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悲しきセイレーン  作者: 武虎竜
〜エピローグ 怪物から神へ……そして……〜
24/38

〜レクイエムと新しいステージ〜

 数日後の夜、心音はその男の部屋を訪ねた。


「お待たせしてごめんなさい」

「ようやく曲、完成しました」

「じゃー行きましょうか」

 

 心音はその男にそう告げると、戸惑っている男の手を取って、その部屋を出た。


 ドアの外にはすでに車が用意されていた。

 そしてその中から見るからに筋者の男が現れた。


「心音さん。準備出来ました。いつでも大丈夫です」


 男はこちらに話し掛けて来た筋者の男に戸惑った。

 心音は、その戸惑っている男の手を引っ張って、その車の中にその男を乗せた。

 そしてその後で、心音もその車に乗った。

 その状況に耐えれなくなった男が、心音に向かって聞いた。


「えっとー……どういうことでしょうか?」

「これからどこに行こうとしてるんでしょうか?」

「そしてその前にその……こちらの方々はどなたですか?」


「あっ! ごめんなさい……説明が足りてませんでしたね」

「この人達は私が愛した人の部下で斉藤さんと高坂さんです」

「それで今でもその恩義で私のこと助けてくれている素敵な方達です」


「そう……でしたか……わかりました……」

 男は心音のそれだけの言葉で状況を瞬時に読み取り、これ以上このことについて聞くのはやめた。


「それで……今からどこに向かおうとしてるんですか?」


「私思ったんです……本当に死なないといけないのは自殺志願者ではなくて、そう仕向けた人物の方じゃないのかって……」

「だから貴方ではなく、貴方を苦しめている二人を殺すことにしました」

 心音は、淡々と笑顔でその男に話した。


「えっ……? それはどういう意味でしょうか……?」


 その男は心音のその言葉の意味が理解出来なかった。

 すると心音はニコリと笑って答えた。


「言葉の通りです。まー見ていて下さい」

「貴方が望んだ結末とは違いますが、私の新しい曲はその曲の名前の通り、本当に死なないといけない人達にとって相応しい曲になりましたから」


 心音は男にそう自信満々に言った。

 男はその心音の言葉にただ戸惑っていた。



 そうこうしている内に、車は薄暗い山奥の山頂に辿り着いた。

 すると、そこに別の車がもう一台あることに、その男は気付いた。

 そしてその中に見たことがある二人を見つけた。

 その二人こそ、その男を苦しめていた要因の二人だった。


「さてと……それでは危ないので離れていて下さい……」

 

 心音は、その二人を乗せた車の助手席に用意していた練炭に火を点けて、ドアを閉めた。

 そしてその後で、斉藤と高坂に避難する様に指示を出した。

 その指示を受けて、高坂は心音を一人その場に置いて、車を走らせた。


 車が遠くに走っていたのを見届けた心音は深く深呼吸した。


「それでは聞いて下さい……」

「⦅レクイエム⦆」

 

 心音は、この日の為に作り上げた歌を歌い出した。


 その余りにも凄い歌声に、車で遠くまで離れていた斉藤と高坂とその男は、思わず眠りそうになっていた。


「こ……これが……神の……歌声……」


 男は必死で意識を保とうと頑張った。

 

