〜絶望の中の希望〜
心音は朱里に連れられて、朱里の暮らすマンションの一室にいた。
「とりあえず座ってて」
朱里はそう言って心音をソファーに座らせた。
そして缶チューハイを何本か持って来た。
「まーまずはこの出会いに」
「かんぱーい」
そう言って朱里は缶チューハイを飲み出した。
その様子を見て心音も飲み出した。
「おっ!いい飲みっぷりじゃんか」
「そうそうお腹空いてない?」
朱里の問い掛けに、心音は軽く頷いた。
「そっかー……ちょっと待ってな」
朱里は立ち上がって、キッチンの方で何かをし始めた。
そして朱里は、前日に簡単に作ったカレーライスをキッチンから持ってきて、心音の前に置いた。
心音はその時初めて、一日何も食べていなかったことに気付いて、朱里が作ったカレーライスを貪った。
「アッハッハ。アンタ本当にお腹空いてたんだね。いいよ。いっぱい食べな」
朱里はそう言って、心音の食べっぷりを眺めていた。
そして心音は朱里の料理を全部平らげてしまった。
そんな心音の姿を見た後で、朱里は着替えとバスタオルを心音に渡した。
「ホラ。風呂入って来なよ。折角の可愛い顔が台無しだぞ〜」
心音は言われるがままに、案内されるがままにお風呂に入った。
心音は髪を洗い、身体を洗った後で湯船に浸かると、今日一日のことを思い出していた。
(本当に……私って……人を眠らせることが出来るんだ……)
心音は妙な快感に酔いしれていた。
そして、気付いたら無意識に笑っていた。
「じゃー私ソファーで寝るからベッド使っていいからね」
朱里はお風呂から出て来た心音に対して、そう伝えた。
心音は朱里に軽く頭を下げた後で、布団の中に入った。
心音は、ずっと気になっていたことを朱里に尋ねた。
「……私のことって……知って……ますか……」
その問いに対して、朱里はソファーに横たわった状態で答えた。
「もちろん。アンタ浅井心音だろ?」
「アタシあんたのファンだからさ……」
「だからもう歌えないってニュースで聞いてめっちゃショックだったし……」
「けどまー理由はわかんないけどアンタはまた歌える様になっていた……」
「そして何故か人を眠らせることも出来る様になっていた……」
「私もまだ信じれないけど……実際目の前で見ちゃったしさ……」
「まー何があってそうなったかなんてわかんないだろうし聞かないけどさ、また歌える様になったんならそれでいいんじゃない?」
「大事なのはその状態でどこでどうやって歌うか……」
「そしてその人を眠らせる力? を今後どう活かしていくか……」
「多分そっちの方が大事だとアタシは思うからさ」
その朱里の言葉を聞いて、心音は胸の支えが取れた感じがした。
(大事なのはこの力をどう使うか……か……そんなこと考えもしなかったな……)
心音はその朱里の言葉で、今まで絶望しかしていなかった自分の考えがいかに愚かだったかに気付いた。
「ありがとう朱里さん。私、今の自分ともう一度向き合ってみることにするね」
心音は、今の状態になってから一度も人前で見せなかったとびきりの笑顔で朱里にそう伝えた。
「やっぱり浅井心音は笑顔の方がいいよ」
「さてもう遅いから寝るとするか。じゃーね心音。おやすみ」
そう言うと朱里は眠りについた。
その様子を見て心音も眠りについた……。




