第12話 ルオンデ村
激しい空中戦から数日後。
ガルドの怪我が治り、メグとガルドは王都を目指して森の中を歩いていた。
「すまないわね、けが人にまかせちゃって」
「問題ない。もう大丈夫だ」
そう言うとガルドは刀を振り下ろした。
傷は完治とは言えないが、剣を握る手は力強く両足でも踏ん張ることができた。これなら下草を刈りながらでも楽に森の中を進められる。
最初はメグが先頭を進んでいたのだが、下草を刈るのに慣れておらず時間ばかりかかってしまった。仕方がないのでガルドが先導することになったのだ。
「こんなに早く回復するなら大鷲ダルに乗れたわね」
まずは今の丘陵地帯に広がる森を抜け出して草原に出る。そうしたら街道を伝って王都まで進むのが計画だった。
「はは、それができたら今頃は王都についてるな。ダルを乗りこなすほど魔力は回復してない。これがリハビリにはちょうどいい」
そう言うとガルドは大きく剣を振り下ろした。
確かに、今の状態で見つかっても空中戦は無理だろう。
やはり地道に歩いていくしかない。
「だが、この剣のおかげでずいぶんと楽をさせてもらってる。おかげで道を切り開くのが楽で仕方がないな」
「そうなの?」
「森の中を歩くってのは、もっと大変なんだよ。本来はな。こんなペースで下草を刈っていると、すぐ剣が使い物にならなくなるんだ。木の幹なんかを切りつけちまったら、折れる場合もあるしな」
ガルドは手に持っている地球製の刀をしげしげとみた。
「最新鋭の技術を詰め込んでますからね」
メグは少し得意げに返した。
この剣は鍛造で魔力を練りこんだうえに、さらに魔法陣加工で強化してある。切れるだけでなく頑丈だ。それに比べるとガルドたちが使っているセラミック製の剣は、切れ味はいいが脆い。
「ところでガルドの剣の腕前はどうなの?」
「戦闘技術のことか? 俺は他人に戦ってもらうのが専門だから、それなりってとこだな。とはいえ腐っても50年前の戦乱を生き延びるぐらいの腕はあるかな」
「じゃぁ剣はお任せするわ。私は、結界とこれで」
そう言うとメグは左手に結界を張り、右手では拳銃を構えた。
「銃ってやつだっけ? 俺の腹を撃ちぬいた武器か」
メグが銃を構えて撃つポーズをとった。
「ふふん。矢の届かない遠くから、狙いすましてバンバンバンよ!」
メグは胸を張って答えた。
この拳銃も魔装強化されているうえに、各種の魔力弾を打てるのだ。
「ずいぶんと技術が変わったようだが、それも地球の技術なのか?」
「そうよ」
メグの返事にはガルドは何も返事をせずに、黙々と剣を振るい始めた。
* * *
森が少しずつ明るくなり、丘陵地帯を抜けると、草原に出た。
草原は真っ平ではなく、ほんの少し起伏がある丘が遠くまで続いていた。丘の間の窪みには林が残っている。よく見ると羊があちこちで草を食べているのが見えた。この辺りは放牧が中心なのだ。
「早いとこ街道に出たいな」
ガルドは、どんどんと草原の中へと進んでいった。
「丘陵地帯に沿って細い街道が通っているはずだ。街道を東へ進めば大きな町に出るはずだ。無視してまっすぐ南へ進めば王都だな。今日の目標は、日が暮れる前に一泊できる町にたどり着きたい、ってとこだな」
大陸の地図がガルドの頭の中には入っているのだろうな。そんなことを思いながらメグはガルドの後をついていくのに必死だった。
「もうちょっとゆっくり歩いてよ」
森や草原の中を歩いた経験がないメグは、ずっと石ころや草の根っこに躓きながら歩いていた。王都まで200㎞近く歩くことを考えると、憂鬱になるメグであった。
早朝に出発してから歩くこと数時間、お昼過ぎに街道に出た。
しっかりと踏み固められた道は、メグにとっても歩きやすくなった。さっそく、少し機嫌が戻ってきたメグだった。
* * *
街道を歩くこと約3時間で、小さな村に到着した。
陽が沈むまで、まだ少し時間の余裕があった。
村は低い土壁に囲まれていた。一か所だけ、開けっ放しの門と、その横に門番がいた。
「よお、旅のお二人さん」
大柄だが、何か親し気な感じで門番が声をかけてきた。
「こんな時期に旅とは、大変だな」
村や町での受け答えはガルドが担当することになっていた。
「やあ。お疲れさん。大変って何があったんだい?」
「知らないのか? 大きな戦争があったって話だ」
「そうなのか? 森の奥から出てきたばかりで何も知らないんだ。これから王都を目指しているのだが、道は大丈夫か知らないか?」
「商人は行き来しているから大丈夫と思うがな。王都へ行くのならここで泊まっていくといい。そろそろ日が暮れてしまうからな」
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
