〜ようやく見つけた愛しき存在……〜
翌日から心音の仕事は始まった。
須藤は敵対する組に心音を送り込んだ。
心音は、須藤からプレゼントされた最高級のギターを片手に、次々と須藤の指示の通りに送り込まれた場所で歌を歌い続けた。
そして全員を眠らせた後で須藤に連絡をし、須藤がその後で部下を送り込み全員を銃殺していった。
須藤は組長の指示の通りに、心音は須藤の言う通りに。
そんな互いが互いを利用する関係で毎日毎日心音は歌を歌い続けた。
そんな中、須藤と心音はいつしかお互いがお互い惹かれ合う関係となっていった。
須藤は、理由はどうであれ自分の為に献身的に働いてくれるその姿に。
心音は、極道とは思えないその優しさと、時折見せる笑顔、そしてたまに見せる苦しそうな表情に。
そして惹かれ合う内に、須藤はいつしか心音に子守唄をお願いする様になった。
『心音の歌声を聞くと本当によく眠れるんだよ』
須藤はそう言って自分の寝室に心音を呼び、度々子守唄をリクエストしていた。
そしてその関係の中で須藤も心音に心を開き出していて、気づいたら二人は恋人の様な関係となっていた。
そして心音は須藤の横で一緒に眠る様になっていた。
その姿を須藤の部下達もよく見る様になり、いつの間にか心音はただのヒットマンではなく、須藤の大切な人という認識となっていた。
そして須藤は次第に、自分の将来の妻にする為に教えるかの様に、極道の心意気や、自分の組織についてや、拳銃の使い方や、ドスの使い方等を心音に教えていった。
心音は龍一と一緒にいる時間をとても幸せに感じていたので、まるでデートをするかの様にその時間を楽しんでいった。
そしていつしか今の自分のいる場所が、ようやく出来た新しい心の拠り所となっていることを感じていた。
そして歪な関係だけど初めて出来たとても大切な人であると心で認識していた。
願わくばこの生活がずっと続けばいいとすら思っていた。
同じ頃、公安の新庄はある筋からの情報で、須藤組が暴力団界隈で最近勢力を伸ばして来ていているという情報を入手していた。
そして公安は、須藤組のその勢力拡大に一人の少女が関わっているということまで突き止めていた。
(間違いない……浅井心音は須藤組にいる……)
新庄は自分の部下に指示を出して、浅井心音確保作戦を実行しようとしていた。
そんなある日の夜、須藤は須藤組の組長である父親に呼ばれて須藤組を訪れていた。
「龍一よ、お前がこの組の為に色々頑張ってくれておることにはとても感謝している」
「勿体無いお言葉ありがたく頂戴致します。全てはこの組の為でございます」
「……時に龍一よ……お前が使っているヒットマンのことなんじゃが……」
「……あいつを殺してくれんかの……この組の為に……」
須藤は、組長のその言葉に困惑した。
「組長……それはどう言う意味ですか?」
「今まで……いやこれからも組の為に働く人物を消せと言うのですか?」
「それはなぜですか?」
須藤は組長にそう問い質した。
すると組長は、身体を震わせながら、瞳孔を見開き、須藤を睨みながら答えた。
「……あの女は危険じゃ……危険過ぎる……」
「人を必ず眠らせるよくわからん力もそうじゃが、それよりもそれだけの力があるのに、その事に恐れる事なく、あの子はとても楽しそうに歌を歌って、まるで人を眠らせることが当たり前かの様に仕事をこなしておる」
「こちらが依頼しているのじゃから、本来は嫌々行うはずのその仕事を、あの女はとても楽しそうに仕事をしているのじゃ」
「その姿に、何年も極道で生きてきたこの儂が、恐怖を覚えておる」
「あれは怪物じゃ……人の姿をした……人を眠らせる怪物なんじゃ……」
「組長! あの子は……心音は怪物なんかじゃありません!」
「心音は……とても優しくて、俺にとっては大切な掛け替えの無い存在です!」
須藤は組長に対して怒りながら答えた。
「……龍一……お前はもう怪物に毒されておるのじゃよ……」
「もうお前には何を言っても無駄な様じゃ……」
「残念じゃがここで死んでもらおうかの……」
組長が手を上げた瞬間、須藤の周りを城島組の極道が取り囲んだ。
「……そういうことですか……」
何かを悟った須藤は、組長に向かって拳銃を突き付けた。
「最初から……俺を消すつもりでここに呼んだんですね……」
「もしかして、心音を殺すことを依頼して来たのは、うちの組が所属している城島会の会長ですか?」
「組長! 答えて下さい!」
組長は一度瞼を閉じると、須藤を睨みながら話し出した。
「……どのみちこの組はあの怪物がいる限り先はない……」
「それに警察ももうここにあの女がいる事がわかって動き出している」
「だから会長は儂にあの女の殺しを命じて来たのじゃ」
「そして、既にもうお前のアジトにも何人かの城島会のヒットマンが向かっておる」
「あの怪物を倒す為に特別に用意されたヒットマンがな」
「組長……残念です……」
須藤はその言葉の後で、拳銃の引き金を引いた。
拳銃は大きい音と共に銃弾を発射し、組長の頭を貫いた。
そして組長はその場に倒れ込んだ。
その倒れた血まみれの組長を須藤は抱きしめた。
周りの極道はその異様な様子を見て、戸惑っていた。
須藤は無言のまま立ち上がり、ポケットから携帯電話を取り出すと、外で待機していた高坂に電話を掛けた。
「高坂! 今すぐアジトに戻れ! そして心音を死んでも守れ!」
その指示を出した後で、須藤は携帯電話を放り投げた。
そして上着を脱いで上半身裸になってドスを携えた。
「須藤組若頭須藤龍一!」
「愛する者の為に、ここより戻らないといけません」
「もし邪魔するなら殺しますからそのつもりで来て下さい!」
丁寧な口調ながら、ドスの効いたその声で周りの極道に向かって叫んだ。
そして、持っていたドスを持って周りを取り囲んでいる極道に立ち向かっていった……。




