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第11話 女神とホウレンソウ

 次にガルドが目覚めたときには昼間になっていた。

 昼過ぎの、あたたかな日差しが降り注いでいた。


「気分はどう?」


 目覚めたガルドに気が付いたメグが、声をかけた。


「あぁ。ずっといい。生きてるという実感があるな」


「それは良かった」


 そういうと、メグは小さな塊をガルドに渡した。


「それが何だか知ってる?」


 掌の上で転がしてみたが、どう見ても小さな金属がひしゃげた塊だ。まったく心当たりがない。首を横に振りながら、ガルドは質問した。


「いや、まったく。これは何だい?」


「それはね、この世界に存在してはいけないものね。それがガルドの胸の中から出てきたのよ。だから驚いているの」


 ガルドには思い当たることがあった。


「地上に落ちたとき、何かに腹を貫かれた。それが、その塊だったんだな」


 メグは少し混乱したような顔をした。


「地上に落ちたって、あの大鷹で空を飛んでたんでしょ?」


「あぁ。だが、追いつかれてしまった。空飛ぶ乗り物が5台で追いかけられた」


「空を飛ぶ乗り物…… ここには飛行艇は存在しないはずよね」


「飛行艇? あぁ、あの乗り物の名前か。そうだな。俺以外に飛べる人間がいるなんて、俺も思ってもなかったさ」


 メグは、大きなため息を吐いた。


「とんでもないことが起きてるのは確かね。ガルドさん、何が起きたか最初から話してくれない?」


 ガルドは、王都に到着して逃げるまでを話した。

 突然の侵略、魔法が使えなくなる矢、結界を簡単に破壊する大砲、500㎞の距離を10日で移動してきた敵軍、それも何万人も。そして最後は空を飛ぶ乗り物。


 ガルドが話し終わると、メグはまたも大きなため息を吐いた。


「それと、さっきの金属の塊を打ち出す何かを持っていたと」


「そうなるな」


「どこから来たのか知ってる?」


「国王が言ってたが、北の大陸から攻めてきたらしい」


 メグが大声で叫んだ。


「あー、もうイエローどころか、確実にレッド案件じゃないの。初めての派遣で、いきなりレッド対応なんて。研修だって、これからだったのに~~」


 ガルドにとっては、言葉はわかるが意味が全く分からなかった。


「こういう時は、どうする? 考えよう。落ち着いて…… そう、ホウレンソウよ。上司に報告が第一ね」


 ガルドは色の話から葉っぱの話に変わったので、さらに混乱した。


「菜っ葉だよな、ほうれん草って」


 ガルドの質問を全く無視して、メグが鞄から白い板を取り出した。


 必死な顔をして、白い板切れを叩いたりなぞったり。そんなメグの様子を見ていたガルドだが、気になっていたのは別のことだった。どう見ても白い板のほうが、入っていた鞄より大きいのだ。


 少しするとメグの動きが止まった。

 かなり真剣な顔で、じっと静止した。


 白い板から、何か音が聞こえてきた。


「こういう時に限って、なかなか出ないんだから。すぐに対応しろって自分は言うくせに」


 ガルドの推測では、白い板を通して誰かと話そうとしているように見えた。どういう原理なのかは想像がつかないが、そんな気がしたのだ。


 メグはタブレットを操作して局長との通話をしようとしていた。忙しい局長と話せるのは、この時間帯だけなのだ。まずはタブレットと基地にある通信装置と連携させてから、今度は恒星間通信を始める。これで500光年先にいる局長まで直通でつながるのだ。


