〜突然の終焉の宣告 そして 決意〜
同時間。某ホテル。
浅井心音はそこにいた。
そして今目を覚ました。
「うーーーんよく寝たーー」
「さあ起きて支度したら、警察署に行かないとね」
「不知火さんとも約束したし」
「もうやらないといけないこともないしね」
心音は、布団から飛び出して洗面台の前に立った。
その直後だった。
心音の心臓が突然異常活動を始めた。
そして心音は激しく吐血した。
その余りにも激しい吐血により、心音は軽い貧血状態になった。
「……はぁ……はぁ……い……今の……な……何……何で……私……か……身体の中が……何か……おかしい……!?」
心音は急に起こった出来事に理解が出来なかった。
そんな心音の目の前に、あの鳥の置物が現れた。
【おやおや……ついに限界が来たようだね……】
【まー人間にしては中々長い間頑張ってたと思うけど】
【そろそろ終焉だね心音】
その鳥の置物は、心音の心にそう語り掛けてきた。
その言葉を聞いて満身創痍の心音は、振り絞る様な声で言った。
「終焉!? セイレーン! 一体どういうことなの!?」
【……私の血は……いや能力は人間には負荷が強くてね……】
【だからその反動がどうしても大きくてね……】
【アンタの身体はもうそれに耐えきれなくなってきてるってことなんだよ】
【まー恐らくだけどアンタは後もう一日……いや本気で歌うなら後一曲が限界ってとこなのかもしれないねぇ】
その言葉を聞いて、心音は膝から崩れ落ちた。
「そ……そんな……そんなことって……」
心音は、そのまま少しの時間項垂れた。
でもその後で、何かを決意して立ち上がった。
「……でも……これでようやく……龍一さんの元に逝ける」
「それは私が望んでいたことだから」
「だから死ぬことなんか何も怖くない!」
「でも……どうせ死ぬなら最後は華々しく散りたい!」
そして心音は、意を決して今まで絶対連絡取らないと決めていた人物に、電話を掛けた。
「もしもし……お久しぶりです……心音です……」
その非通知の電話の相手に藤田は驚愕した。
その電話の相手はもう二度と電話が掛かって来ると思っていなかった心音だったからだ。
「心音……今どこにいるんだ?」
「自分が今まで何をしたかわかっているのか?」
「とにかく今すぐ会いたいから今いる場所を教えてくれ」
その問い掛けには一切答えずに、心音は藤田に自分の要件だけを伝えた。
「……私近々死ぬそうです……」
「だからその前に最後のライブがしたいと思って連絡しました」
「私の方でもネットに書き込みはしますが、藤田さんにもそのライブに来て欲しいと思っています」
「そして私の最後の勇姿を見に来て下さい」
「それではお待ちしてます」
それだけ伝えると、心音は一方的に電話を切った。
「心音! 心音!」
もう藤田の声は何も届かなかった。
心音は、ネットに書き込みを始めた。
『Kanade こと浅井心音。明日最後の一曲だけのライブを行います。時間はお昼の0時頃開演で、場所は○○○です。私の歌で眠りたい人。眠らせたい人がいる人。また、私を殺そうとしている人。私を恨んでいる人。誰でも参加自由です。私の最後の舞台を見に来て下さい。ただ私のライブの邪魔をしに来る人は、それ相応の覚悟できて下さいね』
心音がネットにそう書き込むと、その書き込みに対して多くのリプライが届いた。
『どうせガセネタだろ』
『浅井心音は今や国家の敵だぞ。こんなライブをするわけがない。大体何の意味があるんだ?』
『例えガセでも心音様だと信じて私は行く』
『こんなところでライブをするなんて言うのは心音様しかいない!』
『バカな!こんなとこでライブするなんて馬鹿げてる!絶対ガセだ!』
『〇〇TVです。当日は必ず行きます。最後のライブ撮らせて頂きます』
『ガセとか関係ない!この場所でライブするなんて奴がいるならそれは見にいくべきだ!』
『こんなの警察への宣戦布告以外考えられない!』
『これは絶対心音様だ!心音様を崇拝する人間なら絶対行くべきだ!』
『心音様がついに国家を倒す時が来た。自分の命なんか関係ない!その舞台を俺もこの目で見たい!』
『生だ!生で心音様の歌が聞ける!絶対行く!』
『眠りを誘う歌を身を持って体験してみたいから絶対行くぞ!』
そんな数多ある声がその書き込みに寄せられ、一日にしてその日の話題を掻っ攫った。
そしてそれは当然メディアにも届き、そして警察にも届き、国家にも届くこととなった。
その日のニュースはこの話題で持ちきりとなった。
【浅井心音と名乗る人物が明日ゲリラライブをとんでもないところで開催!】
そのニュースに対してコメンテーター達は、『バカげてる』『これが本当だとしたら国家は意地でもこの開催を止めに来るでしょう』『私はちょっと見てみたい気もします。だって誰もこんなことしたことも成功したこともないですし。テロっぽいですが歌を歌うだけなら、ちょっと見たい気持ちもあります』等意見が様々だった。
だが警察と国家は、この書き込みにイラつきを抑えられなかった。
「諸君! 明日のライブだけは絶対阻止だ! この開催を阻止出来なかったら警察の恥だ! 明日こそ浅井心音を必ず逮捕するぞ!」
西条圭一警視総監は、警視庁で幹部クラスを一同に集めた臨時集会で、そう全員に発破をかけた。
その中には、今回の浅井心音事件を最初からずっと受け持っている新庄もいた。
同時刻。神宮寺護防衛副大臣は誰かと英語で話をしていた。
(俺が神宮寺家最後の人間として、如何なる手段を用いても浅井心音は殺す!)
(その為に海外から優秀な狙撃手を雇った)
(浅井心音! 今度こそ神宮寺家の名の元にお前を抹殺する!)
同時刻。立花は取調室に不知火を呼んで、その書き込みを見せていた。
「どういうことだ? 心音さんは自首するんじゃなかったのか? いやそれよりも最後ってどういうことだ?」
不知火は激しく動揺した。
「……やはりか……お前も知らないってことはこれは単なる心変わりって話でもなさそうだな……」
その立花の言葉を聞いた不知火は、少し落ち着きを取り戻して答えた。
「……ああ……心音さんが最後だって言ってる意味は俺にはわからない」
「それに一曲歌ってから自首するってだけならあんな場所を選ぶ必要も無いし」
「あの場所で歌うってことが何か心音さんのメッセージだとするなら……」
次の瞬間、不知火は急に立ち上がって、取調室を出ようとした。
だが間一髪のところで、立花はそれを制した。
「クッソーーーー! 最後の舞台なのに俺は見に行けないのか!」
「最後くらい心音さんに会わせろーー!」
倒された体勢から、不知火は立花に向かって叫んだ。
「不知火! お前をここから出す訳ねえだろ! お前はここで大人しくしてろ!」
立花はそう言った後で、不知火を他の警察官に引き渡した。
(最後か……事情はわからないが一曲歌って終わりにしようってんなら、俺もアンタのラストライブに付き合おうじゃねえか!)
そんな様々な思惑を知ってか知らずか、心音は一日中発声練習をしたり、衣装になりそうな服をネットで買って宅配させたりしていた。
(よしっ! 準備万端! さあ明日は私の最後の舞台だ! 悔いのない様にしなくちゃね)
心音はそんなことを思いながら、眠りについた……。




