第二十一話
教室に戻った。
帰りの準備をしている教室はざわざわと騒がしい。
楽しそうにおしゃべりをしている者もたくさんいる。
重い気持ちと混乱をかかえたあたしが入っていっても誰も気づかないから、助かる。
担任が入ってきて、明日の連絡など言い始めた。もちろん聞いてない。
前の方の席に拓馬がいるから、そっちを見ることができずにカバンに顔をうずめていた。
拓馬が怖かった。
抑え込まれるようなかたちで問い詰められたのを思い出したくない。
あんな拓馬なんて見たくなかったのに…。
チビで、あたしより足遅かったのに、背高くて…腕も細いのに筋肉ついてて。別人みたいに見えた。
何考えてんだろあたし!
なんか気持ち悪い…
しばらく拓馬とは話せないし、目も合わせないだろな。
昨日今日と、気が休まらないことが続いた。
そういえばあの女死神は諦めたんだろうか。明日一日狙ってこなければ心配ないんだけどな。
明日になれば、あの女死神の助手は亡くなってしまう。
他の人を殺してまで助けたいなんて…
よっぽど仲が良かったんだろな…。
あたしにとってはとんでもないけど。
死神にとって助手ってどんな存在?
しばらく考えてみたが、個人によるのだろう。
床にゴロゴロしながら、延々と何かを考えていた。気付けば晩御飯で、食べ終わったらだらだらと宿題をやって風呂に入って、また今日も12時を待つ。
拓馬が変なこと言うから、死神さんが現れるのも身構えてしまった。
「リスト通りだと、昨日襲ってきた死神の助手は、一時間後に亡くなる」
いきなり死神さんはこんなことを言った。
「もう大丈夫だとはおもうけど、今日は念のため一時までは一緒にいさせてもらうよ」
「そ、そうなんだ。お願いします…」
やっぱり死神さん優しいよ。
拓馬はなんもわかってないよね。
だいたいあいつ何でいっつも口出してくんの?
お前はあたしの何なんだよって感じ。
死神さんはあたしの心をざわざわ乱したりしない。
あたしが意識しすぎて勝手に動揺してるけど。
拓馬みたいにあたしの嫌がることを言ったりしない。
「拓馬、明日何時集合だっけ?」
「八時に東高だよ。内田突き指もう治った?」
「おう、完治完治!キャプテンは怪我すんなよ!じゃあ明日なー」
同じ部活の内田と別れて、拓馬はいつもの道を帰って行く。
曲がり角にさしかかった。入り組んだ暗い住宅街で、昼間でもあまり人通りがないから特に注意せずに曲がってしまった。
が、人がいた。
しまったと思ったときには遅く、思いっきりぶつかった。
衝撃で自分も自転車ごと派手にこけてしまった。
あわてて立ち上がって、前にいた人にーー。
「うわあぁぁっ!?」
「あら、酷いじゃない。そんなに叫ぶなんて」
死神…。
全身を覆う真っ黒いローブに、異様な冷気。間違いない。
でも、あいつじゃない。
真っ赤な巻き毛で、大きな目に長いまつ毛の
女の死神。
死神ってほかにもいたのか。
一体何人いんだよ…
「怖がらないで、危害を加えたりしないわ。少し話があるだけなの」
「はあ」
「こないだ、アタシの助手が死んじゃって…
あ、アタシは死神なんだけどねーーーーあら、あんまり驚かないのね。聞いてくれるだけでも珍しいんだけど」
「知ってますよ。俺のばあちゃんが死神の助手やってたから」
「えっ!へえー、こんなこともあるのね…。じゃあやってくれるかしら?」
話し進むの早くね!?
まさかこんなことになるとは。
死神の助手…。
やること自体はかなり簡単なのは知っている。真千子が席替えで三回連続窓際の1番後ろの席で、しかも仲いい奴と隣なのも。
「迷ってる?じゃあ明日まで待つわ。面白いと思うけどなー」
「あっ、ちょっ…消えたし…」
何だったんだ。
自転車を起こした。
でも突っ立っていた。自転車の用途さえ忘れたみたいに。
「まじかよ…」
まさか自分にまでくるとは思わなかった。
俺は、どうする?




