〜二人のホスト 神宮司悟と冷泉翔〜
夜の繁華街にある一軒の店。愛同奈。
そこは愛憎渦巻くホストの世界。
そしてその店の路地裏で男がボコボコに殴られていた。
「おら! もう一回言ってみろよ! 俺の名前をよ!」
その周りには何人ものホストらしき人物がいたが、皆んな見て見ぬふりをしている。
「か……勘弁して下さい……悟様……」
そう言いながら、その殴られていたホストらしき人物は、殴っていた人物に土下座をしていた。
しかしその男は、その土下座をした男の髪を持つと、その顔を地面に叩きつけた。
「ったく! お前みたいなクズがこの俺様を様以外の名前で呼ぶんじゃねえよ!」
その男は最後にそれだけ言い残すと、その場を立ち去った。
そしてその男に付いていくかの様に、そこにいた数人のホストらしき人達も、一緒に後ろに付いて行った。
この殴っていた人物こそが、神宮寺悟である。
彼は自分の名前を様以外で呼ぶことを禁じていた。
この時殴られていたホストは新しく入ったホストであり、そのことを知らなかった為、神宮寺悟にボコボコにされたのだった。
(全く……気に入らないぜ!)
(相変わらずアイツは生きているし……)
(爺ちゃんも今回だけは手を貸してくれないし……クソッ!)
神宮寺はとにかくイライラしていた。
その理由は愛同奈のナンバー1ホストである冷泉翔の存在だった。
今まで何人もの人間を平伏してきて常に王様だった神宮寺悟にとって、ナンバー2という自分の状態がとても気に入らなかった。
神宮寺悟は、自分を指名してくる女性客相手にも非道だった。
とにかく自分を気に入ってくれた相手を惚れさせて金を巻き上げまくる。
相手に金が無いとわかると表向きはツケにさせていたが、実はその裏ではその女性を言葉巧みに騙して風俗に沈めていっていた。
そうしてツケを回収していた。
また、それだけでは稼げなくなってきた女性には売春相手を紹介し、次々と自分の知り合いの社長達に売っていた。
そうして売り上げを確実に延ばしていた。
しかし、冷泉翔は全く違っていた。
ルックスも良いのだが、何よりも優しさと気遣いが完璧なイケメンだった。
更に空手を習っていたこともあり、腕っぷしもある細マッチョ体型なのに、とても心優しかった。
そして、決して金の無い女性からは金を取ろうとせず、それどころか退店させるぐらいの人物だった。
その姿勢で女社長や女性経営者等の太客を、次々に自分のものにしていく。
まさに天性の人たらしだった。
そしてそんな自分と真逆の人物だからこそ、神宮寺悟にとって冷泉翔はとても気に入らない人物でもあった。
「おい! 悟! お前どういうつもりだ?」
「入ったばっかの新人ホストまたボコボコにしたんだって?」
「いい加減にしないと警察に突き出すぞ!」
冷泉翔は神宮寺悟を店の中で見つけるや否や、胸ぐらを掴んだ。
「うるせえ! 俺に指図すんな!」
神宮寺悟は、掴んできた冷泉翔の手を跳ね除けた。
(クソッ! こいつが警視総監の孫じゃなけりゃ……クソッ!)
神宮寺悟は心の中でそう呟いた。
冷泉の父親は警視総監だった。
この為、神宮寺誠亮も、神宮寺省吾も今回は手を貸さないことにしていた。
「お前……そのうち天罰が下っても知らないからな!」
そう言って来た冷泉翔に対して、神宮寺悟は斜め下から睨みながら舌を出して言った。
「上等だよ! この俺様は誰からも守られている! 天すら俺の味方かもな」
そう言った後、神宮寺悟は高笑いをした。
冷泉翔は、その態度に呆れていた。
するとその直後、急にどこからか歌声が聞こえてきた。
そしてその歌声を聞いている内に、二人はその場に倒れ込んだ。
「……ん……何でこんなとこで俺は横になってるんだ?」
「……確か……悟と話してたと思ったんだが……」
冷泉翔は目を覚ました。
そして辺りを見た時に、さっきまでそこにいた神宮寺悟がいなくなっていることに気付いた。
「アイツ……どこに行ったんだ?」
冷泉翔は店を探したが、神宮寺悟はどこにもいなくなっていた。
それどころか、店の開店時間になっても神宮寺悟は戻って来なかった。
神宮寺悟はとても非道な奴だったが、出勤をサボることはほとんど無かった。
それは冷泉翔に勝ちたいという気持ちがそうさせていたのだが、理由はとにかく無断欠勤することは有り得なかった。
そこで初めて冷泉翔は、異変に気付いた。
(まさか……あの時からずっと悟はいないのか……?)
(そういえば……あの時微かに聞こえて来た誰かの歌声……)
(そして目を覚ましたら……悟はいなくなっていた……)
(……ま……まさか!?)
そう思った冷泉翔は、どこかに電話を掛け始めた。
「……爺ちゃん……ちょっと話しがあるんだけど……うん……そう……前話してくれた人を眠らせる少女の話……うん……詳しく教えて……」
その頃、神宮寺悟は廃屋にいた。
そして、神宮司悟はそこで目隠しをされ、手足を縛られていた。
そしてその状態で眠っていた。
だが、不意に目を覚ました。
「おい! 誰だ! この俺様が誰かわかってやってんだろうな?」
神宮寺悟は、自分の今の状況を即座に理解し、大声で騒ぎ出した。
「誰……ね……所詮人間でしょ?」
その神宮寺悟の問いに冷たい口調で一人の少女が答えた。
まるで自分は人間では無いかの様に。
そして、その少女は神宮寺悟に向かって話し出した。
「高橋さんは……本当にいい人だった……」
「アンタはそんないい人を焼き殺したんだ!」
「だから私はアンタを許さない!」
「アンタを同じ目に合わせてやる!」
少女は、手に持っていた拳銃を神宮司悟の脚に向けてぶっ放した。
拳銃は大きな音と共に銃弾を発射し、神宮寺悟の脚を貫通した。
「アアアアアーーーー!」
瞬時に走った激痛で、神宮寺悟は悶えている。
そしてその後、その少女は誰かに指示を出した。
その指示を受けた人物はガソリンを周りに掛けると、それを神宮寺悟にもぶっ掛けた。
「……ま……待て……話し……聞けよ!」
そんな神宮寺悟の声を無視するかの様に、少女はそのままドアの方に向かうと、そのガソリンに向けて火を点けた。
一瞬で炎は燃え広がった。
「ウワアアアアアアーーーー!」
神宮寺悟は、断末魔の様な声を上げながら燃え上がっていった。
その燃え上がる様子を見ながら少女は一言呟いた。
「高橋さん……仇……取ったからね……」
少女はそう言いながら、高橋との思い出の感傷に浸っていた。
その時だった。
その少女は頭が急に痛くなって来て、その場に蹲った。
「心音さん! 大丈夫ですか!」
その様子を見て、不知火と斉藤と高坂が心音に寄り添って声を掛けた。
「……ううん……大丈夫……何でもないよ……」
心音は三人に向かって、気丈に振る舞った。
しかし、心音の脳裏には三回目となる別の映像が出ていた。
そして、どんどんその映像が濃くなっていることを心音は感じていた。
〈アンタの……せいだから……だから……死んで……〉
(今、私の頭に浮かんだのは誰……?)
(私……この人知ってる……でも誰だか思い出せない……)




