第二十六話
「ここだ」
どうやって手に入れたのかわからないけど、あたしは死神さんからもらった、例の女の子の入院している病院の住所をもとにやってきた。
きれいな病院だ。何年か前にできたのだろう。
しかし、きたのはいいけどどうしよう。
広い病院だし、さまよっているのだったらどこにいるのかもわからない。
その子は体が透けてるから見たらすぐにわかるとは言ってたんだけど。
とりあえず入ってみた。受付と待合室は広く、たくさんの人がいる。よかった、これなら目立たないや。
それにしてもこのたすき、気になるなあ…。他の人に見えないといっても、自分にははっきりそこにあると分かっているからどうしてもたすきを隠すような仕草をしてしまう。
我慢だ。これも助手の仕事なんだから。
リストにはたしか、小田原茉莉と書いてあった。
小田原さんの病室をさがそうか。
「はぁー、広っ!」
片っ端から病室をあたってみたが、一向に見つけられない。
病室って迷路みたいだ。
壁も白いから方向がわからなくなってくる。
これ、無茶じゃない?
むこうはふわふわふわふわ飛んでるのもしれないし…
いや、諦めるな!
あと少しでまわり終える。
「小田原、小田原…」
「あった!!」
ようやく見つけた「小田原」の文字。
かなりの爽快感だな。
これ入っちゃっていいのかな?
ここまできたんだし、思い切って入ろうか。
何より急がないといけないんだった。
ドアに手をかける。音を立てないよう静かに開けて中を覗いた。
「………」
ピッ、ピッ、ピッと、規則的に続く機械の音。機械に繋がれた小さな女の子。
割りと広い病室だ。
だからこそ、ベッドの脇に腰掛けているやつれた女性の細い肩がよけいに強調されていた。
多分、母親だろう。ぱっと見ただけでも気の毒なほどの目の下のクマがわかる。
あたしはまた音を立てないようにドアを閉めて、白い廊下に出た。
あんな、小さいのに…
病院を出た。
朝から曇っていたが、降り出したようだ。小雨だから傘がなくてもどうってことはない。
音のしない細い雨が地面に吸い込まれていく。土曜日なので小学校のグラウンドでは野球の練習をしている。
小学校か…。
ほんの思いつきだった。
魂だけの姿で、ふわふわ出歩けるんなら自分のよく知っている場所にいるかもしれない。ただそれだけだったのに。実際期待もしていなかった。
だけど…
「茉莉ね、誰にも見えないの!幽霊になったのかなあ?おねえちゃんはなんで見えるの??れいかんがあるとかいつやつ?」
「あーー、…姉ちゃんは、茉莉ちゃんを探しにきたんだよ」
信じられない。こんなあっさり見つかるなんて!
ふらりと小学校の校門をくぐって、施錠していない昇降口から入り、うろつた末に二年生の教室の前で見つけた。
半分透けていて、リスト通りの二つ結びの女の子。
茉莉ちゃんはあたしが見つけたとき、教室の前の廊下に座って、廊下の壁に付けられたフックにぶら下がっているみんなの縄跳びをガチャガチャやっていた。
その顔があまりに寂しそうだった。
いつからさまよってるんだろう。みんなに気づいてもらえなくてどれだけ寂しかっただろう。
縄跳びをいじっていたのも、元気な頃に校庭で遊んだのを思い出していたのだろうか。
今は落ち着いてきて楽しそうに笑っているけれど、あたしが声をかけたとき茉莉ちゃんは大泣きして抱きついてきた。
やっと自分に気づいてくれて、安心という言葉では言い表せないほどだったのだろう。
死神さんは、見つけたら呼んでくれと言っていた。
手遅れになる前にやってしまわないと。




