〜悲劇の始まりの真相〜
その翌日。藤田は事務所に呼び出されていた。
「藤田さん……今まで私は貴方の功績を知っているからこそ、多少の無茶は聞いて来ました」
「ですが、貴方の担当だった浅井心音さんは今、国家転覆を企むテロリストとして、また多くの人間を殺した罪で、国家に追われている犯罪者となってしまってます」
「これは今まで知らなかっただけでは済まされない案件です」
「よって貴方を解雇することにしました」
社長は、淡々と藤田に告げた。
藤田はその言葉に動揺を見せることもなく、淡々と答えた。
「わかりました。今までお世話になりました」
藤田は深く頭を下げて、事務所を後にした。
「ちょっと! 話し違うじゃん社長!」
「アタシ藤田さんと付き合いたくて色々頑張ったのに!」
その様子を陰で見ていた女性がいた。明日香だ。
「明日香ちゃん……仕方ないじゃんよ……」
「浅井心音に殺人の容疑がかかった以上、誰かが責任取るのは事務所として当然なのよ……」
社長は、そう明日香に説明した。
「ふん! 藤田さんを独占する為に、凪沙と乙音に協力してもらって浅井心音を……」
その次の言葉を言おうとした明日香に向かって、社長は急に怒りだした。
「それ以上は言うな! 誰が聞いているかわからないだろ!」
「あの事件はただの事故だ! 事故!」
社長に叱責された明日香は、黙ったままその部屋から出て行った。
それから数日後。新庄はある人物の尋問をしていた。不知火亮一だ。
「お前の言う事が本当なら、浅井心音は後は過去の清算だけをしたら出頭してくると。そう言うことか?」
「ああ。同じ事何度も聞いて来んなよ」
「それで過去の精算ってのは何の事を言っているんだ?」
「俺もそれは知らない。ただドクターが言っていたが、心音さんは過去に酷い仕打ちを受けたせいで、その記憶をずっと脳が閉ざしていたらしい。だから過去の心音さんの出来事を調べたら何のことかわかると思うぜ」
「しかし、なんでそんなにベラベラと話すんだ? 浅井心音の腹心じゃ無いのかお前は?」
新庄は当たり前の疑問を不知火にぶつけた。すると不知火は少し鼻で笑った後で答えた。
「……信じているからこそさ……」
「そしてお前達じゃ心音さんは絶対止めることは出来ない」
「ただ心音さんは自分に正直なだけ」
「だから嘘は付かない」
「だからこそ心音さんが自首するって言ったらどんな形であれ自首するんだよ」
「でもそれは心音さんの意志が無いと出来ない」
「だから俺達人間は所詮信じることしか出来ないんだよ」
「だから何も隠す事も無いって事だ」
「ただ一つだけ言うなら、西条真二が死んだのだけは俺達のせいじゃない!」
「あれは神宮寺徹平のせいだ!」
「お前達警察はその事実を捻じ曲げた!」
「だから心音さんがここを襲撃してもそれはお前達のせいだからな!」
「……それも計算の上……全ては警視総監の指示ですから……」
「警視総監は全てを知っていて、その上でこの作戦に参加してくれています」
「自らの命も掛けて、それでも浅井心音逮捕に向けて尽力しておられます」
新庄は、淡々と静かに不知火に答えた。
その言葉を聞いて、不知火は舌打ちをした。
部屋を出た新庄は、立花へ電話を掛け出した。
「……ええ……浅井心音の過去について、ちょっと聞きたいのでどこかで会えませんか?」
それからしばらくして、新庄は立花と約束した場所で合流した。
そして新庄は、さっき不知火から聞いた話を立花に伝えた。
「なるほど……確かに浅井心音の過去の事件でうやむやのまま終了となった事件があったな」
「俺も詳しくは知らないから、その当時の浅井心音の調書をちょっと見に行くか」
立花は、新庄を自分の所轄まで案内した。
そして資料室から調書を取り出して来て、二人で事件の内容を確認し始めた。
