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悲しきセイレーン  作者: 武虎竜
〜プロローグ 歌姫から怪物へ 〜
21/38

〜現場検証〜

 それから数分後、とある住居で複数の銃声が聞こえたという通報を受けて動いていた組対の知り合いから情報を聞いた立花は、須藤のアジトを訪れていた。

 そのアジトの中では、何人もの筋者と思われる人物が死んでいた。

 そして、その中で生きていた者は、横に倒れて眠っていた。

 そんなちょっと変わった現場だった。

 組対の捜査員はその現場に戸惑っていたが、立花はそのアジトの中のことはそこまで気にならなかった。


 立花は、そのアジトの外で何人かの黒い服を着た耳の潰れたその筋の男達が、頭を撃ち抜かれている遺体の方が気になっていた。

(酷いな……これ……一体誰の仕業だ……?)


 立花はそう思いながら、その遺体をよく見た。

 すると、頭を撃ち抜かれている以外、どこにも傷が無いことに気付いた。


(これは……どういうことだ……?)

(つまりこいつらはみんな至近距離でただ頭を撃ち抜かれたってことか?)

(でも……そんなこと……)

(ま……まさか!?)


 立花は一つの悍ましい結論を導き出した。

 だが立花は、その結論を頭から消した。

(いや……そんなはずはない! そんなわけない!)


 だが、その後の組対の人間の周囲への聞き込みで、『銃声の後で、何故か急に歌が聞こえたと思うと眠くなって……』等の情報が出た事と、周辺の監視カメラの映像の解析が、その悍ましい結論を現実のものにしてしまうのだった。

 その監視カメラの映像では、詳しくは何が行われていたかまではわからなかったが、何故かその映像を見ると眠たくなるということをある捜査員が言っていた。

 立花は、その捜査員が見たという監視カメラの映像を見ることにした。


 その映像はとても遠くから映されたものであり、そこで何をしているかは拡大しても良くはわからなかった。

 でもそれで立花には充分だった。ある確証があったからだ。

 そして捜査員の話の通り、銃声が何発か同時に聞こえた後で、歌が聞こえる。

 映像を見ていた立花も、その歌で少しうとうととしそうになったが、自らの顔を一発殴り、眠気を耐えた。

 そしてその歌が終わった後で、しばらくすると今度は一つだけの銃声が何回かに分けて聞こえていた。

 立花はその監視カメラの映像を見終わった後で、確信した。


(……もはや間違いない……浅井心音だ……浅井心音が全てやったんだ……)


 立花は、映像を見終えて部屋から出ようとしていた。

 その時、立花の携帯電話が急に鳴り出した。藤田からだった。


「立花さん! 今ニュースで火事の速報が流れてるんですが……ちょっと気になるので私ここに向かいます!」

「 立花さんも後で来て下さい!」


 それだけ告げると、藤田は電話を切った。

 立花は部下に連絡し、火事の現場の場所を聞き出し、その現場に向かった。



 藤田と立花は、速報で流れていた火事の現場で合流した。

 須藤組の屋敷の前で合流した二人の眼の前で、須藤組の屋敷は炎と共に燃えていた。

 そして消防隊が消火活動を開始していた。

 藤田は、その消火活動の様子をじっと見ていた。

 立花はその藤田を置いて、付近の捜索を開始した。

 そしてその屋敷から数メートル離れたところで、何人もの耳栓をした捜査員らしき人物が眠っている姿を見つけた。


(間違いない……浅井心音はここにいた……)

(しかも……おそらく前よりもその力は強大になっているに違いない……)


 立花はそう心に思いながら、捜査員に呼び掛けを開始した。


「おい! 起きろ! 起きろ!」


 すると呼び掛けに応じた捜査員が、目を覚ました。


「おい! 何があった!」


 立花はその捜査員に呼び掛けた。すると捜査員は震えながら答えた。


「……何が……いや何も……起きてない……起きたはずがない!」


 立花が更に問い質そうとしたその時、捜査員を掴んでいた手を後ろから誰かに握られた。

 立花が振り返るとそこには新庄がいた。


「所轄の刑事が人の部下に何してるんですか?」

「そのご自慢の部下が浅井心音に返り討ちにされたかどうか確認してるだけですけど」


「ふう……まー隠してもしょうがないですし……」

「いい機会だから貴方にも見てもらった方がいいかもしれません……」

「そしたらもう一刑事が手出し出来る事件だとは思わなくなるだろうでしょうから……」


 新庄は観念した様子で立花にそう告げると、公安が用意した特殊ワゴンに立花を連れ出した。


「さて……今から見せる映像は加工一切無しの本当に実際に起こった映像です」

「よく見て下さい」

「危険なので音だけは消しておきます」

 

