第17話 山賊戦
メグに向かった4人は、全員が盾持ちだった。メグの攻撃を警戒して少し離れた距離で盾を構えながらメグを囲んだ。メグが矢などを使おうとしたところを、切りかかろうというのだろう。
一方、ガルドと戦っている山賊6名だが、そのうちの3名が槍を構えていた。二人が槍のサポート、そして山賊のリーダーらしき人物が一番後ろで指揮を取っているようだった。
「ちっ」
ガルドの舌打ちがメグの耳に入ってきた。
メグの目の前にいる4名の山賊の向こう側に、ガルドの姿が見える。
探知した時にも感じたことだが山賊の魔力等級はかなり低い。いまだに一度も魔法攻撃を使ってこない。|バレットストーン≪石礫≫すらだ。おそらく魔法を使うのが遅いか、魔導具すら持ってない貧乏山賊なのだろう。
これなら術士5級のガルドなら問題ないはずだった。だが、まだ怪我も魔力も回復しきっていないようで、かなり手間取っているのが見て取れた。
とにかく剣では槍のリーチに勝てない。ガルドは盾と剣で槍を防ぎながら、敵のスキをうかがっていた。
一方、盾相手ではゴム弾は威力が足りない。
山賊は魔法攻撃を使うメグには盾持ちを、剣で戦うガルドには槍持ちをあてることに成功していた。
この状況を打開するには……
メグは足の念動アンクレットに魔力を流し込んで、一気に2mほど後ろに後退した。まったく呼び動作なしに動けるのが念動アンクレットのいいところだ。見慣れてない山賊たちは対応に一瞬遅れてしまった。
メグは4人を回り込むようにして、今度は6人の山賊の後ろを取るように動いた。
そうはさせじと、4人の山賊は慌ててメグを追いかけたが、そこを逃さずに物理結界を使って山賊の一人に体当たりをした。もちろんアンクレットを使った高速移動付きなので結構威力はある。
相手がよろけたすきに、ゴム弾を打ち込んで一人を動けなくさせた。
メグは残った山賊を放っておいて、6人の山賊の後ろにまわりこんだ。
バンバンバン!
メグの銃が火を噴くと、槍の2人が倒れた。
残り一人になった槍使いの動きが一瞬止まった。そこを逃さずガルドは槍をつむと、槍の柄を切り落としてしまった。
そこに叫び声が響き渡った。
山賊の右腕が切り落とされていた。どうやら最後の槍遣いを守ろうとした山賊の一人がガルドと切りあったらしい。だがガルドの剣の頑丈さに山賊の剣は砕けて、そのまま右手を切り落とされたらしい。
「くそっ!」
「お頭、強すぎですぜ」
メグを追いかけていた3人は、捕まえるのをあきらめて頭と合流した。メグは右に左にと華麗なダンスのように高速移動を繰り返しては銃を発射していた。
ただしメグも弾をあてることができずにいた。銃口を向けられた相手は必死に避けるのだ。銃で撃つのは難しい。そんなことを痛感したメグであった。
残りの山賊は6人
山賊のリーダー、いや、頭と呼ばれた男が叫んだ。
「しかたねぇ、馬車を狙え。人質にするんだ!」
山賊の2人が馬車に向かって駆け出した。
残りの4人がメグとガルドの間に立ちふさがった。
「馬車を頼む!」
ガルドが叫んだ。
「まかせて!」
メグは、一気に加速した。
4人の山賊は、メグの動きに全くついていくことができなかった。
あっという間に二人に追いつくと、メグは銃を至近距離からぶっ放した。まずは山賊一人。後ろから撃たれたら避けようがない。
残る一人には、馬車の寸前で追いついた。
こんなに早く追いつかれるとは思っていなかったのだろう。山賊は、慌てて剣でメグに切りかかった。だが結界の盾で剣を弾き飛ばすと、がら空きになった腹にゴム弾を二発撃ちこんだ。
これで、こっちは終了。
ガルドも、残る4人を相手にして、あっという間に戦闘を終わらせてしまった。
一人がガルドに切りかかったが、打ち合いになった途端に山賊の剣が壊れてしまった。頭は盾ごと左手を切り落とされてしまっていた。
これで戦意を失って、山賊は降参したのだ。
山賊の12人のうち、メグの銃で気絶したのが7人。右手を切り落とされたのが一人。左手を切り落とされたのが一人。最後は3人が無傷のまま、抵抗をあきらめた。
* * *
「いやー、実戦で使ってみると、すごい剣だと実感するな」
うずくまっている山賊の頭に自分の剣を見せつけながらガルドが呟いた。一方の頭だが、必死で右手で左手に魔力を送り込んでいた。少しでも痛みを和らげて、出血を抑えてるのだろう。