そしてその確認の最中、二人はあることに気付いた。
「……これ……おかしく無いか……?」
「ええ……おかしいですね……この事件にはとんでもない裏がありそうですね……」
二人は藤田に連絡し、自分達が思った違和感と、そこから導き出された仮説を伝えた。
藤田は、二人の仮説を聞いて驚いた。
そして、二人がこの事件のことを深く知っている人に話しを聞きたいと言って来たので、それに応じることにした。
「わかりました……それではその場所で合流しましょう……」
「私もこの事件の真実が知りたいと思っていたので……」
その日の夜。三人はとある場所を訪れていた。
そこは藤田が勤めていた事務所だった。
「おや? 藤田さん? 何の用ですか? それにこちらの方々は?」
事務所の社長が藤田にそう言って来た。
すると二人は、社長に警察手帳を見せた。
「俺は警察の立花だ」
「私は公安の新庄です」
社長は急に見せられた警察手帳に、少し戸惑った表情を浮かべた。
「警察の方が何の用ですか?」
「確かに浅井心音はうちに所属してましたが、数日前に解雇したし、うちとはもう関係ありませんけど」
その社長の言葉を聞いて、立花と新庄は話し出した。
「確かに浅井心音の事を聞きに来たのは間違いないが、実は今回はちょっと違っててね」
「ええ。そもそもの全ての始まりかもしれない、浅井心音の住居爆破事件についてちょっと気になることがありまして、その確認の為に今日は訪れさせて貰いました」
その言葉を聞いて、事務所社長は少し動揺した。
「おかしいんだよね。この事件」
「俺も直後の現場見た訳じゃなく調書でしか見てないんだけど」
「被害者浅井心音の事件の時の症状がさ、全身火傷はわかるとしても、喉の熱傷がここまで酷いことってちょっとありえないんだよね」
「火災が起こった時に喉の気管が熱傷するということは、まーよくあることなんだけどさ」
「ただ、その場合これだけの熱傷があったら、普通死ぬんだよ人って」
「だって、火災で喉がこれだけ焼かれてるってことはさ、他の症状もこんなもんじゃ済まないわけだからさ」
「じゃあどうしたらこんな症状になるかってことなんだけど」
「この症状が起こるとしたら、それはもう炎を喉奥に突っ込んだりして、喉を集中的に焼かない限り有り得ないんだよね」
「それで思ったんだけどさ、この火災の前にもう一つ別の事件あったよね?」
「そしてその事件の隠蔽方法が、この住居爆発だったんじゃないのかな?」
「そもそも自殺するにしても事故だったにしても、この住居のガス爆発だとこれだけの被害で収まる訳がありません」
「なのに何故それだけ酷い事故で、浅井心音さんは全身火傷で生きてたんでしょうか?」
「当時の手術を担当した医者にも確認しましたが、見た目には酷い全身火傷の様に見えていたけど、実は喉以外の火傷自体はそこまで酷くなかったそうです」
「だから皮膚の全身移植だけで、元通りの顔と身体に戻ったそうです」
「これはどういうことなんでしょうか?」
立花と新庄の追及とも思われる問い掛けに、社長は何も言い返すことが出来ずに、冷や汗が止まらなくなっていた。
「そして今回の事故における最大の謎が、浅井心音がその時の記憶が無いということだ」
「そもそも何で浅井心音はその時の記憶が無いんだ?」
「調書には誰かに殴られた後は無いと書いていた」
「じゃーどうして記憶が飛んだんだ?」
「そもそも今回の様な事故だけでは記憶は飛びません」
「記憶を物理的に飛ばす為には、相当な衝撃を脳に与える必要があります」
「でも記憶を飛ばす為に、それだけの衝撃を脳にわざわざ行うという行為は、ただの賭けです」
「それで下手したら死ぬかもしれないし、そこから犯行がバレる可能性もあります」
