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悲しきセイレーン  作者: 武虎竜
〜プロローグ 歌姫から怪物へ 〜
14/38

〜評価された人智を超えた力と朱里との別れ〜

 それから数時間後。


「さーて……そろそろ評価を見てみようか」

 朱里はゲームの切りがいいところで、自分のスマホから自身のチャンネルに入った。


「……これは……どういうこと……?」


 朱里はその予想していなかった展開にただただ驚いていた。

 その日の配信の結果はなんと投げ銭が0だった。

 でもその評価は数時間経過した現時点で【一千万いいね】だった。

 そしてその数は朱里が見ている最中も、止まることなく上がり続けていた。


 そして朱里が真に驚いたのは、その動画に寄せられていたコメントだった。


『この歌声を聞くと気づいたら眠っていた』

『休憩時間に見て気付いたら休憩終わっていた』

『この子マジ神!意識ぶっ飛んだ』

『ヤバい!居眠り注意!』

『不眠症の私がこの子の歌を聞いた瞬間眠りに落ちてしまった。まさに奇蹟の歌声です』

『軽く聞いただけなのに思わず居眠り運転しそうになって速攻止めました。そして路肩で止めて改めて聞き直しました。そして気付いたら寝てて疲れが一気に取れました』

『この歌はゆっくり出来るところで聞かないとマジ危ない』

『絶対運転中は聞いちゃダメ』

『この歌は本当の癒し』

『ありえないけど本当に寝れます』

『下手なものよりもよっぽどこの子の歌声の方が快眠グッズだ』

『赤ちゃんに聞かせたらすぐに寝てくれる』

『グズった子が急に眠り出しました。私も気付いたらうとうとしてたのですぐ止めました』

『天使?悪魔?』

『この子の力は本物だ』

『危険過ぎるくらいの眠りの効果あり是非試して欲しい』


(この子の力……本物だ……本当に……眠らせれるんだ……)

(しかも……画面越しでこの効果……)

(もし……リアルで聞いたら……どうなるんだろ……)


 朱里は心音のその人智を超えた力を目の当たりにして、驚愕していた。

 そして、朱里は無意識のうちに、自分の身体が震えていることに気付いた。

 でもその気持ちを絶対に心音にはバレたくないと思って、朱里は、自らの身体の震えを抑えた。


「凄いよ心音! 一千万いいねだよ。やったね! やっぱり凄いんだよアンタ!」


 朱里は、心音を思いっ切り抱き締めた。


(余計なことは考えない様にしよう……)

(でも……これだけの反応があったってことは……)

(間違いなくニュースになる……そうなったら……どうしよう……)


 その朱里の不安は的中した。

 その日の夜のニュースでこの動画が取り上げられたのだ。

 【特集 今話題の聞くだけで眠れる動画】として。

 

 そしてその特集の字幕には信じられない言葉が添えられていた。

『この動画を聞く時は必ず時間に余裕がある時にして下さい。この子の力は本物です』


 その映像では、番組のADらしき人物が、問題となっている動画をイヤホンで聞きながら流す様子を放送していた。

 おそらくその動画が流れ出して数秒だろう。

 目の前で撮られているにも関わらず、ADらしき人物はたちまち眠ってしまっていた。

 そこに耳栓をした別のADらしき人物が現れると、その動画を止めて眠ったADを起こす様子までその一部始終を放送していた。


『これは決してヤラセではありません……この動画を見る時は充分気をつけて下さい』

 流れていた映像は、その言葉と共に終わり、スタジオの映像を映していた。


 スタジオでは評論家らしき人物が解説していた。


「おそらく、この動画から流れるこの歌声には極上のヒーリング効果があると思っていいでしょう」

「普通の一般的な快眠グッズが、脳や身体にリラックスを与えて眠りを促すのであれば、この歌声は脳に直接ノンレム睡眠を呼び掛けていると言えるでしょう……信じれないことですが……」

