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悲しきセイレーン  作者: 武虎竜
〜エピローグ 怪物から神へ……そして……〜
26/38

〜不知火との再会〜

 須藤のアジトに着いた心音はすっかり憔悴しきっていた。


「なぜ……? なんで……?」

「高橋さんが殺される理由なんかどこにもないじゃん!」

 

 心音は床を叩き続けていた。

 そんな心音に向かって斉藤が話し掛けた。


「心音さん……原因は我々が必ず突き止めます……」

「まずはここでゆっくり休んでて下さい」

「さすがにもう警察もここに来ることは無いと思います」


 心音は斉藤の方を振り返り軽く頷くと、ゆっくりと立ち上がりフラフラとした足取りで、かつて須藤と一緒に過ごした部屋に入っていき、そのベッドで横になった。


「龍一さん……私……何か間違ったのかな……?」

「ねえ……教えてよ……龍一さん……」


 心音は死んだ須藤に呼び掛ける様に、天井を見ながらそう呟いた。

 そして淚を流しながら、そのまま眠りに着いた。



 翌朝、高橋が焼死した現場に立花はいた。

 刑事の勘で、この焼死事件にも心音がかかわっていると感じていたからだ。

 立花は遺体を確認した。

 直接の死因は火傷によるもの。

 だが、遺体には背中に傷があったことを確認した。

 その状況から、立花はこの事件が誰かによる殺人と放火によるものだと断定していた。

 遺体を確認した後で、立花は焼け落ちたアパートの中に入り、瓦礫の中から証拠集めを始めた。


 その瓦礫の中で、立花は一台の焼き焦げたパソコンを見つけた。

 そしてそのパソコンを鑑識に渡した。

「このパソコンは絶対に復元してくれ」

「おそらくこの事件のカギになるはずだから」

 立花はそれだけ言うと、その現場を後にした。



 その頃、斉藤と高坂は心音の部屋にいた。


「心音さん! すいやせん!」

「情報屋とかにも色々聞いたんですが、今回の火事に関しては全くわかりませんでした!」

 

 斉藤は土下座しながら、心音にそう伝えていた。

 その様子を横で見ていた高坂も、同じ様に心音に向かって土下座をした。


「二人共、頭を上げて下さい」

「そんな謝ってもらうことではないですから」

「しかし……どうしよう……困っちゃったね……」


 心音がそう言った次の瞬間、突然部屋のドアがゆっくり開いた。

 心音がドアの方を振り返ると、そこには松葉杖をついた不知火が立っていた。

 心音はその不知火の姿を見た途端、涙を流しながらドアのところまで走り出し、不知火に抱き付いた。


「不知火さん生きてたんだ! ほんと良かった! 死んじゃったかと思ってたから」


「いけません! 心音さん! 嬉しいのはわかりますが貴方は若の女です!」

「だから私から離れて下さい!」


 感情を爆発させて抱き付いて来た心音に対して、不知火は冷静にそう伝えた。


 不知火は、心音が自分から離れたところを見ると、一呼吸置いて心音に言葉を掛けた。

「でも……私もまた心音さんに会えて嬉しいです」


 心音は不知火のその言葉を聞いて、また泣き出した。

 不知火は困った様子で、高坂に慰める様指示を出した。

 その間に、不知火は斉藤から現在の状況について、聞き取りを始めた。


「そうか……若は殺されたのか……」

「そしてその復讐で城島組を潰して……」

「そしてお前達は今も心音さんに仕えていると。そういうことか……」

 

 不知火はそう呟いた後で、泣き止んだ心音の方を向いて、心音に跪きながら言った。


「そういうことであれば、この不知火もこれより心音さんに仕えることにします」

「それが若……いや龍一さんの望みなのであれば」


「不知火さん本当にいいの?」

「はい。この不知火で良ければ喜んで心音さんの為に尽くさせて頂きます」

 

 心音は戸惑いながらも、とても喜んだ。


「それで、今やらなきゃいけないことはその高橋を殺した犯人を探すってことだな」

 