 新庄は、公安で極秘に撮影した映像を、立花に見せて来た。

 その映像は心音がまさにヒットマンに銃口を向けられているシーンのスローモーション映像だった。

 そしてその映像こそが、立花が一番その現場の事を知りたくなかった、須藤のアジトの映像だった。


「こ……こんな映像どうやって……?」


「実は、我々は須藤組の屋敷と須藤龍一のアジトを以前よりずっと、バレないようにドローンで遠くから監視していました」

「浅井心音がそこに潜んでいる可能性があった為です」

「この方法であれば歌の影響は絶対に受けません」

「まあそれはどうでもいいことです。それよりここを良く見てて下さい」


 新庄はそう淡々と立花に話すと、更にその映像をスローモーションにした。

 映像では、心音が誰かに話し掛けている様に一瞬見えた。

 その後で、心音はギターを掻き鳴らし歌を歌う体勢になっていた。

 そしてそのタイミングで、ヒットマンは一斉に銃弾を発射した。

 その銃弾が、心音にそのまま当たろうかとしたその時だった。

 急にその銃弾は、その位置からゆっくりと下に落ちていっていた。

 その様子は、まるで何かに弾かれたかの様に、ゆっくりと力無く銃弾は下に落ちた。

 そして次の銃弾を発射しようとした時には、もうヒットマンは立てなくなっていてまともに銃弾も打てず、その場に次々に拳銃を落としていった。


「こ……こんなことが……浅井心音は神になったとでも言うのか?」


 立花は、その目の前の余りにも非現実的な映像に、今まで感じたことのない震えを感じていた。


「神……確かにそうかもしれませんね……」

「銃弾を弾くなんて芸当は人間では出来るわけがありませんから」

「でも、この映像で着目すべきところはもう一つあります……」


 新庄は流れていた映像を停止して、ヒットマンに寄せた映像を立花に見せた。


「注目すべきはここです……」

「このヒットマン達は全員耳が潰れていました」

「これが意味すること……わかりますか?」


「ま……まさか……」

「この力はもう耳を塞いだだけじゃ防ぎ切れないってことか!」


 立花は、その衝撃的な事実に驚愕した。

 新庄はその立花に対して、ただ小さく頷いた。


「この少女は……もう我々人類では手出し出来ない存在かもしれません……」

「近づくことすら出来ないとなると、捕まえる方法が見つかりません……」

「この少女への有効手段は、狙撃手による遠方からの射撃か、もしくは軍による攻撃か」

「いずれにしても、ここからは捕獲ではなく、射殺になるでしょう」

「そして今回の一件で公安は、この少女の力は我が国への脅威となると位置付けて、これから対策を練ることになるでしょう……」


「……そして、浅井心音自身も、もう凶悪な存在となったかもしれません」

 

 新庄は残念そうな声でそう言うと、立花に映像の続きを見せた。

 そこには、眠っていたヒットマンの頭に拳銃を突き付けて、微笑みながら次々に銃弾を撃っていく、心音がいた。

 

 立花はその凄惨な現場と、そこに天使の様に微笑む心音の姿に恐怖した。


「ま……まさか……こんな少女が……こんなこと平気で出来るものなのか!?」


「……おそらく須藤組にいたことで、そして目の前で何度もそういう光景を見たことで、人を殺めることに抵抗が無くなったのかもしれません」

「一般人ではないにしろ、浅井心音は躊躇なく拳銃の引き金を引いています」

「おそらくこれも須藤の影響でしょう……」


 新庄はその言葉を言った後で、流れていた映像を止めた。


「我々の情報によると、浅井心音と須藤龍一は懇意な関係だったそうです」

「おそらくですが……須藤龍一は組の本隊でもある城島組により殺されたのではないかと推測されます」

「そして、おそらく浅井心音の次のターゲットはその殺害を依頼した城島組だと思われます」


「……ですが……もう今の我々には打つ手はありません……」

「この怪物は……もう誰にも止めれないでしょう……」


 新庄は立花に向かって、そう告げた。

 立花はそんな弱音を吐く新庄を見て、何も掛ける言葉が見つからなかった。

 そして立花は、無言のままゆっくりとそのワゴンから出ることにした。



「何してたんですか?」

 その立花の背後から、藤田が声を掛けて来た。


「……ん……あー……ちょっとね……知り合いにこの火事のこと聞いてたんです」

「……藤田さん……この火事と浅井心音はどうやら関係は無いみたいです」

「ただこの近くに、それらしい少女を見たという目撃証言があったみたいなので、私は周辺の聞き込みをしてきます」

「なので藤田さんはもうお帰り下さい」

「また何かわかればこちらからご連絡致します」


 立花はそう藤田に告げると、その場を離れた。

 藤田はその立花の言葉の通りに、その現場を後にした。


(言えるわけがない……浅井心音が犯罪者になったなんて……人殺しになったなんて……)

(しかしこうなると……頼みの綱はもう藤田さんしかいないのかもしれない……)


 立花は帰る藤田の姿を横目で見ながら、そんなことを思っていた……。

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