表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/46

第四十五話

 横山さんとあたしは、しばらくその場でただ立っていた。できることもなく。真っ白で、あるのは奇妙な炎だけだ。

 やがてそんな状況に気まずくなったのか、横山さんが口を開いた。


「なんというか、暇ねえ。散歩しようにも、こう殺風景じゃ面白味も何もないし」


 こんな状況で、散歩なんてことを思いつくこの人はなかなか大物かもしれない。散歩か。確かに、動いてみるのは大事だ。ここでぼーっと突っ立っていても何も変わらないのは目に見えている。


「あの、散歩……してみましょうか。面白くはなさそうですけど、とりあえず」


「そうね。もしかしたら何か解決するかも」


 あたしたちは歩き出した。無音の空間に、横山さんのハイヒールの音がこだまする。

 そういえば、なぜ赤いハイヒールなんだろう。

 横山さんの服装は、白いワンピースだ。飾り気は一切なく、白装束のようにも見える。直感的にそれは死人の服だと思った。この空間にいるから、そんな格好になる。そんな気がする。もちろん、自分はまだ生きているからこの世の服のままだ。

 じゃあなんで、ハイヒールだけこの世のものなんだろう。

 前を歩く横山さんのハイヒールをまじまじと見つめていると、まるでハイヒールが視線にたじろいだようにかくりと傾き、横山さんがよろめいた。


「おっとっと……っと」


「大丈夫ですか?」


「うん。これ、歩きにくいわねー、こんなんで歩いてたから、はねられたのかしら」


 やっぱり、ハイヒールはこの世から履いてきたものなの? どうしてハイヒールだけ?

 ……ああ、忘れてた。横山さんの魂はまだ完全に送れていないんだった。そうか、だから中途半端なことになってるのか。

 ふと、ひらめくことがあった。


「あの、そのハイヒール、ちょっと貸してもらえませんか?」


「? いいけど。もう脱ごうと思ってたし」


 横山さんの了承を得て、ハイヒールを受け取る。


「でも、どうするの?」


 ああ、人の持ち物をこんなふうに扱おうとするなんて、初めてだ。しかもさっき出会ったばかりの人の物を。


「ほんとうに、ごめんなさい。でも、こうすれば多分出られる気がして……」


 そう言って、ヒールの部分をつかみ、やって来た方向に向かって思いっきり放り投げた。重いハイヒールは回転しながら、遠くまで飛んでいく。


「えっ……」


 呆気にとられる横山さんの声を聞いて、申し訳なくなると同時に、何をやってるんだろうと思った。

 ただの思いつきだ。解決策を見つけたような気がして、何も考えずにやってみた。ハイヒールを現世に返せば、横山さんが天国に行けるように思ったのだ。


「そんなわけ、ないか……」


 というか、とんでもないことをしでかした。人の靴を勝手に放り投げたのだ。怒らないはずがない。


「え」


 なんだ、なんだこれ。

 炎が一斉に揺れ出した。

 そして、ぐにゃりと歪んで、複雑な模様を作る空間。


「あっ……!」


 歪んだ空間に飲まれ、一瞬、意識がとんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