〜異変〜
翌日、前日の心音の状況を見て心配になった不知火は、お抱えの医者をアジトに呼んだ。
そしてその医者に、心音のカウンセリングをお願いした。
心音は、その医者に自分の症状のことを話した。
「ふむ、おそらくそれは君が思い出したくないと思っている記憶の断片じゃな」
「人は、余りにも酷いことを誰かにされた時、脳にその記憶を封じ込めようとする」
「一種の防衛本能みたいなものじゃな」
「じゃがそれはある瞬間、もしくは何かをきっかけにして急に脳裏に蘇らせる」
「よく言う言葉だとフラッシュバックじゃな」
「君の場合は燃えた家を見るという行為が、そのトリガーなのじゃろうな」
「……儂の見解じゃが、おそらく後数度同じ景色を見たら、君が封じ込めたその記憶を、君が完全に思い出すことになるじゃろうな」
医者は、心音にそう説明した。
心音はその言葉にただ頷くだけだった。
そんな心音のことを心配していた高坂は、カウンセリング終わりの心音に声を掛けた。
「心音さん大丈夫ですか?」
「うん……大丈夫……」
「心配してくれてありがとね」
そんな二人の前に神妙な面持ちをした不知火が現れた。
「心音さん……少しお話があります……私の部屋に来て下さい」
不知火は、心音と高坂を自分の部屋に案内した。
そこには既に斉藤もいた。
全員揃ったところで、不知火は話しを始めた。
「さて、動機はどうあれ……俺達は神宮寺悟を殺しました」
「神宮寺誠亮は、明日以降神宮寺悟を殺した人物を、探しに動くと思います」
「そして俺達は、間違いなくすぐその犯人だと特定されることでしょう」
「そして捕まったら最後、殺されるか、あるいは酷い拷問を受けることになると思います」
「俺達は所詮極道なので、別に殺されようが拷問されようが構いません」
「でも心音さんは違います。なので……」
そう言って次の言葉を言おうとした不知火の口を、心音は指で塞いだ。
「大丈夫……もう誰も殺させはしない」
「私が……皆んなを守るから……」
心音はそう言った後、ニコッと微笑んだ。
その心音の言葉を聞いて、斉藤は心音に尋ねた。
「でも、実際どうするんですか?」
すると心音は、飛びっ切りの笑顔で斉藤に答えた。
「全員殺せばいいじゃん」
「私達を捕まえに来る奴も、殺そうとして来る奴も」
「そうしたら私達の身を脅かす者はいないでしょ?」
「私の力ならそれが出来るし、誰が相手だろうとへっちゃらだよ」
心音のそのとんでもない考えに、不知火と斉藤と高坂は驚愕していた。
でもその心音の皆を守りたいという気持ちだけは、とても伝わって来た。
不知火は、そんな心音の気持ちに応えるように、心音の前に跪いた。
「……わかりました……所詮極道、死ぬことに恐怖は微塵もありません」
「ですが守ってもらうのは性には合わないので、私が貴方をお守りします」
その不知火の姿を見て、斉藤は意を決して同じ様に心音の前に跪いた。
「俺は心音さんの舎弟です」
「貴方の為に命を掛けることに悔いは何もありません」
「そして貴方の言うことに逆らうつもりもありません」
「不肖斉藤。地獄まで貴方に付いて行きます」
その様子を見て高坂も心音の前に跪いた。
「……俺も……心音さんの舎弟です……どこまでも付いていきます」
心音はその三人の言葉を聞いて、涙ぐんだ。
「……皆んな……ありがとう……」
だが高坂は、心の奥底で今の状況に違和感を感じていた。
(最近……心音さん……なんかおかしい……)
(なんか……どんどん人間じゃなくなっている様な気がする……)