 数分後、その歌声は聞こえなくなった。

 そしてその直後、高坂に心音から連絡が入った。

 その連絡で、高坂は車を再び山頂まで動かした。


「ふー……これでもうこの二人は永遠に起きることはないでしょう」

 心音はとてもやり切った清々しい顔をしていた。


 そんな心音の元にその男は駆け寄って、心音の前で土下座の態勢を取った。


「あ……ありがとう……ございます」

「貴方は……やはり神様です……」

 男は、号泣しながら何度も心音に頭を下げた。

 心音は男のその言葉を聞いて、少し照れていた。


「あ……顔を上げて下さい……」

「これで貴方はもう死ななくてよくなりました」

「これからは楽しい人生を生きて下さい」

 心音は、まるで本当の神様の様なことを、その男に向かって言った。


 その後で、少し言いづらそうな顔を見せながら話しを切り出した。


「それで……ちょっとお願いがあるのですが……」

「お願いします……私にあの部屋とあのサイトを下さい!」

「私……思いっきり歌えるところと住むところを探していて……」

「あの部屋とあのサイトが、ようやく見つけた私の新しい居場所だと感じました」

「お願いします! お金ならいくらでも出しますから」


 心音は、その男に頭を下げてお願いをした。

 そんな心音を見ながら、男は心音の前に跪いた。


「Kanade様……私は貴方によって生かされた人物です……」

「あんな部屋とサイトで良ければ自由に使って下さい」

「むしろあのサイトの住人達にとって、自らの苦しみを本物の神様が救ってくれるなら、これ程幸せなことはないと思います」

「私以外の人もその神様の力で、是非とも救ってあげて下さい」

「こんな私で良ければ、今後も貴方様のサポートをさせて頂きます」


 心音は男のその言葉に少し恥ずかしそうな顔をしながら、喜んだ表情を見せた。


「ありがとうございます!」

「私、これからも一杯一杯歌います!」

「今後もサポートをお願いします!」


「それで今後色々手伝ってもらう上で……」

「今更なんですが……あの〜……名前……聞いてもいいですか?」


「あっ! これは失礼致しました。まだ名前言っておりませんでした」

「私は、高橋徹と言います」

 高橋は、心音に対して深く頭を下げた。


 その丁寧な挨拶を受けて、心音も少し照れながらちょっとハニカミながら、高橋に対して頭を下げた。


「私は浅井心音と言います。これからよろしくです」

「こちらこそ。改めて心音様。これからよろしくお願い致します」


 心音と高橋は二人で改めて頭を下げて、お互い挨拶を交わした。


 そしてその後で、心音は側にいた斉藤と高坂に話し掛けた。


「斉藤さん、高坂さん」

「別れてからまだそんなに経ってなくてあれなんだけど……」

「これからまた色々と協力してもらうことになると思うから宜しくね」


 心音は斉藤と高坂にウインクをした。


 その心音に向かって斉藤と高坂は跪いた。

「いつでも呼んで下さい。この斉藤、すぐに駆け付けます」

「俺は心音さんの舎弟です。いつでも飛んで来ます」

 

 心音はその言葉を聞いて、照れ臭そうにしていた。

「も〜、恥ずかしいから立って立って! そういうのはいいからさ」

「じゃーお願いね」


 二人は軽く頷いた後、その場に立ち上がった。



 この瞬間、心音を中心とした非合法的手段で人々を自殺から救う、正に神の様な組織が誕生した。

 

 まず、高橋が書き込みを一件一件確認して、特に自殺願望の強い人物を見つけ出し、自殺したい理由の聞き取りを行っていく。

 その内容を聞いて、自殺の理由が特定の人物によるものであれば、更に詳しく聞き取りを行い、それが事実であり高橋が悪人だと判断すれば、その情報を心音に連絡する。

 心音は、その連絡を受けると斉藤と高坂に情報を送り、ターゲットの住所を調べてもらう。

 そして夜中になったら、心音はその調べた住所に向かい、そこで一曲軽く歌う。

 そしてターゲットが眠りに着いたことを確認したら、遠くで待機させていた斉藤と高坂に連絡する。

 斉藤と高坂は、そのターゲットを拉致して山奥まで連れて行き、予め用意していた練炭を載せた車に乗せて、車のドアを密閉する。

 その後、斉藤と高坂を一度下山させ、心音が⦅レクイエム⦆を歌う。

 一連の流れは大体こんな感じだった。


 心音達はこの方法で、悪徳な金貸し、暴力で支配するDV夫、土地の権利書を奪った地上げ屋、半グレ、ぼったくりバーの店長、殺人を犯した者、何度も脅して来て金を無心するクズ野郎、レイプした極悪人、等々いわゆる悪と呼ばれる人物を、次々に同様の方法で殺していった。

 そして心音はそのサイトで、本当の神の様に崇め奉られるようになった。

 そのサイトは次第に、連日連夜感謝の言葉で溢れ返るようになっていった……。



「……これで何件目だ……同様の事件は……」


 立花はとある山奥にいた。

 遺体は車の中で練炭自殺をしている様に見えた。

 だがその自殺した人物が、どう考えても自殺する様な人間では無い為、立花は妙な気分を感じていた。

 そして、そんな人物ばっかりの自殺が、ここ何件も立て続けに発生していた。

 そして、その全ての事件で事情聴取をしていると皆同じことを口にしていた。


「何か……歌……が聞こえてきて……眠くなって……そして起きたら……いなくなってたんだ……」


(間違いない……浅井心音の仕業だ……)

(恐らく浅井心音は、自分の信者を使って今度は悪人に裁きを下し出したんだ……)

(まるで本当の神の様に……)

(だが! その行為は法を犯す行動)

(決して人間が踏み込んではいけない領域だ!)

(……もう歯止めが効かないとこまで来ているのかもしれない……)


 立花はそう心に思いながらも、少しでも有益な情報を手に入れる為に、ただひたすら聞き込みを続けていた。



 そしてこのニュースは、連日連夜テレビで取り上げられていた。

【一体誰の仕業か? はたまた神の天罰か? 悪人を自殺に導く謎】

 そんな見出しで報道されていた。

 

 そしてそのニュースが流れた後、何人かの自分の悪事に思い当たる節がある人は、毎日震えて過ごす様になっていった。

 中には国外に逃亡する者も現れたりしていた。

 心音が起こした行動で、何人かの心音のことを全く知らない弱者も、しばしの安堵の時間を過ごすことが出来るようになっていた……。

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