 不知火は、現在の状況を斉藤に確認した。

 斉藤がその言葉に頷くと不知火は、高坂に指示を出した。


「高坂! 俺の部屋からパソコン持って来い! それとプロジェクターも!」


 高坂は不知火の指示の通りにパソコンを持って来た。

 不知火はそのパソコンを受け取ると、パソコンを起動し、何かを打ち込み始めた。

「伊達にインテリヤクザやってたわけじゃないですから。こういうのは任せて下さい」

 不知火は、プロジェクターにパソコンの画面を映し出して、何個ものサイトをプロジェクターで写した壁に映写させた。


「これで準備OK。後は獲物が掛かるのを待つだけです」

 不知火は、不気味な笑みを浮かべながらそう言った。

 そしてその後で、どこかに電話を掛け始めた。


 それから数分後。

「よしっ! 引っ掛かった!」

 不知火は、またパソコンに打ち込みを始めた。

 すると映写した壁に、高橋が使っていたサイトが表示された。

 それと同時に他の何件かのサイトも、壁に映写させた。


「えっ……!? どうやったの!? 凄ーい!」


 心音は、次々に映写されたその壁を見ながら、驚いた。


 不知火は少しはにかんだ顔を見せて心音の方を向いて言った。

「心音さん……流石にこれは企業秘密です……」


 そして、不知火はまたパソコンに打ち込みを始めた。

「さてと……で……成程……こいつが犯人だな……」


 そして打ち込みをしながら不知火は、そこにいた全員に向けて言った。

「おそらくその高橋って奴はこいつの依頼を断ったから殺されたんだと思われます」


 そして、その人物と高橋のやりとりを、壁に表示しながらそこにいた全員に向かって話し出した。


「こいつのアカウントとその高橋って奴とのやりとりを見てみると、最初は丁寧な口調で依頼をしている様に見えます」

「『冷泉翔って奴に虐められている。俺はもう自殺するしか無い。だからこいつを殺して俺を救って欲しい』と」

「ただその高橋って奴はとても優秀だったのでしょう」

「その内容が全て嘘であり、ただ心音さんにそいつを殺して欲しいだけだと見破ったのです」

「そして相手を刺激しない様に丁寧に断っています」

「ここまでは結構他のアカウントでもそういうカキコミが見られたのですが、問題は次のやりとりです」

「そのアカウントの奴はこう書いてます。『依頼を受け無いならお前を殺す。俺を誰だと思っている?お前なんか殺しても俺は絶対捕まらない。何故なら俺はこの国に守られているからだ。お前みたいなゴミなんかと一緒にするな』と」

「まー普通ならただの八つ当たりのネットでしか文句の言わない連中の戯言だと思うでしょうね」

「おそらくその高橋って奴もそう思って、それ以上相手にしなかったのでしょう……」


 不知火はそう言った後で少し溜息を付くと、眼鏡を外し残念そうな顔を浮かべながら話しを続けた。


「でも……こいつはそれが出来る人物であり……そしてその通り実行出来る奴だったのです……」

「まさかこいつに目を付けられるとは……」

「残念ながら不運としか言いようがありません……」


 不知火は、徐に眼鏡を掛けると、今度はそいつの個人情報を壁に映し出して話し出した。


「そのアカウントの相手こそ。この男です。神宮寺悟」

「こいつは、俺達筋者の世界にもその悪行が聞こえてくるぐらいの、相当のワルでクズ野郎です」


「神宮寺悟。愛同奈のナンバー2ホスト」

「こいつの祖父は、政財界に有力な力を持つ神宮寺財閥のドン。人呼んで帝王神宮寺誠亮」

「そして父親は、キャリア組切っての犯人検挙率を持つ警視正神宮寺省吾」

「長男は防衛副大臣であり、次期防衛大臣有力候補の神宮寺護」

「次男は最年少の陸上幕僚長である神宮寺徹平」

「つまりこいつは、この国の全てのものから守られる唯一無二の存在なんです」

「そしてこいつはそれをいいことに、ありとあらゆる悪行を行なっています」

「気に入った女をレイプするなんてのは当たり前だし、気に入らない男に対しては、人を雇って襲撃させるなんてことも平気で行う奴です」

「そしてこいつはそういうことをしても一切今まで捕まったことも無い、最強最悪のワルです」

「こいつとだけは揉めるなと俺も龍一さんから何度も言われたことがあります」

「こいつはそれぐらいのヤバい奴です」


 不知火は最後に語気を強めて、全員にその情報を伝えた。


 その言葉を斉藤と高坂はただ黙って聞いていた。

 そしてそのヤバさに萎縮していた。

 でもそんな中、心音は一息軽く息を吸うと、不知火に向けて聞いた。


「それで……そいつが高橋さんを殺したことで間違い無いのね……」

 不知火はその問いに対して、軽く頷いた。


「そう……ならやることは一つね……」

 心音はそう言いながら、ギターを肩に掛けて、その場から動こうとしていた。

 その様子を見て斉藤と高坂は心音にの前に立ち塞がり、慌てた様子で心音に向けて言った。

「い……いけません心音さん!」

「そうです! 心音さんと言えど相手が悪過ぎます!」


 そんな斉藤と高坂に向かって、心音は冷たい眼差しを見せて言った。

「こんな奴生かしてはおけないでしょ!」


 そしてその後で、今度は一転して少しニコッと笑うと、斉藤と高坂に向けて言った。


「心配してくれてありがとう」

「でも大丈夫……わかんないけど……私は無敵だから……」

「それじゃー行って来るね。また後で連絡するから」


 心音は、立ち塞がる斉藤と高坂の間を抜けて、外に出て行った。

 その心音の様子を見て、不知火は斉藤と高坂に向けて檄を飛ばした。


「お前達! 心音さんは大丈夫だ!」

「若の愛した人だぞ! 俺達がその言葉を信じないでどうする!」

「それよりもお前達こそ覚悟を決めろ!」

「神宮寺悟に手を出すということは、この国と戦争をするということに等しいことだからな!」

「絶対ビビんじゃねえぞ! 俺達は須藤龍一の意志を継いで、これから何があっても心音さんを支える! わかったな!」


 その不知火の決意の言葉を聞いた斉藤と高坂は我に返り、そして感情を落ち着かせて震えを抑え、不知火の方を見て返事を返した。


「はい!」


 そして三人は、心音から連絡が来るのをそこで待つことにした……。

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