〜動き出す神宮寺家〜
同日。立花はとある現場にいた。
そこは廃墟だったが燃やされていた。
まるで前日に見たボロアパートの火災現場を彷彿させるかの様に。
その現場はよく似ていた。
だが、燃やされた遺体の身元の名前を聞いて立花は驚愕した。
その燃やされた遺体は神宮寺悟だった。
そして脚には拳銃で撃たれた跡が、しっかりと残されていた。
立花は詳しく見るまでもなく何かを確信し、早々にその現場を去った。
(浅井心音……お前はとんでもないことをしてしまった……)
(神宮寺家がこのまま大人しくしているわけはないぞ……)
(しかし……なぜ神宮寺悟なんだ?)
(どこにどう接点が……)
(ん? ま……まさか……!?)
そんなことを思っていた立花に鑑識から連絡が入った。
その連絡を受けて立花は鑑識の下を尋ねた。
そして鑑識から復元したデータを見た立花は、自分の予想と一致していたことを確信した。
(間違いない……高橋を殺したのが神宮寺悟だ)
(そしてその神宮寺を殺したのが浅井心音だ)
(そして……どんなに恐ろしい力を持っていても、少女一人だけでそんなことが出来るわけがない)
(つまり、浅井心音には協力者がいる)
(そして今までそれは信者だと思っていたが、恐らくそうじゃない!)
(これだけのことが出来るのは、恐らく裏稼業の人間)
(そして浅井心音に最も近い人物)
(そこから導き出される結論は一つしかない!)
立花はそう確信し、どこかに電話を掛け始めた。
「今から須藤組のアジトに踏み込むぞ!」
同日。神宮寺財閥の会長室に神宮寺省吾、神宮寺護、神宮寺徹平は集められていた。
三人は神宮寺財閥の会長である神宮寺誠亮に呼び出されていたのだった。
そして椅子に座っていた神宮寺誠亮は静かに話し出した。
「……昨日の夜……何者かがワシの可愛い孫だった悟を殺したそうじゃ」
その言葉にその場にいた三人は凍りついた。
そして誠亮は話を続けた。
「なぜじゃ……なぜ悟が殺されなきゃならない?」
「しかも悟にも内緒で付けていた護衛が、何の役にも立たなかった」
「後で聞いたら全員なぜか眠っていたそうじゃ」
「じゃからそいつらは皆クビにしたよ」
「そんなふざけたことしか言わない奴など必要ないからの!」
「眠っている間に悟が拉致られたじゃと?」
「儂を馬鹿にしているのか!」
そう言った後で、神宮寺誠亮は怒りのままに、机にあったグラスを壁に投げつけた。
そして、その後で神宮寺省吾を鋭い目付きで睨みつけながら言った。
「省吾! 貴様は知っているんじゃろ?」
「知っているなら儂に聞かせてくれぬか?」
「こんなバカな真似をした輩のことをな!」
「……会長……恐らく悟を殺したのは、SNSで神と呼ばれているKanadeだと思われます」
「そして、現在公安で捜査中の案件の為情報が伏せられていますが、Kanadeの正体は浅井心音と呼ばれるかつて歌姫と呼ばれた少女です」
「そして信じれないことに、その少女の歌声を聞いたものは全員確実に眠る……そうです……」
神宮寺省吾は、神宮寺誠亮にそう答えた。
その言葉を聞いた神宮寺誠亮は、神宮寺省吾を睨むのをやめて後ろを振り向いた。