「私は正直恐怖でしかありません……」

「この歌声を使えばありとあらゆる悪事が容易になるからです……」

「私は警告します……早急にこの動画は削除すべきです!」


 そのニュースを朱里と心音はただじっと見ていた。

 そして朱里の不安は的中してしまう。

 この動画が危険動画とされてしまい、朱里はアカウント停止となってしまった。

 朱里は、改めてとんでもないものを撮ったんだと実感していた。

 そしてその夜のネットはこの動画の話題で持ち切りだった。


『Kanade様に会いたい』

『Kanadeはどこかの組織が作った洗脳システムだ』

『Kanade 様私を安眠させて下さい』

『Kanadeは新しい犯罪のツールだ』

『ああKanade様もう一度その歌声をお聞かせ下さい』

『Kanadeって一体誰なんだ?』

『なんかこの歌声聞いたことあるんだけどな……』

『Kanadeってもしかして浅井心音じゃないのか?』

『Kanadeの声、浅井心音に似てる』

『浅井心音って確かもう歌えないんじゃなかったっけ?』

『Kanadeは浅井心音が怨念で作り上げたアバターだったりして』

『どんな理由つけても眠らせる理由にはならない』

『そもそもなんで眠たくなるんだ?』

『Kanadeがいればどんなことでも叶うんじゃないか?』

『Kanade様あいつを眠らせてくれ』

『Kanadeを見つけたら百万円出す』

『この世を変えれるのはKanade様だけだ』

『Kanadeを見つけるぞ』

『Kanade様を悪い奴から守らないと』

『Kanade様を見つける為にみんな協力してくれ』

『確かアサミの友達とか言ってたな』

『じゃーアサミをまず見つけたらいいんじゃないか?』


 ネットはKanadeの話題で持ち切りだった。

 ネット住民達は、アサミの元にKanadeがいると信じてアサミの特定を始めた。

 そしてネット住民達は、アサミが朱里であることまで特定し、家まで見つけ出した。


「やばい……やばいよこれ……今すぐ逃げなきゃ……」

 そう思った朱里だったが、時既に遅しだった。


 朱里が窓から下を覗くと、既に数人の人間がアパートの真下にいた。

 朱里はその様子を見て諦めた顔をしていた。

 そんな朱里を見て、心音はにっこりと笑った。


「朱里さん……今までありがとう……」

「これ以上は迷惑になりそうだから……私ここ出て行くね……」

「もし……誰かに聞かれたら言っていいから……」

「Kanadeの正体は浅井心音で、もうここにはいないって……」


「待って! 別に全然大丈夫だから」

「そもそも出て行くって下にあんなに人いるのにどうすんだ?」

「すぐに囲まれるぞ。ちょっと落ち着いて話ししようよ」

 

 朱里は心音の腕を掴んだ。


「そうだね……あれだけの人が私の歌を聞きに来てくれている」

「……なら私はそれに応えなきゃいけない」

「……だから……行くね……」


 心音は朱里に笑顔を向けた。

 そして、朱里に向けて子守唄を歌い出した。


「な……なんで……」

 朱里はその言葉を発した後で、眠ってしまった。


「ごめんなさい朱里さん……そしてありがとう……」

「朱里さんのお陰で私、自分の進む道が見えた気がしたよ……」

「だから行くね……バイバイ……」

 

 眠ってる朱里に、心音は寄り添って話し掛けた。

 そして眠っている朱里をギュッと抱き締めた後で、心音は朱里の部屋を出て下に降りていった。


 下では大勢の人が待ち構えていた。

 その中を歌いながら心音は進んで行った。

 何人かがその歌声に気付いたが、それでも眠りを止めることは出来ずに、結局その場にいた全員がその場で眠り出した。

 その様子を見て心音は歌うのをやめて、その場を立ち去った。



 その動画のニュースを藤田も見ていた。


(Kanadeは間違いなく心音だ……心音……一体どうしちまったっていうんだ……)


 藤田は心音が今何を考えているのか全くわからず、絶望に打ちひしがれていた。


(とりあえずネットに載っていたこの朱里って女性のところに行ってみよう)


 藤田は、ネットに載せられていた住所に向かった……。

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