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悲しきセイレーン  作者: 武虎竜
〜プロローグ 歌姫から怪物へ 〜
10/38

〜立花刑事〜

 それから数時間後。


「ようやく起きたか……さて何が起きたか聞かせてもらおうか」


 路地裏に一人の刑事がいた。

 男の名前は立花真司。

 刑事であり巡査長だ。

 立花は路地裏でさっきまで寝ていた複数の男達から事情を聞いていた。


「んあー……別に……何でもねえよ……」


 その男達は気怠そうに立花に答えた。


「ちなみにお前達が何をしてたかはさっきそこで寝ていた女性二人からは聞いてるからな」

「だが俺が聞きたいのはその先だ」

「その後何が起こった? 何でお前達はこんなところで寝てたんだ?」


立花は口調を少し強めにして、男達を尋問した。


「あーー? んだコラ! 何でもねえって言ってんだろ!」


 男達は反抗的な態度で立花に向かって来た。

 だが、立花は向かってきたその中の一人の男の腕を掴むと思いっきり床に投げつけた。

 そしてその男のみぞおちに、拳で一撃を加えた。


「どうせお前達はこのまま婦女暴行未遂で逮捕される身ってこと忘れんなよ!」


 立花は男達を睨みつけた。

 男達はその様子を見て、観念した。

 そして、何が起こったかを話し出した。


「女がよ……急に現れたんだよ……そして歌を歌ったんだ……」

「……そこから記憶がねえんだよ……」


 そんな嘘の様な話を男達は立花にしてきた。

 立花は最初口裏を合わしているつもりかとも思ったが、とてもその男達が嘘を言っている様には見えなかった。

 その男達も本当に困惑していたからだ。


「まぁいい……続きは署で聞くから」

 そう言って立花はその現場にいた警察官に指示を出した。

 その男達はパトカーで連行された。


(一体何なんだ……!?)


 立花はその男達の言っていたことが信じれないでいた。

 そんな立花に連絡が入る。


「立花巡査長。銀行の方もようやくみんな起き出しました」


 その連絡を聞いて、立花は車に乗り銀行へと向かった。



 銀行に着いた立花は、まず拘束されている男に話しを聞いた。


「若い女がよ……急に現れて……そんで最初はハミングを聞かせて来たんだ」

「そしたら力が急に抜けてよ……そんでその後で……」

「そうだ……アイツ……アイツはどうなった?」

「警備員の奴だよ」

「アイツ俺の相棒なんだよ」

「アイツがその女を羽交締めにして……でもその後で急にその女が歌いだした……」

「そこから俺記憶が無いんだ……」


 立花は、その男の告白の後で静かに語り始めた。


「お前の相棒は……まだ寝てる……」

「他の行員や客ももう目覚めたのに、コイツだけは何でか起きやしねえ」


 そう言ってその警備員を立花は思いっきり殴りつけた。

 だが、警備員は一向に起きなかった。

 その姿はまるで本当に死んでいるかの様だった。


 その様子を見ていた拘束された男は、急に大声を出した。


「おい! ふざけてんじゃねえぞ!」

「起きろよ! 起きろ!」

「寝たふりにしてはお前度が過ぎているぞ! 起きろよ!」


 その男は怒りの様な絶望の様な声で、何度も何度もその警備員に呼び掛けた。

 だがそれでも警備員の男は、起きる気配が全く無かった。


「……こんなこと……前代未聞なんだが……」

「とりあえずこいつは警察病院に連れて行って色々調べてみる必要があるな……おい!」


 立花は、近くにいた警察官に指示を出した。

 警察官は警備員とその拘束されている男をパトカーに乗せて連行していった。

 立花はその様子を見送った後で今度は記者達に話を聞いた。


「若い女の子が……急に銀行から出て来て……」

「そうそう私達が話を聞こうとしてその少女を取り囲んだの……」

「そしたらその少女急に歌い出して……そこからみんな記憶がないのよ……」


 女性の記者は立花の尋問に対してにそう答えた。

 立花はその記者の話に困惑しか出来なかった。


(チッ! 一体何だと言うんだ……)

(路地裏の男達も銀行強盗も記者もみんな同じことを言いやがる……)

(バカな! 歌うと人を眠らせる少女だと……!?)

(そんなもんこの世の中にいてたまるかよ!)


 立花は頭を掻きむしり、心の中でそう思いながら車に乗り込んだ。



 署に戻った立花は、今回の事件のことを上司である部長に報告した。


「うーーん……つまり……その少女が歌うと……みんな眠ると……そういうことか?」

 その上司の問いに立花は頷いた。


「でも……誰も傷つけられてはいないんだろ?」

「そうなると……これ捜査本部も立てれんよ……だって何の罪にもならないもん……」

 部長は立花にそう答えた。


「部長……確かにそうかもしれませんが……」

 立花はそれ以上は何も言わずに、その場を後にした。


(俺一人でも……この少女は見つける……)

(……この少女は危険だ……早く捕まえないと取り返しが付かないことになる……そんな気がしてならない……)


 そんなことを思いながら、立花は警察病院に向かって車を走らせた。



 警察病院に着いた立花は、医者からとんでもない事実を聞かされた。

「立花さん……信じれないかもしれませんが……彼は本当にただ寝ているだけです……」


 医者はその言葉と共に、脳波の映像を立花に見せた。

「彼はとても深いノンレム睡眠の状態にいます……そして……」


 医者は部下に指示を出して、その寝ている人物に軽い電気ショックを与えさせた。

 だが、脳波に乱れは起こらなかった。


「脳が生きている以上……こういうことは医者の口からはあまり言いたくありませんが……」

「状況としては昏睡状態と同じ状態です……」

「ただ生きているだけ……それだけの……」

「このまま一生起きないかもしれないし、ある日突然起きるかもしれない……」

「それは私でもわかりません……」

「それぐらいこの患者は、過去に前例の無い重い病気にかかっている状態と同じであると言えるでしょう……」


 立花は医者に軽くお礼を言った後で、警察病院を後にした。


(やはり……危険だ……間違いなく……危険だ……)

(あの少女は絶対に野放しにしてはいけない……)

(早く捕まえなければ取り返しが付かないことになる……)

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