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悲しきセイレーン  作者: 武虎竜
〜プロローグ 歌姫から怪物へ 〜
13/38

〜Kanade〜

(夢か……なんか懐かしい夢だったな……)


 心音は何故か藤田と初めて会った時の夢を見ていた。

「おっ起きたか眠り姫。昨夜はよく寝れたかい?」


 朱里は遠くで朝ご飯を作りながら、心音にそう聞いて来た。

「はい……よく寝れました」

「よしっ! とりあえず顔洗っておいでよ。もうすぐ朝ご飯も出来るからさ」

 心音は朱里の言葉に少し頷いて、洗面所に向かった。


 心音が洗面所から戻った時には、朝ご飯が机の上に出来上がっていた。

 朝ご飯は、朱里が作った何種類かあるサンドイッチと、温かい紅茶とサラダだった。

「さあ食べよう。腹が減ってはなんとやらと言うしね。じゃーいただきます」

 朱里はご飯を食べ出した。

「いただきます」

 心音も朱里の様子を見て、朝ご飯を食べ出した。


 朝ご飯の片付けをした後で、朱里が心音に話を切り出した。

「さてと……じゃー始めようか」


 朱里はそれだけ言うと、心音をある部屋まで誘導した。

 その部屋は防音機能がされている部屋だった。

 そしてそこにはギターとおそらく動画を撮る用だと思われる機材が置かれていた。

 その部屋のなんとも言えない不思議な作りに、心音は圧倒されていた。


 そんな心音を見ながら、朱里は語り始めた。


「アタシ実はミュージシャンなんだ。って言ってもバーチャルのなんだけどね」

「これでもこの界隈じゃーちょっとは知られてるんだけどねー」

「VRアーティストのアサミって知らない?」

「この世界では一応歌姫?的な人気アーティストなんだけどさ(笑)」

「何度かバズったこともあるし、しかもこれでも結構稼いでるんだよ」

 

 朱里はその部屋の中で機材を用意しながら、自分のことを心音に話し出した。


「それでね……心音にちょっとお願いしたいことがあってね」

「心音にさ、私の友達ってことで私のSNSに登場して欲しいんだ」

「そして私のSNSで思いっきり歌って欲しいんだ」

「あっ大丈夫! この部屋は防音だから外に出とけば多分私が眠ることはないと思う」

「それにSNS上だったら直接では無いから、誰も寝ないと思うよ」

「この方法なら心音も思いっ切り歌えるし、悪くないと思うけどどうかな?」

 

 朱里は心音にそう提案してきた。


「はい! 是非とも歌ってみたいです!」

「よろしくお願いします!」

 

 朱里の提案に対して、心音は眼をキラキラさせながら、朱里に頭を深々と下げてそう答えた。


「アッハッハ。じゃー決まりね」

 

 朱里は笑いながらそう言うと、機材のセッティングを続けた。

 そして、一通りのセッティングを完了させると、朱里は心音にパソコンの画面を見せた。


「ちなみに、これが私のアバターであるアサミね」

「私の願望を思いっ切り詰め込んだ、バリバリのアイドルにしてるから」

 

