第二十話
「真千子ー、6時半よ?学校遅れるんじゃない」
起きてるよ。もぞもぞしてるだけ。
昨日帰ってから風呂だけ入って寝た。
でも布団に入ってから寝付くまでの間、ぼーっと今日のことを思い出していると重大なことに気づいてしまった。
あたしこんなこと言ったような…
というか確かに言った。
『あたしうらやましくてたまんないよ!こんなに思われてるなんて!』
「ぎゃあああああああああー!!!!」
うっそーー!!!
あたし死神さんの前で何てこと言ってんのー!?!?
そのことを永遠リピートしていた。
いつのまにか寝てたけど。
今はなんか、恥ずかしさでなかなか布団から出られないってだけで。
でも学校は行かないとな…
よいしょ、出るか。
契約印が目に入る。
これも死神と死神助手にしか見えないもの。これを見るたび、あたしは長い夢を見てるんじゃないかと助手になってから二ヶ月たった今でも思う。
なんだか一日中フワフワしていた。
掃除の時間、階段を掃きながらあの女死神のことを考えていた。
綺麗な人だったな…人じゃないんだけど。
真っ白い肌に赤い巻き毛が際立ってて、大きな瞳に長くて濃いまつ毛。厚ぼったい真っ赤な唇。
今まで見た中で1番だ。
まあ、中身は別として…。
死神さんと立ってたら様になるよなぁ~。
はあ。なんか落ち込む。
「ほい、ちりとり」
「あ、サンキュ」
拓馬とは掃除場所が一緒だ。出席番号順に分けられてるから、名塚と中山だと同じところになる。
「うわっ」
「ちょ、いきなり大声出さないでよ!びっくりするー」
「何なんだよそのアザ!?」
げ……
あたしも今気づいた。
拓馬に指差されたところを見ると、大きなすり傷とこれまた特大の青アザができていた。女死神に吹っ飛ばされたりしたときのやつだ。
「う、えーとこれは、、。こんなのいつできたんだろ」
必死に笑顔を作ってごまかす。
けど拓馬は思った以上に真剣だった。
あたしも笑いを消す。
「ごまかすなよ、大体分かるんだよ」
え…なにこれ。
逃げたい。
拓馬はあたしを逃がさないようにしてるみたいに壁に手をついた。
「な…何なの?やめてよ」
「あいつに何かされてんの?」
カッと顔が熱くなった。
何それ…何?
そんな言い方なくない?
「何で死神さんばっか疑うの!?」
「あいつしかいないだろ!最近のお前見てると…」
拓馬は言葉を切って、手をおろした。
「なんか、現実から離れてぼやぼやしてるように感じる」
ぎくりとした。
正直、他の誰かから言われたくなかった。
自分でちょっと気づいてて危ないと思ってたから。
現実より死神の仕事が自分の中で大きくなってしまったらきっとあたしは、元に戻れない…。
認めたくなくて拓馬を両手で押した。
「そんなことない…」
声が弱々しくて情けなくなった。
そのまま自由になったあたしは走って教室に戻った。
拓馬は何も言わなかったし、追いかけてもこなかった。




