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悲しきセイレーン  作者: 武虎竜
〜プロローグ 歌姫から怪物へ 〜
20/38

〜幸せの終わり、そして決意〜

 その数分前、須藤組。


「はあ……はあ……もう……おしめえか……?」


 須藤は、何人もの組員から斬られながらも、満身創痍で立ち上がっていた。

 しかし、何人須藤が倒しても、どこからともなく増員された極道達が、次から次へと須藤に襲いかかってきていた。


「はあ……はあ……流石に……きついか……」

「すまねぇ……心音……」

 

 須藤は意識が飛びそうになっていた。



 その時だった。

 どこからか哀しい歌声が聞こえてくるのを須藤は感じていた。


(この声は……心音か……)


 そして須藤が気付くと、そこにいた城島組の極道は、次々とその場に眠っていった。

 その倒れていく組員の中から心音が現れて、須藤の側に寄り添った。


「心音……生きて……たんだね……よかっ……た……」

 須藤は死にかけの声で、心音に言った。


「龍一さん……ダメ……死んじゃダメです……」

「アナタに死なれたら……私……行くとこ無くなっちゃう……」

「だからお願い……死なないで!」

 

 心音は泣きながら、須藤に抱き付いた。


「本当……心音は……面白い嬢ちゃんだね……」


 その言葉の後で、須藤は心音に向かって、最後の力を振り絞るように話し出した。


「いいかい……君のその力は……とても凄い……凄い力なんだよ……」

「だから……君の力を欲しがる人は……また現れるよ……」

「……だけどね……その人の為にその力を使うかどうかは……心音が決めるんだ……」

「君が……納得しないことにまで……その力を使う必要はないから」

「それだけ……約束……してくれ……」


 その須藤の言葉を聞きながら、心音は更に号泣した。

 そして泣きながら、須藤の手を握りしめた。


「約束……します……私は……自分が望まないところでは……もう歌いません……」


 その心音の言葉を聞いた後で、須藤は少し笑った。


「心音……もう俺はこのまま死ぬだろう……」

「ならば君の歌を聞きながら死にたい……」

「だから……いつもの様に……君の……子守唄を……俺に……聞かせてくれないか……」

 

 その須藤のお願いを聞いて、心音は少し頷いて泣きながら、いつもの様に子守唄を歌い出した。

 須藤はその歌を聞きながら、安らかな眠りに着いた。


 心音はその幸せそうな須藤の寝顔を、しばらくじっと見つめていた。

 そしてその後で、そっとその場に須藤を置くと、心音は立ち上がった。


「聞いて下さい……⦅この世界で生きる意味⦆……」

 

 心音は、誰も聞いていないその場所で、全力で泣きながら歌い出した。



 歌い終わった後で、心音は須藤の胸元にあったzippoのライターを取り出すと、そのzippoのライターに火を点けた。

 そしてその火が点いたライターを、周りにいた眠っている極道に向かって投げた。

 しばらくすると、そのライターの火が極道の衣類に燃え移り、そしてゆっくりとでも確かに燃え出した。

 そして、その炎はどんどん大きくなっていった。

 心音はその様子を無表情のまましばらく見て、炎が屋敷に燃え移ったのを確認した後で、屋敷から外に出た。


「龍一さん……龍一さんの仇は……私が取るから……」


 心音は屋敷の外で、ゆっくりと炎の勢いを増していく屋敷を、しばらく見ていた。

 

 その時、心音の携帯電話が鳴った。


 「心音さん! 無事ですか?」

 電話を掛けて来たのは高坂だった。


「……ごめん……高坂さん……」

「龍一さん……助けれなかった……」

 心音は高坂にそう告げた後で、号泣しだした。


「心音さん!? ど……どうしたんですか……」

「まさか……今、須藤組にいるんですか……?」

 高坂がそう言うと心音は、消えそうな細い声で頷いた。


「と……とにかく今から俺そこに行きます!」

「ちょっと待ってて下さい!」

 

 高坂は電話を切った。

 心音は少し大きく泣いた後で、淚を拭い、高坂をその場で待つことにした。


 

 落ち着きを取り戻した心音は、自分が何者かに囲まれていることに気付いた。


(十……いや……二十人はいるわね………)


 心音はそう心で呟いた後で、見えない何者かに向けて、冷徹な眼差しを向けた。

「私の邪魔をしないで下さい。そうすればこのまま何もしないことにします」


 心音を囲んでいたのは公安の新庄の部下達だった。

 部下達は新庄の指示で耳栓をしていた。

 そして、小型の監視カメラを付けていた。

 そのカメラで撮影した映像を、署内で新庄も見ていた。


 心音はその周りの人達がどんどん自分に近づいていることがわかっていた。


 「わかりました……」

 

 その言葉と共に、心音はギターを掻き鳴らし始めた。


「それでは聞いて下さい……」

「⦅この世界で生きる意味⦆……」


 その言葉を放った後で、心音は冷徹な眼差しのまま歌い出した。


「そ……そんなバカ……な……」

「耳栓……してるのに……」

「こ……こんなことが……」

「し……信じられない……」

「バ……バケモノ……」


 そんな呻き声にも似た言葉を上げながら、その場にいた新庄の部下達は次々と眠り出した。


「くっ……こ……これが……音……切れ……」


 その様子を見ていた新庄も、心音の歌を聞いてしまい眠りそうになってた。

 だが、間一髪で音を切ることで眠らずに耐えた。


「ハァ……ハァ……こ……これが噂の力か……」

「こんな力……こんなデタラメな力はこの世に存在してはいけない」

「この力はこの世の理を壊しかねない」


 新庄はそのあまりにも強大な力に対して、恐怖を覚えた。

 

 そして新庄が気付いた時には、心音を捉えていた監視カメラの映像から、心音は姿を消していた。



 それからしばらくして高坂と斉藤が車で到着した。

 心音は二人に全てを話した。

 高坂と斉藤は心音から聞いた事実に思い思いに涙した。

 そんな二人に心音はゆっくりとでも力強く話し出した。


「……斉藤さん……高坂さん……私……龍一さんの仇を取りたい!」


「心音さん……若の仇、取りに行きましょう!」

「この斉藤も心音さんにお供させて頂きやす!」

「お……俺も若の仇取りたいです!」

 

 斉藤と高坂は心音の決意を聞いて、そう答えた。


「あ……ありがとう……」

 心音はその二人に対して、深々く頭を下げた。


「頭を上げて下さい心音さん……それでは若の仇討ちに向かいましょう!」

「でもその前に……」

「おい高坂! 車に積んでいる酒瓶持って来い!」

 斉藤は高坂にそう指示を出した。


「ここにはもうすぐ警察が来ると思います」

「その前に、この屋敷を盛大に燃やしてとっととずらかりましょう」

 斉藤は心音に向かってそう言った。


 斉藤は、高坂に酒瓶を栓を開けたまま全て屋敷の中の炎に向けて投げ込ませた。

 すると、炎は勢いを増してみるみる内に燃え上がり屋敷全体に燃え移った。


 「さっ!心音さん!急ぎましょう!」

 

 その光景を少し見た後で、斉藤は心音にそう声を掛け、乗って来た車まで向かった。


「バイバイ……龍一さん……」


 心音はその燃え上がる屋敷を横目に見ながら、一筋の涙を流してそう呟いた。

 

 だがその時、同時に何か別の映像が、心音の頭の奥底に浮かび上がって来た。

(い……今頭に浮かんだ景色は何……?)


 心音はその頭に浮かんだ映像が気になったが、その気になる気持ちを振り切って、車まで歩き出した……。

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