「しかし、ただ記憶を飛ばすだけなら、実はそこまで難しくない方法があるんです」
「それは、酒により脳を酩酊状態にする方法です」
「人は酩酊状態の時の記憶が、殆ど無いとされています」
「そして、もしそんな状況で酷いことをされた場合、それを現実とは認識出来ません」
「そして、その状態で自分の理解を超えるぐらいの酷い仕打ちを受けたとしたら、無意識に脳がその記憶を閉じてしまうこともあるそうです」
そして立花と新庄は、息を合わせて社長に向かって言い放った。
「つまり浅井心音は、第三者によって無意識に近いぐらいの酩酊状態にされてから喉を焼かれた」
「そしてその後でその人物は住居を爆発させた」
「そして、何らかの方法で浅井心音の全身だけが少し焼ける様に仕向けたってことだ(です)」
その立花と新庄の追及で、社長は明らかに動揺を見せた。
「そ……それが本当だったとして……そのことと私に……何の……関係が……」
社長のその言葉に怒りが抑えれなくなった立花は、社長の胸ぐらを掴み、大声を上げてし社長を怒鳴りつけた。
「おい! 社長さんよ!」
「これが通り魔やストーカーとかそういった類に出来ると思ってんのか!」
「ここまで計画的に行うなら、まずは浅井心音のスケジュールを完全に把握しとかないと無理なんだよ!」
「そして何よりも浅井心音の家に自由に出入り出来ないと絶対不可能だ!」
「そんなこと素人でもわかることだろ!」
「だからこの犯人は身内」
「それもあんたのとこの人間しか出来ないってことだ!」
「そしてあんたはその犯人を知っている! 違うか!」
その立花の迫力と言葉に、社長は遂に観念して真相を話し始めた。
「し……仕方なかったんだ」
「……全部……浅井心音のせいだ!」
「俺はただ知恵を貸しただけだ!」
「実行したのは俺じゃない! 俺は何も悪くないんだ!」
その言葉に耳を疑った藤田は、社長に問い掛けた。
「社長……それってどういう意味ですか……?」
「……浅井心音に言われたんだよ……」
「『もうここを辞めたい。そして自由になって好きなところで好きに歌いたい。なんかもう色々疲れた』ってさ」
「当然、俺は色々な言葉で繋ぎ止めようとしたよ」
「でも一切聞く耳持たなくてさ」
「しかも浅井心音は、『そのうち藤田さんにも話します。そして藤田さんには私に付いて来てもらいたいと思っています。その時はまた改めてお願いしに来ます』って言うわけさ」
「流石にバカにしてると思ったよ」
「それでその話しをしたらそいつが、『じゃあ浅井心音には死んでもらおうよ。私もあの子とても邪魔だって思っててさ。藤田さんは私の物なのにさ。連れて行くなんて絶対許せないから』って」
「だから俺は、『殺したらダメだ。そしたら間違いなく事務所の信用が無くなる。殺すんじゃなくて潰す。例えば浅井心音を二度と表舞台に立たなくさせれることがもし出来たら。そしたら辞めてもうちに被害はない』って言ってしまったんだよ」
「そしたらそいつが、『じゃあ例えば歌えなくさせちゃえばどうかな?』なんて言うからまさか本気じゃないよなと思いながらも、色々な計画を一緒に考えてあげることにしたんだよ」
「それからしばらくして、浅井心音の住居ガス爆発事故のニュースが流れて来たから俺は蒼ざめたよ」
「その手口こそが、俺がそいつと話した内容と酷似していたから」
「すぐにそいつに確認したよ」
「そしたらそいつ笑いながら、『そうだよ。私がやったんだ。これで藤田さんは私が独占出来る』ってさ」
そのあまりにも身勝手過ぎる内容を聞いた藤田は、怒りを抑え切れずに社長を思いっきり殴り付けた。
「ふ……ふざけんなよ!」
「お前のそんなくだらない理由で、この世から伝説になる予定だった少女がその歌を奪われたんだぞ!」
「お前はその意味がわかってんのか!」