ガルドが門番に礼を言うと、二人は村の中に入っていった。
人口は千人ぐらいだろうか。町というよりは村というほうが、メグにはしっくり来た。ただ、意外と人通りは多い。夕方なので子供と女性が目立つ。
「まずはギルドに寄ってみるか」
ガルドの言葉にメグは興奮を抑えきれなかった。
「ギルド! ほんとにあるんだ!!」
「妙に嬉しそうだな。ギルドは初めてか?」
「もちろん! なんだか興奮するな~」
* * *
ギルドは、村の入り口から続く村一番の大通りに面していた。
「ギィー」という音を立てて、ギルドの入り口をドアを開けて、中に入った。
中は少し薄暗く、ひんやりとした部屋になっていた。
ガルドは、まっすぐ受付を目指して歩いて行った。一方メグは、部屋の中をきょろきょろ見渡していた。掲示板には、依頼の紙が貼ってある。受付の反対側は、簡単な食事処になっていて、10人ぐらいがこちらをにらんでいた。
メグは、小走りにガルドのあとを追いかけた。
「よお」
ガルドが受付のお姉さんに声をかけた。
受付のお姉さんも慣れたもので、そっけなく返した。
「ここは初めてかしら?」
「あぁ。さっそくだが、そこの娘さんにギルドカードを作ってほしいんだ。それと今晩の宿泊場所、うまい食事処、あと王都への道順を教えてもらえると助かるな」
「分かりました。ギルド証はお持ちですか?」
ガルドは「はいよ」と言うと、一枚のカードを出した。
「術士5級のガルドさんですね。確認しました」
「ありがとさん」と言うと、すぐにガルドはカードをしまった。
「それでは手続きを始めますので、お名前をお願いします」
メグは、自分に聞かれているのに一瞬、気づかなかった。
「あ、メグです」
「了解しました。術士のガルドさんの紹介であればギルドカード作成は問題ありません。ただ、この村では等級測定ができませんので、ギルドカードの作成だけになります」
「それで問題ない」
「メグさんは何か得意な技能とかお持ちでしたら、記録しておきますが。いかがなさいますか?」
メグは、すぐに答えられなかった。
少しガルドを見ると、代わりに答えてくれた。
「あぁ。念話が得意だ」
「あら、それは貴重な能力ですね。あちこちからお声がかかると思いますよ」
少々お待ちください、と言葉を残して受付のお姉さんはギルドの奥へと入っていった。
「ここじゃ大体の技能持ちは重宝されるのさ。念話使いなら商人やギルドで引っ張りだこだ。ましてや念視共有ができるなら軍だって欲しがる」
「そうなんだ」
「数が少ないからな」
「じゃぁ術士5級のガルドの得意なのは何?」
「俺か? 風だ」
そう答えたガルドだったが、なんとも自信がなさそうだった。
そんな会話をしていると、意外と早くメグのカードができてきた。
「新しいギルドカードです。すいませんが初級からのスタートになります。先ほども言った通り、ここでは中級以上のランクを発行できないのです」
カードを受け取ったメグは、いつもの鞄にしまい込んだ。
なんでも入る、驚きの鞄である。
受付嬢は、今度はガルドに向かった。
「それでは、先の質問にお答えします。この町の宿泊場所は一か所、黒猫亭です。この通りを挟んだ反対側にあるのですぐに見つかると思います」
ガルドとメグは、思わずギルドの入り口を見た。
だが窓はないので、黒猫亭は見えなかった。
「食事処は黒猫亭のレストランがおすすめですが、ギルドの酒場でも食事は提供しています。どちらも美味しいですよ」
受付のお姉さんは、にっこり笑うと奥の酒場のほうに視線を流した。
「こちらのおすすめは地ビールですね」
すすめるのが上手だ。
「最後に王都への道順ですが、今は王都に行くのはあまりお勧めしません」
「どういうことかい?」
「私も詳しくは知らないのですが、王都で大きな戦闘があったという話です。占領されたという噂もあります。ギルドでも北の砦が襲われたという情報も来ていまして、確度は高いかと。今は安全が確認されるまで動かないことをおすすめします」
「なるほど、覚えておこう。一応、王都への道順を聞いておきたい」
「分かりました。おすすめのルートは、ここから東に60km程でバイエスタ街道に出ます。そこから南に進めば王都です。もう一つは南ルートがあります。南に40㎞先に小さな村があります。そのあとも村を伝って王都近くまで行けますよ。どちらでも距離にして約200km程で王都に到着できます」
「分かりやすかったよ。ありがとさん」
ガルドは礼を述べると、さっとギルドから出て行った。メグも、あとを追いかけた。
「では、今晩の宿を確認しますか」
「いい宿だといいな~」




