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悲しきセイレーン  作者: 武虎竜
〜プロローグ 歌姫から怪物へ 〜
16/38

〜意外な協力者〜

「こ……これは……どういう事だ……?」

 藤田は朱里のアパートの下にいた。

 そしてその場の異様な光景にただただ驚いた。

 そこには何人もの人間が横になって眠っていた。

 そしてその中の眠りから目覚めた人達は、自分の周りの光景を見て、その状況に驚いたり感動したりしていた。


「これぞ……本物の……神の力だ……」

「おい! 起きろ!」

「誰か見た奴いないのか?」

「あれ? アタシなんでこんなところで寝てるの?」

「確か女性の綺麗な歌声が遠くから聞こえて……あれは……Kanade様の声だ!」


 そんな様々な声がその下で騒がしく聞こえていた。

 そして異様な事にそれだけ賑やかな中でも、何人かはまだその声の近くで、眠っていたのだった。

 藤田は色々聞きたいことがあったが、まずはその朱里って女性に聞くことが早いと思い、その群衆を掻き分けて朱里の部屋まで駆け足で向かった。


 朱里の部屋に入った藤田は、そこで眠っている朱里を見つけた。

「おい! 君! 起きろ! 起きてくれ! 頼む!」

 そう言いながら藤田は朱里を揺り続けた。

 すると、タイミングが良かったのか、それとも何か願いが届いたのか定かではないが、その呼び掛けに朱里は目を覚ました。


「ん……ん? アンタ誰だ!」

 朱里は目が覚めるなり、藤田と距離を取った。


「怪しい者じゃないから安心して下さい」

「僕は浅井心音のマネージャーをしている藤田って言います」


 そう言いながら、藤田は自分に拒絶している朱里にゆっくりと名刺を渡した。

 朱里はその名刺を見るなり、何かを思い出したようにゆっくりと喋り出した。


「そ……そうだ……心音……心音……どうして……心音……」

 朱里は、何度も心音の名前を連呼した。


「そうですか……やっぱりここに心音はいたんですね」

「まずは心音の無事がわかって安心しました」

「それで心音はどこに行ったんですか?」

 藤田は優しい口調で朱里に問い掛けた。


「心音は……もうここにはいません……」

「私に迷惑を掛けたくなくて……出て行きました……」

 朱里は悲しそうな声で答えた。


「そうですか……わかりました……」


 藤田は朱里にそれだけ言うと、その部屋を出た。

 藤田を見届けた後で、朱里は心音のことを思い出しながら、号泣した。


(心音……一体……どこに……)


 藤田は心音を探す為に、また街の中に消えて行った。

 

 そんな藤田の腕を掴む男がいた。立花だ。

 立花もまた朱里の部屋まで行き、そしてそこで朱里から、先程尋ねて来た人がいたことを聞いていた。

 そしてその人物のことを聞いていた。


「浅井心音の元マネージャーの藤田さんだね。俺は警察の立花って者だ」

 そう言いながら、立花は藤田に警察手帳を見せて話しかけた。

 

 藤田は立花の掴んだ腕を振り払い、冷静に問い掛けた。

「警察の方が私に何の用ですか?」


「アンタ、浅井心音を探してんだろ? 俺と組まないか?」

「なんで警察と私が手を組むんですか? 心音の失踪届は出していないはずですが」

 

 藤田は憮然とした態度で、立花に言い返した。


「……浅井心音は裏社会の人間と繋がる可能性のある重要人物として、公安が確保に動き出している」

 立花は藤田にそう告げた。

 

 すると藤田の顔色がみるみる変わり、その怒りの感情のまま立花の胸ぐらを掴んだ。


「ふ……ふざけんなよ!」

「心音は……心音はそんな奴等と繋がって悪事に手を染める様な子じゃない!」

「あの子は……ただ歌いたいだけなんだ!」

 藤田は立花に向かって叫んだ。


「……理由はどうであれ……現状、浅井心音の歌にはそれだけの危険性があるということは間違いない事実だ」

「そして、この国はその危険性を排除する為に動き出した。ただそれだけだ……」

 立花は怒りに震える藤田にそう伝えた。


「だから……公安よりも先に捕まえないといけない!」

「ただ危険だから……そんな理由だけで少女を無条件に拘束するなんてことは絶対にあってはならない!」

「だから協力して欲しい! 頼む! この通りだ!」

 

 立花は、藤田に胸ぐらを掴まれたままの状態で、頭を下げた。

 その立花の態度に、藤田は少し我を取り戻し、胸ぐらを掴んでいた手を離した。


「……心音の安全が第一です……」

「だからもし見つけても手荒な真似はしないと約束して下さい」

「それが組む条件です。それで良ければ協力します」


「ああ約束しよう。俺も見つけたらまずアンタにすぐ連絡するつもりだ」

「だからアンタも見つけ次第、俺にすぐ連絡して欲しい」

「そして、アンタがあの子を説得するんだ」

「それでもし失敗したら、その時は俺が遠くから睡眠薬を染み込ませた布を持って確保に動く」

「それでどうだ?」


 立花は自分の考えを藤田に話した。

 藤田もその立花の考えを理解して、二人は互いの連絡先を交換した。


「地回り的なことはプロに任せとけ」

「アンタは芸能のネットワークを使ってネットでとにかく心音……いや、眠らせる力を持った少女の目撃情報をとにかく集めてくれ」

 

 立花は藤田にそう指示を出した。

 藤田もその指示に軽く頷いた後で、二人はその場から別々に歩き出した……。

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