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第二十七話

「ずいぶん早いね」

「たまたま見つけたの」

死神さんが来た。

小学校の廊下に立ってる死神さんの違和感が半端ない。

「おねえちゃん誰と話してるの?」

茉莉ちゃんにも見えないのか。

「真千子ちゃん、たすきをその子にかけて」

なぜかはわからないが、言われた通りにした。

すると、茉莉ちゃんがふっと消えた。

「なっ…消えた!?」

「彼女の肉体に1番近い場所に飛んでもらっただけだよ」

あのたすき、そんな効果まであるのか。

じゃあ茉莉ちゃんは病室にいったことになる。

病室にはお母さんがいるのに、茉莉ちゃんはまた気づいてもらえない現実に直面しなければならないのか。

「真千子ちゃん」

死神さんに名前を呼ばれてはっと顔を向ける。

長い指がリストをめくる。開いてこちらに見せたのは茉莉ちゃんのページだ。

「濃くなってる!なんで…?」

昨日は薄い水墨画のような文字だったのに、今は他の人たちと変わらないくらいの濃さになっている。

「彼女はもうほぼ間違いなく死ぬだろうね」

「…そんな、軽そうに言うなんて……」

わかってる。死神さんは何も悪くない。人が死んでしまう運命は変えられない。

何をどうしたってあの子は死んでしまう。それも、恐ろしく近い未来に…。

雨が激しくなってきた。

あたりを包むざあざあという音に、吹き飛ばされてしまいそうだった。



あれ?

茉莉どうしてここにいるの…?


茉莉は自分の病室に戻ってきていた。

そばのベッドで自分が寝ている。青白くて細い顔。

茉莉はもっと元気だったのに。

もっとみんなと外で遊びたかった。

「もうむりなのかな…」

椅子ではお母さんが座ったまま寝ている。

お母さん痩せちゃったな。

あのおねえちゃんはだれだったんだろう。

また来てくれるかな。




何も手に付かない。

いつもと同じ仕事のはずだ。

命の重さは誰でも一緒…

そう言い聞かせるが、気持ちは重く沈んだままだった。

12時になったら、やらなくちゃいけないんだ。

何も気にすることはない。はずなのに、もう何日もそこから離れていないような、やつれた母親の姿を思い出してしまう。

今までずっとやってきた。

もう百人以上は送ってきた。

一人一人、誰かが悲しんでいたはずだ。見てなかっただけで…。

見えてしまっただけで、こんなにやりにくくなるんだ。

あと5分だよ…。

あたしはぎゅっと目を閉じて、頬をパンパンと叩いた。




「ここがそうだよ」

決心したのに足取りが重い。

こんなんじゃ、失格だよ…。

夜の病院は静かだ。

でもこの扉の向こうで、命が戦っている。

不意に死神さんがあたしの手を握った。

「え」

一瞬のことだった。死神さんがドアに、溶けた!?と思ったら、あたしは引っ張られて。肌色のドアが顔面にぶつかった感触もなく、するりとドアを通り抜けて病室に入っていた。

壁抜け!?

死神ってこんなことまでできるの!?

今のはさすがにびっくりした。一言いって欲しい。死神さんにとっては普通でも、あたしにはありえなさすぎなんだから。

「手を尽くしましたが、もう…」

「そんな!!」

「いやだよ…行かないでよ茉莉ぃ…」

心臓が跳ね上がる。

うそでしょ?もう?

死神さんは無表情に、部屋の隅にいた茉莉の魂に近づいていく。

一部始終を見守ることしかできない。

抵抗はしなかった。悲しそうな表情でうなずくと、自分の体に近づいていき、胸に手を当てた。

すうっと、体に吸い込まれていった。

間もなく、ピーーーッという電子音。うなだれる家族。モニターに映った真っ直ぐの心電図。





体がだるい。

適当にゴミを寄せ集めてほうきの柄にもたれかかる。

「真千子落ちてんじゃん」

「んー、眠いだけ」

茉莉ちゃんは亡くなってしまった。

なんであの子はさまよい歩いてたんだろう。

「聞いとけば良かった…」

つぶやいても遅いか。

茉莉ちゃんの件で、心乱しっぱなしだったあたしと対照的に死神さんは表情ひとつ変わらなかった。

死神には小さい魂かもしれない。何年生きてるのか知らないけど、きっと人間の一生なんて取るに足らない短い間のことなんだろう。

一切動揺せずに、機械的に対応していた死神さんは少し怖かった。いつもは見とれてしまう目が、その奥に残酷な面を持っているのが見えた気がした。

でも、あたしはーーーーー。




死神さんが来るのを、まっすぐ上を向いて待っていた。

あたしはもっとがんばる。もう私情をはさんであたふたしたりしない。

迷ってる魂は全部行くべきところに導く。

「遅いよ!死神さん」

「随分気合い入ってるねぇ…」

どんなにあがいたって運命は変わらない。だから精一杯やろうって決めた。

死神さんと同じところにいたいから。








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