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悲しきセイレーン  作者: 武虎竜
〜プロローグ 歌姫から怪物へ 〜
19/38

〜覚醒〜

 その頃、須藤のアジト。

 須藤が帰ってくるのを部屋で待っていた心音の前に、不知火が現れた。


「心音さん! 今すぐ逃げて下さい!」

「一体……何があったんですか?」

「ここが襲撃されます!」

「私と一緒に逃げて下さい!」

「それが若の意志です!」


 不知火は心音を部屋から連れ出した。

 そして不知火と一緒に心音は外に出た。


 その直後だった。


【バキューーーン!】


心音を連れ出した不知火は、その音と共に腹から血を流し、その場に倒れ込んだ。


「不知火さーーーん!」

「ハァ……ハァ……大丈夫です……急所には……当たっていません……」

「それよりも……早く……逃げて……下さい……私は……大丈夫ですから……」


 不知火はそう言いながら、ゆっくりと立ちあがろうとした。


 心音が周りを見渡すと、そこには耳の潰れた男達が、何人も拳銃を持って立っていた。

 心音はそのあまりにも突然の展開に戸惑っていた。


(何この人達……耳が潰れている……)

(……これじゃ歌を聞かせることなんて出来ないよ……)



 そんな心音の心に声が聞こえてきた。


【まったく……なんてザマなんだい……何をそんなにオロオロとしているんだい?】


心音がその声のする方を向くと、なんとあの時の鳥の置物が宙に浮いていた。


【安心しな……その男は死にゃーしないよ……】

【それよりも何かアンタ勘違いしてないかい?】

【歌ってのはさ心に響かせるもんなんだよ】

【耳なんかあったって無かったって関係ない】

【それに歌っている間はアンタは無敵なんだよ】

【ほら騙されたと思って歌ってごらん】

【但し全力でね】

【全力じゃないと心には響かせられないから】


 心音に語りかけた後、その鳥の置物は姿を消した。


 心音が気付いた時には、周りの状況はそのままだった。

 まるで鳥が話している間だけは時間が止まったかの様に。

 そして心音は、手に持っていたギターを掻き鳴らし始めた。

 そしてハミングを始めた。

 そのハミングが始まると、心音の側にいた不知火は眠り出した。

 そして、その動きを見た拳銃を持った男達は一斉に心音に向かって引き金を弾いた。

 多くの銃弾が心音に向かって発射された。



 だが、歌っている心音には当たらず銃弾は心音の手前で全て落ちた。

 まるで何か見えない壁に弾かれたかの様に。

 その状況に、拳銃を持った男達は困惑している。


【ウッフッフ……だから言ったでしょ……】

【誰もアンタのステージの邪魔は出来ないのさ】

【さあ聞かせておくれ! アンタの本気の歌声を!】


 心音は心の中に確かにそんな声が聞こえたのを感じた。

 そして小さい声で「ありがとう」とだけ言うと、自身のヒット曲である⦅この世界で生きる意味⦆を全力で歌い出した。


(バカが! 俺達は耳を潰しているんだぞ……そんな歌が……?)


 男達は自分の意識が飛びそうになっていることに気付いた。

 そして身体がフラフラしている事に気づいた。

 そして、男達は持っていた拳銃を次々に地面に落としていった。


(バ……バカな……こんな……ことが……ありえ……な……)


 そこにいた拳銃を持った男達は、心音が一番を終わる頃には全員眠っていた。

 


 心音はそのヒットマンを見ながら、龍一の言葉を思い出していた。


『もし、自分に危害を加える奴が現れた時はここをこうしてこう!』

『ね、簡単だろ。拳銃って。』

『そんなに怖がらくても大丈夫なアイテムだから』

『近づけて撃てば的を外す事も無いからさ』

『ほら……撃ってごらん……』


 心音は徐に、男達が地面に落とした銃を拾い、無表情のまま眠っている男のこめかみに銃口を向けて、引き金を引いた。

 男は、大きな音と共に大量の血を流しながら、頭を撃ち抜かれた。

 その返り血を浴びたまま、同じ様にその周りにいた眠っていた男一人一人に対して、心音は次々に頭を撃ち抜いていった。

 そしてその拳銃をその場に放り投げた。


「本当だ……龍一さん……とても簡単だね……」

 心音は、少し笑いながら呟いた。


【素晴らしいねえ……アンタ……最高だよ……】


 そんな声が聞こえてきて少し我に返った心音は、そのまま須藤が向かった須藤組に走り出した。



 心音が須藤のアジトを出てから数分後、須藤組から車で急いで戻ってきた斉藤と高坂は、アジトの外で血まみれの姿のまま眠っている不知火を発見した。


「不知火さん!しっかりして下さい!」

 斉藤は不知火に呼び掛けた。


 そして側でオロオロしていた高坂に向かって叫んだ。


「おい高坂! 狼狽えてる場合じゃねえぞ!」

「とりあえず不知火さんを車に運ぶぞ! 肩貸せ!」


 高坂は斉藤に言われるがままに手を貸し、血まみれの不知火を車に乗せた。


「高坂! とりあえず俺は不知火さんを病院に運ぶ!」

「お前はまず心音さんに連絡して安否を確認した後で、俺に連絡して来い!」


 斉藤は高坂に指示を出した後、須藤組御用達の病院まで車を走らせた。

 そして高坂は、心音に電話を掛けた……。

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