬車が数十台集まっていた。


 メグ達の乗る一隊も、商人が集まる広場に馬車を止めた。


「それでは、お約束通り王都への商隊を探してみます」

 御者が商人たちがたむろしている広場へと去っていった。


「それじゃ、俺たちは、あっちの市場を見て回るか」


 ガルドとメグは城門前の広場にできた市場を見て回ることにした。街の中からも商人がやってきて、城内に入れない人に向けて屋台を開いたらしい。そこに通りがかりの商人だけでなく街の住人も買い物にくるようになり、小さな市場ができたという話だった。


「ルオンデ村を出てからの食事は残念だったからね。何か美味しいものが食べたいわ」


 きょろきょろとあちこち品定めをしながらメグが呟いた。


「この地方は、小麦粉を使った料理が有名なんだ」


 ガルドの言うとおり、小麦粉を焼いたり揚げたりした料理が目についた。メグも何を食べるか品定めに入った。


 とある料理に、メグの目が釘付けになった。具が詰まった丸いパンだ。


「あれって、ここの伝統料理なの?」


 メグがガルドに確認した。


「いや、知らん。見たことないな」


 メグは食べてみることにした。屋台のお姉さんに向かって「この珍しいパンを二つくださいな」と頼むと、元気な返事が返ってきた。


「はい! ピラシキを二つですね!」


 お姉さんはすぐにピラシキと呼ばれたパンを紙にくるんで渡してくれた。焼きたてで熱々で美味しそう。


「美味しそうね。この街の伝統料理なの?」


 お姉さんは、少し困った顔をしながら説明してくれた。


「実は、この占領軍の料理長から父が教わった料理でして… ちょっと悔しいですが、美味しいから広めちゃおうと売り出しました」


「名前はピロシキだっけ?」


「そんな名前です。正確じゃないですけどね!」


 屋台のお姉さんが、また別の食べ物を出した。


「あと、これは城内の子供たちに大人気の食べ物です。やっぱり占領軍が持ってきて、子供たちに配ったんですよね」


 そういって、見せてもらったのは、白いスポンジ状の小さな粒粒の食べ物。つまりポップコーンだった。


「美味しそうね。少しもらってもいいかしら?」


「どうぞ。でも少しだけしかないんです。原料が手に入らないので売り物ではないんです」


「原料はどこで手に入れてるの?」


「これも占領軍からもらったそうです」


 次の客が来たので、メグは会話を切り上げ、このピラシキを食べることにした。


「このパンがどうした?」


 ガルドが聞いてきたので、


「美味しいわね。でも、この料理を地球で見たことあるなって思って」


 とメグが答えた。


「そいつは不思議な話だな」


「不思議というより、大問題なのよね…」


 ガルドには説明しづらい話だった。


 地球の文化や文明を知っているグループが、この星に来たとしか思えない。


 メグが思いつくのは、ある異星人の賊だった。


 地球統一政府ができる前、異星人が地球に侵入した。いくつかの国の中枢に入り込んだあげく、大戦争を起こしたのだ。


 幸いなことに、撃退はできたが、残党が逃げたと言われている。


 その残党が、ピロシキとポップコーンを持ち込んで来てるのかもしれない。

 メグにとっては、まさかという思いだった。


「調べないと…」


 そうメグが決心した時、大きな笛の音が市場に響き渡った。

 すると市場にいたたくさんの買い物客が、一斉に帰り始めた。さっきのパン屋に並んでいたお客さんも、一人もいなくなってしまった。


「どうしたの?」


 メグは、暇になったお姉さんに聞いてみた。


「道を開けろっていう合図よ。たぶん補給部隊が到着したのね。二日に一回は来てるから」


 気が付けば、城門の前の道路には人影が消えて、広い舗装が見えていた。


 しばらくすると補給部隊が現れた。縦街道の北側からやってきた補給部隊は、広い縦街道一杯に広がっていた。ノスアルムズ市の前まで来ると、さっきまで市場が開かれていた城門から少し離れた場所に陣どった。


 メグとガルドは、屋台から一緒に補給部隊を眺めていた。


「城門の中に入らないのは、ちょっと意外ね」


 ガルドはうなづくと、


「万が一、街が奪還されていた場合を考えてのことだろうな。防御陣形に見える」


 と彼の分析を説明した。


「お、一部の部隊が城門に入るぞ」


「あれが宙を浮いているという噂の馬車ね」


 大きな布で覆われた馬車を二頭の馬が引いているのが見えた。両側には兵士がついている。メグが違和感を感じるぐらい、まるで地面の上をすべるように静かに移動していった。そんな馬車が10台ほど列をなして城門に入っていった。