そして次の瞬間、持っていた杖で思いっきり神宮寺省吾を殴り付けた。
そして怒りの形相で、神宮寺省吾の方を睨みつけた。
「浅井心音……お前は本当にそんな少女が一人でこれだけのことをしたと思っておるのか?」
「だとしたらお前はただの無能だ!」
「もし仮にその女にこれだけの力があったとしてだ、どうやってその後に悟を移動した?」
「この一連の所業が、女一人で出来ることではないこともわからんのか!」
神宮寺省吾の頭からは血が流れていた。
そしてそんな様子を、神宮寺護も神宮寺徹平も見て見ぬふりしか出来なかった。
「も……申し訳ありません……私が浅はかでした!」
神宮寺省吾はそう言いながら、神宮寺誠亮に土下座して許しを乞うた。
その様子を見て神宮寺誠亮は、神宮寺省吾の方を見て言い放った。
「悟の殺害には、間違いなく裏稼業の人間が数人絡んでいる」
「ただの一般人如きではこんな大層なことなど出来ぬわ!」
「省吾! お前は公安から捜査権を奪って来い!」
「そしてそいつらを全員ワシの前に連れて来るんだ! いいな!」
「わかりました……直ちに捕らえて参ります……」
神宮寺省吾はそれだけ言って立ち上がると、会長室から飛び出した。
「まったく……あいつは事の重さを何もわかっとらん!」
「その点二人はわかっておるよな? ワシの可愛い孫達よ」
「もちろんですお爺様!」
「私の持てる力全てを使って、浅井心音もそれに従う者も全て国家の元に抹殺します!」
神宮寺護は、神宮寺誠亮にそう言い切った。
「誰かは知らないし興味も無いけど、神宮寺に牙を向いたことを後悔させてやります」
「親父がもし捕まえられなかったら、いざとなれば事故に見せかけてこの俺が殺しますよ」
神宮寺徹平は、神宮寺誠亮にそう言い切った。
「ホッホッホ……それでこそワシの可愛い孫達よ」
「さあ行け! 神宮寺家に歯向かう者は皆殺しじゃ! 期待しておるぞ!」
二人は神宮寺誠亮に深く頭を下げると、会長室を後にした。
数時間後。立花は須藤組のアジトに立ち入りを敢行していた。
そこは先の襲撃でボロボロとなっており、見た目はいわゆる廃墟の様だった。
しかしそれは見た目だけだった。
中に入ると、その奥の何個かの部屋は何の被害も無く普通の部屋として存在していた。
須藤のアジトは、構造として大きな家の中に別邸があるという作りとなっていたことをこの時始めて立花は知った。
そしてその別邸こそが、須藤と心音が一緒に生活していた部屋だったのだ。
だがそこにはもう人は誰もいなかった。
あったのはそこに人がいただろうという足跡や指紋だけだった。
(クソッ! 一歩遅かったか)
(間違いない! 昨日までここに浅井心音はいた!)
(そして不知火亮一、斉藤蒼介、高坂蓮司)
(須藤の腹心のこの三人がここにいたはずだ!)
(クソッ! 何で気付かなかった?)
(仮に浅井心音の狂信者が何人もいたとしても、ここまで手際よく何人もの殺害も出来なけりゃ情報入手もそんな簡単には出来ない!)
(間違いなく須藤龍一が亡くなってからの最近の一連の事件には、須藤組の残党も関わっている!)
(そして浅井心音はそいつらと一緒にいるに違いない! クソッ! クソッ!)