 待機中の音から通話の音に変わったとき、やっとこの状況を相談できる相手ができたと思ってメグはほっとした。だが、流れてきたのは思いがけない音声であった。


『ただいまおかけになった電話番号は現在使われておりません』


「ふ・ざ・け・る・な !」


 メグは、頭が空っぽになるぐらい怒った。


「直通電話で待機メッセとか昭和ネタか!」


 大きな声を出したら、さらにメグの怒りが高まってきた。


「私だって、本物は聞いたことないのに! 何考えてるの、あの局長!!」


 そのとき、タブレットの向こうから局長の声が聞こえてきた。


「あら、メグちゃん。調子はどう?」


 さっきまでの怒りは、あっという間に消え去り、メグは懇願モードになった。


「田中局長~ 大変なんです~」


 そして、ガルドから聞いた話を局長に報告したのであった。当然レッド状況であり、援軍を期待していることも伝えた。


「メグちゃんお手柄じゃない!」


「そうですか~ 褒めてもらって嬉しいです~」


「でも、一つだけ確認させて頂戴。今のところ見つけたのは鉛の弾が一発だけよね?」


「そうですけど?」


「それだと物証が足りないわね。ほとんどが状況証拠や見聞だけなのよ。犯罪者が数名紛れ込んだだけかもしれないし。ということでイエローで頑張ってね、メグちゃん!」


 メグは、想像できなかった状態にパニックになった。


「え、イエロー?!」


「あー、レッド昇格権限をあげるので、適当に判断していいわよ。ごめんね、こちらも忙しくて手を回せないのよ」


「あ、あ、田中局長~~」


「それじゃ、頑張ってね!」


 プー、プー、という音がタブレットから聞こえてきた。

 この音も、田中局長の趣味だな。


 がっくりとうなだれているメグに対して、しばらく動きそうにないと思ったガルドは軽く質問をしてみることにした。


「今のは誰かと話してたんだろ? でも、板から聞こえる声は、全く理解できなかったな。知らない言葉なのだろうけど、何で理解できないんだ?」


 メグは力なく、ガルドを見た。


「今の技術では途中で思念波が落ちるのよ」


「思念波?」


「テレパシー、念話、いろんな言葉があるけど、魔法の力が言葉にこもっていて、それで話を理解できるのは知ってるわよね。この装置を通して電気処理すると思念波が落ちてしまうのよね」


 ガルドは、メグの説明を聞いて、やはり理解するのをあきらめた。


「なら、黄色とか赤とか、なんの話なんだい?」


「それはね。赤は緊急事態で文明が脅かされていること。そして黄色だと可能性が高いという感じね」


 ガルドはがっかりと肩を落とした。


「この状況でも赤にならないのか……」


 メグもガルドの気持ちが理解できた。一方で局長の意見も一理ある。単なる内星国家間の争いに保護管理局は大っぴらに介入できないのだ。あくまで知識や技術を教えて導くというのが建前だ。


「ごめんなさい。それと大事なことを伝えるね。黄色ということは、ガルドが今まで聞いたことは全部秘密にしてちょうだい」


「なるほど。もし話したら?」


「その時は、この星で生きてくことはできないと思いなさい!」


 メグの意外な返事に、ガルドは少し驚いた。


「そうだ、ガルド」


 メグの声が急に元気になった。


「私の助手になりなさい。どうせレッドになるのは間違いないわ。黒幕を調べて、誰が王女をさらったのか調べだしてやるわ。何なら王女の救出も手伝うわよ」


「そりゃ願ってもない」


「契約成立ね。助手として色々と教えられるわ」


 ガルドも恭しく首を垂れるとメグに宣言した。


「このバルガルド、再び勇者として女神にお仕えします」


 ガルドの意外な宣誓に驚いたのはメグだった。


「え? 再び勇者って、もしかして?」


「あぁ、50年前に勇者として女神に仕えたのさ」


 保護管理局の通称は女神局。星の文明を滅亡から救い導くのが役目。そして芽上は聞いたことがあった。現地で登用し女神と一緒に仕事をする仲間を勇者と呼ぶ、と。


「あー、それは良かった。一から全部説明しなくても大丈夫だ。じゃ、よろしくね、私の勇者様」


追撃編、完了です。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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