「調べてみましょう」


「だな。今晩にでも忍び込むか?」


「何言ってるの。今から行くわよ」


 ガルドは一瞬、無理だろうと言いかけたが、とある技能のことを思い出した。


「認識阻害か?!」


 森の中でガルドの治療をしている間に、いくつか簡単な魔法を教えていたのだ。これから『女神の勇者』として調査を手伝うために、便利そうな魔術を教えていたのだ。


「ガルドは使いこなせるようになった?」


「うむ。まだ自信はないな」


「じゃ、私一人で侵入ね」


「真昼間だが、ほんとに大丈夫なのか?」


 ガルドが心配して尋ねた。

 認識阻害とは、自分の声に思念を乗せられるように、自分の体から反射する光に思念を乗せるのだ。そして姿が見えないと錯覚させるのだ。まぁ、影を薄くする方法である。


「明るいほうが効果が高いのよ。光がたくさん反射するからね」


 ガルドとしては半信半疑だったが自信満々のメグを見れば問題はなさそうだ。


 あとは、どこから補給部隊の陣所に侵入するか?


「みろよ」


 見てるわよ、と突っ込みたいのをメグは我慢した。


「えぇ、補給部隊の陣から兵士が出てきてたわね。統制が取れてないから、休みでももらったのかしら?」


「多分な」


 そんな兵士たちは、市場に来ると、買い物を始めた。

 ガルドはため息をついた。


「意外と緩いな」


「簡単に入れそうね」


 しばらく兵隊の行動を観察していたら、二人の兵士が陣に向かった。


「あの二人だな」


 買い物が終わって陣地に戻るのだろう。二人は、入り口の見張りに挨拶をして、そのまま補給部隊の陣所に入っていった。


 さっそく、二人の後をついていたメグも、見張りの前を通り抜けた。例の認識阻害は申し分なく効果がありそうだ。


 陣営の中は、テントがいくつも並んで張ってあった。その中から、運搬に使っている馬車を探し出さなければならない。もっとも重要な物資なので、中央にあるだろうと、陣の奥へとメグは歩いていった。


 そんなメグを心配そうに眺めていたガルドだったが、思わずつぶやいてしまった。


「ほんとに大丈夫だったんだな」


 万が一、メグが発見されたら救出に飛び込むため、じっと陣所から目を離さずにいたガルドだった。だが、ちょっと気を緩めるとメグの姿を見失いそうになる。なるほど認識阻害とは便利なものだとよく理解できた。


 しかし30分が過ぎてもメグは戻ってこず、ガルドが心配になりかけたとき、いきなり後ろから声をかけられた。


「ただいま!」


 ガルドは声ですぐに分かった。とはいえだ。


「メグ、悪いが驚かさないでくれよ」


「あら、ごめんなさい! たくさん収穫があって嬉しくって、つい」


「そいつは何よりだな」


 二人は市場から少し離れた誰もいない一本の木の下で、収穫を確認した。

 最初にメグが取り出したのは、黄色い豆が30粒ほど。


「これは何だい?」


 ガルドは、秘密の大砲や武器を見つけたと期待していたのだが、全然違うものが出てきて少しがっかりした。


「これはトウモロコシの粒よ。さっきのポップコーンってやつの材料」


「トウモロコシ? それって豆の一種か?」


「豆でも小麦でもコメでもないわ。地球でしか栽培されてなかったの。すごく栄養が高くて水と太陽があれば栽培できる作物よ」

「それが、ここにあると」


「それも大量によ。あの馬車、じゃなくて|バージ≪浮上艀≫何十台がトウモロコシでいっぱいになってたわ。この星で栽培が進んでるみたいね」


「つまり帝国は地球の文明を受け入れたってことか…」


「そうなるわね。それと浮く場所の噂も確かめたわ。と言っても証拠は写真しかないけどね」


 そうメグが言うと、馬車の下からの写真をガルドに見せた。

 馬車の下には車輪も何もない状態で浮いていたのがよく映っていた。


「ここからは、私の想像よ」


 メグは、自分の考えをガルドに説明した。


「20年前の話なんだけど、マグザールという賊が地球に侵入したの。この辺りの星々では犯罪者だから見つかったら捕まるので、自分たちが住める国を作るためと言われてるわ。なんとか撃退したけど、残党が地球の技術を持ち出して逃げたのよ。その一つがトウモロコシという穀物。つまり、この星に侵入したのはマグザールの残党というわけ」


「マグザールか。どんな奴らなんだい?」


「もともと犯罪者が集まった連中で、最低で残忍な奴らよ」


 少しメグの声に怒気がこもった。彼女が生まれたとき、日本もマグザールが起こした大戦に巻き込まれてひどい目にあったのだ。


「絶対に許さない」


 メグの決意のこもった言葉に、ガルドも力強く答えた。


「ああ。この星を渡してたまるか」


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