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第15話 出発

 早朝、メグとガルドは村を出発した。


「ルオンデ村って名前だったんだ」


「村の入り口に書いてあるがな。文字は読めないんだったな」


「意外と村の名前って、会話で出てこないものなのね」


「だな」


 二人は、まず西に向かった。このまま進めばバイエスタ(縦断)街道に出る。


「結局、ギルドマスターの忠告は無視ね」


 メグが笑いながらガルドに確認した。


「せっかくの忠告を無視するのは心苦しいがな。縦街道の方が情報も集まるし、それに人が多いほうが紛れて王都に入りやすいはずだ」


 メグも、ガルドに文句を言うつもりは全くないので、そのままうなづいて西へ歩き続けた。ルオンデ村から西へと進む街道は、昨日までの道に比べると歩きやすかった。舗装道路ほど滑らかではないが、道がしっかりと固められている。これなら馬車でもスムーズに移動できそうだ。


 「メグの生まれた星でも、馬車とかで移動するのか? それとも空を飛ぶのが当たり前だったりするのか?」


 ガルドが質問した。


「最近は空を飛ぶことが増えてきたかな。乗合リフトの駅があちこち飛んでいて、大きな飛行船にみんなで乗り降りしてるかな」


 ガルドは外星の話は知っているので隠す必要はないのだが、どこまで説明していいものやら。


「地球は20年ぐらい前まで、魔法や技能が使えなかった話はしたわよね」


「ああ。覚えてる」


「魔法が使えなかったときは地面の底から石油を取り出して使ってたのよ」


 ガルドは、初めて石油と言う言葉を聞いたのだった。


「石油ねぇ。それってなんだい?」


「要するに油ね。油って燃えるでしょ。それをエネルギーに変えて馬車みたいのを動かしてたのよ」


「想像がつかねぇな。油なら食べたり燃やして暖を取ったりするのはわかる。だが馬車を動かすのが分からん」


「え? エンジンって言って…」


 多分エンジンって言っても伝わらないし。正式名称が内燃機関だけど、あまり変わらない気がする。どう説明していいやら…


「爆発が回転に変わる魔法のような不思議な機械があって…」


「いや、説明しなくても大丈夫だ」


 ガルドは話が長くなるまえにメグを止めた。


「単に3日で500㎞を進軍する方法を考えていただけさ」


 あー、なるほど。とメグは心の中で思った。

 最初は誇張してるか単に間違った情報かと思った。だが受付のお姉さんもギルドマスターも同じことを言ったのでおそらく事実に近いと考えるべきだろう。


「ちなみにメグは、一日100㎞ぐらいなら走れるだろ?」


「それぐらいなら、まぁ」


「だと思った。もしかして導士か?」


「導士3級ぐらい。正確に測ってないけど」


「はは。俺と同じか。だが軍隊が一日100㎞移動できると思うか?」


「うーん、走るだけなら可能な距離だけど装備を持ったら難しいかも…」


「そこだ。あの重たそうな装置を持って走るなど不可能だし、食事を準備する時間も足りない。しかも細い街道を100㎞で移動したら隊列が組めない。軍として機能しないはずだ」


 ガルドが考えこんだ。


「たとえば馬車の車輪に妖精を憑依させたらどうかしら? それで車輪を回して走ったら重い荷物も運べない?」


「車輪にか? 不可能じゃないと思うが…」


 メグの提案について、ガルドは思案してみた。

 確かに可能だし、面白そうな使い方ができそうだ。


「なるほど。そういう使い方もあるかもしれんな。ただ馬車だと舗装された道が必要だな。でないと車軸が壊れちまいそうだ」


 メグは、地球のトラックのようなものが作れないか考えてみた。妖精駆動で何とか動きそうだ。車体も強化ケイ素で作れるし、エンジンもないとなれば軽くて頑丈なものができそうだ。


 問題があるとすれば、タイヤとダンパーだ。衝撃吸収ができないと、速度を上げると振動がひどくなるのは想像できた。


「ゴムか、バネがあればな~」


「今度は、なんだい?」


「両方とも、ちょっと柔らかいけど形が崩れない素材よ。振動を吸収してくれるの」


「ふーん。いろんな素材があるんだな」


「魔法が使える星って、ケイ素で何でもできちゃうから。意外と金属や有機化合物を知らないのよね」


「そういうものか。で、有機化合物ってのは?」


 そんな会話をしながら、二人は街道を西へと進んだ。


 のんびりと会話をしているが、競歩のような速度で歩きながら会話ができた。魔法による肉体強化のたまものだった。


 * * *


 お昼に差し掛かり、メグとガルドは昼食の時間になった。


 街道のすぐわきを流れる小川のふちに腰掛け、ルオンデ村で仕入れたランチを広げた。小川の流れる音が心地よい。街道の向こう側には森が広がっていて、


「黒猫亭、最高!」


 メグはサンドイッチを頬張りながら、最高の誉め言葉を口にした。ちょっと口の中がいっぱいで話しづらそうだ。


「こいつはいけるな。ちなみに、あと数時間で次の村に到着だ」


 一方、ガルドの誉め言葉は抑え気味だった。

 ガルドは常に次の行動について考えるタイプなのだ。おそらく。


 サンドイッチを食べ終わったころ、街道を一台の馬車が通りかかった。


「おーい!」


 ガルドが馬車に手を振った。


 馬車が二人の前で止まると、御者が挨拶をしてきた。


「やぁ、いい天気じゃな」


 ちょっと年をとった、気のいい感じの御者だった。


 ガルドが大きな声で尋ねた。


「もしかして王都に向かってるのかい? それなら二人を乗せていってほしいんだが」


 御者も大きな声で返事をした。


「すまんのう! 俺らはコンロンに向かう講団じゃよ。このまま西に向かって、コンロン平原で収穫の出稼ぎに行く途中なのじゃ」


「そうか、分かった! 引き留めてすまなかったな!」


「おう、いいってことよ! じゃ、先に行かせてもらうとするさ~」


 御者が馬二頭に鞭を入れると、馬車は軽快に走り出した。

 結構、大きな馬車だ。


「あれ、何人ぐらい乗れるの?」


「そうだな。荷物の量にもよるが10人から15人ぐらい、ってとこだな」


「かなり詰め込むのね」


「村の出稼ぎ連中で馬車を借り切るんだ。それで西にあるコンロン平原の穀倉地帯で仕事を探すのさ」


「出稼ぎってやつ?」


「そろそろ収穫の時期だからな。麦を刈って、乾燥させて、選別して。大変な人手がいるんだ。秋になると、ああして仕事を求めて人が集まってくるんだ」


 メグは納得して、大きくうなづいた。

 地球とあまり変わらないなと。


「今年も豊穣の祈りが捧げられることを祈ろう」


「王女も大変ね。捕まった上に豊穣の祈りを捧げろなんて命令されて」


「まぁ、そう言うな。テルメールなら、どんな状況でも豊穣の祈りを捧げるはずだ。それが国民のためだからな」


 ガルドは荷物をしまうと、立ち上がった。


「さて、出発とするか」


 また二人は街道を歩き始めた。

 美味しいサンドイッチでお腹を膨らませて。


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