 朱里はそう言いながら、自分のアバターを心音に見せた。

 そのアバターの見た目は、パッチリ二重で小顔でフリフリのステージ衣装を身に纏い、男が求める理想的なボディーをしていて、ギターを携えていた。

 その姿は紛れもなくギターを携えた、人気アイドルの見た目だった。


「アバターってどんな姿にも出来るから、どうしても別の自分っていうか憧れの姿にしたくなるよねー」


 その自分の理想を詰め込んだアバターを、朱里は心音に少し恥ずかしそうに披露した。

 その後で朱里は、心音のアバター作りに取り掛かった。


「よし。これでいいかな」

「じゃーアバター作っていくけど何か希望ある?」

「……仮面ってつけれますか? 上半分の眼だけ隠せたらいいんですが……後は例えば羽根とかつけれますか?」

 朱里の問い掛けに対して、心音は自分の希望を伝えた。


 そして心音のアバターは完成した。

 黒い長髪で上半分を仮面で覆い、ワンピースを着てギターを携えている小さな可愛らしい羽根の生えた天使の様な女の子。

 その姿は心音と似ていて非なるそんな風に見えた。


「さてとこれでよし。後は名前だけだけど……」

「……Kanadeでお願いします……」

 朱里は心音に言われたまま、その名前を打ち込んだ。


「さて、これで準備オッケー。さーライブ画面にするよ」


 朱里はパソコンの画面を、ライブ画面に切り替えた。

 そして、朱里は心音に流れとその他諸々の説明を始めた。


「えっとー簡単な流れと操作だけ説明しとくね」

「とりあえず私の友達を紹介しますって流れで、Kanadeを紹介するから」

「その紹介をした後で、私はこの部屋を出るから、それを合図に自分が歌いたい歌を思いっ切り歌っていいからね」

「まーそうは言ってもさすがに自分の曲はやめた方がいいかもね」

「ほら後で著作権とかで揉めるの面倒だし……」

「まー本人だから問題ないっちゃー問題ないんだけどね……」

「それでまー歌い終わったら外にいる私の方見てくれたら、私が中に入って締めのコメント言うから」

「こんな流れでどうかな?」


「大丈夫です……さすがに私も自分の歌は歌うのは色々とまずいと思うので、それはやめておきます」

 その言葉を聞いて、朱里は軽く頷いた。


「オッケーじゃーいくよー!」

 朱里はその声と共に、自分のチャンネルを開いた。


「みんな〜元気〜? アサミだよ〜」

「今日はね〜私のお友達呼んでるんだ〜」

「私ぐらい可愛くて〜でも歌はもしかしたら私より上手いかもしれないよ〜」

「じゃ〜紹介するね〜」

「Kanadeちゃんでーす」


 心音は、急にアイドルの様な喋り方をし始めた朱里に、少し戸惑っていた。

 でもここはそういうもんだと気持ちを切り替えた。


「どうも……Kanadeです」

「えっとー……こういうところで歌うのは初めてなので……緊張してます……」


 心音はそんな挨拶をしながら、横目で朱里が外に出たのをしっかりと確認した。


「それじゃー頑張って歌うので聞いて下さい」

 

 心音は、自分が昔からよく聞いていた歌を一曲丸々ギターを弾きながら歌い出した。


(私……久しぶりに全力で歌えてる……)

(この感じ……本当久しぶりのこの感じ……いい……凄くいい……)

(やっぱり私歌うのが好きなんだ……)

(……私やっぱり歌うことを諦めたくない……)

(たとえ……たとえそれで誰かが眠ることになっても……それでも歌い続けたい!)


 歌い終わった心音は、とても清々しい顔をしていた。

 そして少し落ち着いた後で、外にいる朱里に合図を出した。

 朱里はその合図を受けて部屋の中に入って来た。


「みんな〜どう? Kanadeちゃん凄い上手だったね」

「それじゃ〜みんな今日も評価と投げ銭宜しくね〜」

 

 朱里は最後のコメントを言って、そのチャンネルを閉じた。


「さーて……これで数時間後どうなっているか……楽しみだねー」

 そう言いながら、朱里は心音の肩を寄せた。

 そして二人はその部屋を出た。



「で。心音の手応えとしてはどんな感じ?」

 リビングに戻った朱里は心音にそう尋ねた。


「はい!なんか久しぶりに思いっ切り歌えました。朱里さん本当にありがとうございます」

 心音は朱里に満面の笑顔でそう答えた。


「大体の結果? 評価? は数時間後に出ると思うから、それまではのんびり待ってよか」

 その言葉に心音も軽く頷いた。


「ちょっと時間もあるしゲームでもしよっか」

 朱里はそう言って、心音をゲームに誘った。

 心音も頷き、二人はしばらくゲームに没頭していた……。

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