立花は歯がゆい思いを噛み締めていた。
そして、どこかに電話を掛け始めた。
「おい! 須藤組の残党の情報集めろ! 今すぐだ! そこに浅井心音はいる!」
同時刻、新庄は警視正である頭に包帯を巻いた神宮寺省吾に呼び出されていた。
そして今までの浅井心音が絡んでいた事件のことを、全て報告させられていた。
「本当にそんなことが……なるほど……よくわかりました……」
「ところで……須藤組の残党は本当に誰も生き残っていないのでしょうか……」
「いえ……私は浅井心音を追い掛ける様に指令を受けておりまして、ずっとその行方を探している所でした。ですが……」
新庄がその次の言葉を言おうとしたところで、神宮寺省吾はその言葉を遮って話し出した。
「もうわかりました。もう結構です。お疲れ様でした」
「警視正それはどういう意味ですか?」
新庄はその言葉の意味がわからなくて神宮寺省吾に尋ねた。
「言葉のままの意味です」
「新庄警部補。貴方にはこの事件の荷が重過ぎた様です」
「なのでここからは、この私が指揮を取らせて頂きます」
神宮寺省吾は冷たい眼差しで、新庄を見ながらそう言い放った。
「ちょっと待って下さい警視正! まだ私は出来ます!」
「はぁ?……今の今まで国家に仇なす存在を捕まえることも出来ない無能が何を言うのでしょうか」
「冷静に考えればわかりますよ」
「浅井心音が今どこにいるのかは」
「それもわからないで指揮をまだ取りたいとは……」
「貴方は自分の実力を過信し過ぎていませんかねぇ?」
神宮寺省吾は、呆れた顔で新庄に言い放った。
するとその二人の後ろから、声が聞こえてきた。
「神宮寺警視正。貴方の予想通りですよ。でも少し言い過ぎかなと私は思いますがね」
そう話しかけてくる人物がいた。
二人はその声を掛けてきた人物の方を振り向いた。
「さ……西条警視総監!?」
「な……何でこんなところにおられるのですか……?」
「なあに……その事件は私も興味があってね……」
「ってよりは私の孫がどうもその事件に絡んでしまってな……」
「それで孫から色々話を聞いてな……」
その人物は、神宮寺省吾に向けて、そう淡々と話し出した。
「お孫さんってまさか……あの方ですか!?」
神宮寺省吾は、何かを知っているかの様に西条警視総監に問い質した。
「神宮寺警視正は一度一緒に事件に関わったことがあったかのー」
「探偵まがいみたいなことをして、たまに警察に協力をしている、とても正義感の強い儂の自慢の孫の翔じゃ」
「翔も自分で色々調べて、どうも須藤組の残党の居場所突き止めたみたいでの、近々直接会いにいくそうじゃ」
「これでこの事件も解決するかもしれんの」
西条警視総監は、そう二人に言い切った。
「お言葉ですが西条警視総監、浅井心音は凶悪な存在です」
「そして信じれないかもしれませんが、彼女の歌を聞くと無条件に眠ってしまうんです」
「そんな人物にお孫さんを近づけさせて心配ではないんですか?」
新庄は、西条警視総監に向けて強い口調で言い放った。
「翔は恐らく自分は殺されないという自信がある様じゃ」
「もっともそれ以外にも何か掴んだかもしれんみたいじゃが」
「でもその確信が無いからそれが何かだけは私にも言わなかった」
「恐らく何か勝算があるのじゃろう」
「アイツは天才じゃし、天才にしかわからん感覚みたいなものがあるのかもしれんのー……」
西条警視総監は、遠くを見つめながら新庄にそう言った。
そして、その後で、一転して強い口調で新庄に向かって言い放った。
「ただもし翔が殺されでもしたら、その時は私も全ての力を持って、浅井心音の逮捕に尽力することにするかの」
「例えそこにどんな犠牲が生まれようとな!」
その静かなる決意に、新庄は恐怖を感じた。
そして西条警視総監は、笑顔を見せながら優しい口調で新庄に言った。
「とりあえずそういうことだから、しばらくは新庄警部補、君にこの事件は任せるから」
「願わくば私に指揮権が変わらないことを祈っているよ」
「それじゃー頑張りたまえ」
そして新庄の肩を軽く叩くと、西条警視総監その場を後にした。
その姿を見ながら、新庄は深く頭を下げた。
その様子を横目で見ながら、神宮寺省吾も苦虫を噛み潰した顔をしながら、その場を後にした。
(クソ! まずいぞこれは……アイツに先を越されるかもしれん……)
(そうなると非常にマズイ!)
(とにかく何としてでも須藤組の残党の居場所を早急に突き止めないと!)
そう思いながら、神宮寺省吾はどこかに電話を掛け始めた。
「……ああそうだ……お前達なら見つけられるだろ? 同業者なんだから……」
「ああ! 何が何でも探せ! 須藤組の残党を!」
「そして見つけ次第居場所を私にすぐ連絡しろ! いいな!」
神宮寺省吾はその電話を終えると、その場を去った……。