「だが、メグの武器はもっとすごいな。剣で戦うことがなくなりそうだ」
ガルドの誉め言葉にメグが「ふふん!」胸を張った。
「魔法を使うより早いし連射もできるしね」
魔法は使い方をイメージする必要があるので起動に少し時間がかかる。熟練の兵士なら別だが、なので戦いでは魔導具が使われる場合が多いのだ。魔導具なら魔力を注ぎ込むだけで決まった魔法を発動できる。例えば炎球や炎槍だ。
ただし魔導具の欠点は、威力が低いこと。それと高額なことだ。魔導具が買えるぐらいお金があれば山賊なんかする必要がない
ちなみに地球製の武器の評価は、魔導具なみに起動が早くて魔法並みに威力が高い。ただし弾数に限りがあるのが大きな欠点、となる。
「そんなことより、こいつら、どうするの?」
メグが、まるで問い詰めるような勢いでガルドに尋ねた。
「普通は縛りあげて、領主に報告して捕まえてもらうんだがな…」
ガルドは、少し考えこんだ。
侵略されている状況で領主が動けるわけがない。
しばらく考えていたが、どうも答えが出なかったようで、「おい、終わったぞ! もう出てきても大丈夫だ」とガルドは馬車に向かって怒鳴った。
馬車から、ぞろぞろと乗客が出てきた。
最初に出てきた御者がおとなしくしている山賊を見ると、「お強そうとは思ってましたが、もう終わりましたか。お怪我は大丈夫ですか?」と言ってきた。態度が恭しい。
「俺たちは無傷だ。向こうは腕を失ったのが二人いるがな」
ガルドの返答に、御者が驚いた。
「もしかして、全員を生きたまま捕らえたのですか!」
「まぁな。ちょっと出来すぎな気もするがな」
ガルドが御者と乗客に向かって確認した。
「それで、こいつらをどうする?」
すると、山賊の頭目が叫んだ。
「お願いだ。助けてくれ! 俺たちは地峡の岩砦に住んでた農民なんだ。戦で土地が荒らされて住む場所がねぇんだ」
馬車の乗客たちの議論は、なかなかまとまらなかった。連れていくわけにもいかず、では、殺してしまうのか? それも反対意見が多かった。
乗客たちが議論している間、メグは草の中から右手と左手を見つけ出してきた。
「修理してみるね。初めてだからうまくいくか分からないけど」
そう言うと、まずは山賊の頭目の切り落とされた左手をくっつけた。
「まずはクリーン。そしてヒール」
治癒魔法は、地球の大学校で学んだ。誰もが持っている生命力に働きかけて、傷を早く直すという技能である。不思議なことに、治癒する箇所を具体的にイメージすればするほど早く上手に治るのだそうだ。つまり骨や血管、筋肉などと言った体組織の知識を持ってるほうが効果が高いのだ。
大学校では傷の治癒は実習で試したが、切断の治癒はメグには初めてだった。重要なのは神経の治癒。どちらかというと、神経をくっつけるイメージが良いと先生は言っていた。
これだけの血を見るのも、人体の切断面を見るのも、メグは初めてだった。だが、意外なほど落ち着いて治療ができるのに、自分でも驚いた。
少しずつ痛みが引いてきたのか、頭の額の汗が減っていった。
「切断面がきれいだから、早く治りそう。いい剣士に切られたのが良かったのね」
メグの説明に、山賊の頭は礼を言った。
「そっちは、もうちょっと待ってね。そろそろだから」
右手を失った山賊に、メグは声をかけた。
メグが治療している間に乗客たちの話がまとまったらしい。乗客の中の一人がガルドの前に進み出た。
「わたしは、このコンロン豊穣という講団のリーダーです。もう山賊をする気力もなさそうですし、金も持ってないでしょうし、今回はこれで終わりとしたいと思います。それに、今の状況では領主に報告しても、何もしてもらえないでしょうしね」
メグの山賊二人の治療が終わると、山賊たちを放免した。みな、ぺこぺこと頭を下げて礼を言っていたが、農民という割には連携が取れていたなぁ、というのがメグの感想だった。ここで見逃したら、また誰かを襲う気がする。
「武器も取り上げたし、頭の右手は前と同じとはいかないだろう?」
ガルドがメグの気持ちに感づいたらしい。
「だから、あんまり心配するな」
「そうね。考えても仕方がないか……」
メグも処分を考えたが良いアイディアがでない。
世の中には正解がないときがあるが、これもそうなのだろう。