「心音は……心音は……ただ皆んなにもっと歌を聞いて欲しくて……」
「そしてもっと自由に歌いたくて……」
「だから自由になって色んな人に歌を届けようとしていただけだ!」
「それをお前は! お前は!」
そう言いながら、もう一発殴ろうとしたところを立花が制した。
「藤田さん、あんたの怒りはわかる」
「でも今は優先しないといけないことがある」
「こいつを殴るのはそれからにしてくれ」
「殴る事自体ダメなんですが……まあそこは少しだけ目を瞑ります」
立花と新庄は、藤田の気持ちを宥めた。
藤田はその二人の言葉を聞いて少し落ち着きを取り戻した。
そして立花はその藤田の様子を見た後で社長の胸ぐらを掴みながら問い質した。
「アンタの罪は罪として後で署で聞くとして、今大事なのはそっちじゃない!」
「あんたはそれを誰に話した?」
「誰が実行した? それを言え!」
「……明日香……明日香だよ……」
「俺は明日香のパパみたいなことをしていて、それで明日香から度々藤田と付き合える様にお願いされてたんだ」
「だからあいつはそう藤田! お前の為に浅井心音を襲撃したんだよ!」
社長は藤田を睨みつけながら、そう答えた。
藤田はその言葉を聞いて膝から崩れ落ちた。
「俺の……せい……!?」
「……俺のせいで心音は歌を奪われたのか!?」
藤田は、小声で呟きながら項垂れた。
その藤田を立花が宥めている間に、新庄が社長に問い質した。
「恐らく浅井心音は記憶を取り戻しました」
「それはある人物からの証言からも間違いありません」
「そして浅井心音はその人物に復讐をしようとしています」
「明日香さんは今どこにいますか? 連絡は取れませんか?」
「確か今はマネージャーと一緒にいるはずだけど……」
社長は、新庄の問い掛けにそう答えた。
「今すぐマネージャーもしくは本人に電話して下さい」
「それと恐らく明日香さんには共謀者がいるはずです」
「そしてそれは恐らく身近な人物です」
「その人達も危険です!」
「その方達にも今すぐ連絡して下さい!」
その言葉を聞いて、社長は急ぎ電話を掛けまくった。
「……ダメだ……誰も電話に出ない……」
「明日香も……凪沙も……乙音も……そしてそのマネージャー達も……」
「どういうことだ………一体何が起こっているんだ?」
社長は、今の状況に困惑していた。
その様子を見て新庄は、社長に向かって言った。
「社長さん! その三人のGPSを見て下さい!」
新庄は、その三人のスマホのGPSを見る様に、社長に指示を出した。
「……これは……どういうことだ……?」
社長はそのGPSを見て驚愕した。
その三人のGPSは全て同じところを指していた。
そしてその場所は浅井心音の元の住処。
つまり例の住居ガス爆発事件のあった場所を指していたのだった。
「何でこんなところに!?」
社長はその意味がわからなかったが、立花と新庄はその意味を即座に理解した。
「緊急連絡緊急連絡!」
「浅井心音が自分が元々住んでいた住居に三人の女性を囲っていると思われる」
「住所は……」
「直ちに捜査員は向かって下さい」
「尚、浅井心音は拳銃を使用している可能性があるので、拳銃所持を認めます」
「また、浅井心音は特殊な能力を持っています」
「決して固まって動かず、遠くから囲う様に向かって下さい」
「また、狙撃班は遠くから待機し、いざとなったら麻酔銃で射撃をして下さい。以上」
新庄は無線を使って指示を出した。
立花は、その場にへたり込んでいた藤田に言葉を掛けた。
「行くぞ藤田さん! 浅井心音はアンタが止めるんだ! これ以上誰も殺させるな!」
その言葉を聞いて、藤田は我を取り戻した。
「はい! 行きましょう! 私が必ず心音を止めます!」
そして藤田と立花と新庄は、社長を残してその場を後にした……。




