第38話 転生者、須藤太一の超越
幼少期から、人と接するのが苦手だった。
いやゆる人見知りってヤツ。
基本的に人と目を合わせて話すことが出来ない、ずっと自分に自信のない少年期をなんとなく過ごしきた。
それは僕が高校2年生になっても変わらなかった。
「あ、須藤君。いたんだ」
もともと存在感の薄い、空気みたいな存在だった。どこにいても、昔からずっと僕の扱いなんてこんな感じ。
頭や顔が特別良く生まれて来たというワケではなかった。かといって別に悪いわけでもない。いたって普通。
運動神経も可もなく不可もなくだ。
だからとりわけ目立つことも、いじめられることもなかった。
ハッキリ言ってしまえば、ただの無個性なモブ。
それがアークに転生する前の僕、須藤太一だった。
もちろん、友達なんていなかった。
彼女なんてもっての外。
外では1日誰とも会話をしないという日もよくあった。それくらい、僕は他人と接することが苦手だった。
だけど……
じゃあ、そういう孤独な自分が嫌いだったかと言えば、実はそうでもなかった。
何故なら僕には、家に帰れば大好きなグランドテイルズの世界があったから。
「やっぱアークのシナリオは何回やっても無理ゲーすぎる。ヘイトとカロリーを溜めすぎなんだよ、コイツ。能力は明らかに規格外なのにな」
至ってシンプルなオープンワールド型RPGの世界。僕はもうかれこれ5年、ほぼ毎日この中にいる。
このゲームが優秀なのは、原作主人公メルト以外の主要キャラもほぼ全員操作ができ、なおかつそのシナリオやキャラ個性が濃いという部分にある。
しかもここの運営さんはとても良心的。
頻繁にシナリオやマップ・ダンジョン・スキル・魔法・武器などを追加してくれるから飽きる要素がないんだ。
「もう、何回呼んだら降りてくるのよッ! バカ兄!」
「ご飯、食べないんですか? お兄ちゃん」
マイルームの扉が勢いよく開き、二人の女子が僕の部屋へ入ってくる。
どうやら夕食の支度が出来たと、階下から僕をずっと呼んでいたらしい。
「ああ、ごめん。今行く」
須藤留美(妹)と須藤明日奈(姉)。
歳は僕の四つ下。中学1年生の、双子の可愛らしい妹達だ。
◇
学校では、確かにひとりだった。
でも、家族の仲は案外悪くなかったと自分では思っている。
一緒に過ごす時間は意外と多く、今日なんかも家族一同介してみんなで夕食をいただいている。
「バカ兄さ。いい加減、彼女でも作って外でデートのひとつもしてきなさいよ。家でゲームばっかりしてないでさ」
「留美ちゃん。その前に、まずは友達からだよ」
「ああ、それもそうね」
余計なお世話だ、毒舌シスターズ。
僕にはグランドテイルズがあるから彼女も友達もいらないんだよ。
須藤留美はとても明るい性格で、いわゆる陽キャというヤツだ。
愛嬌抜群。若干重めの性格だが、客観的に見てもかなりモテるタイプの女の子だ。
まぁ実際、中1にしてすでに何人もの男子から告白されているらしい。
好きな人がいるからって全部断っていると本人から聞いたが、その好きな人が誰なのかは教えてくれない。
「お兄ちゃん。ご飯終わったら一緒にゲーム、しよ?」
小声で僕を誘う須藤明日奈は僕に似て、かなりおとなしめでおしとやかな性格だ。
ただ僕とまったく違うのは、顔が恐ろしく整っているという点。
我が家の血筋では考えられないくらいの美形女子なんだ。そして当然にしてモテるのは言うまでもない話。
留美ももちろん可愛いのだが、属性が違う。まさに陽と陰って感じかな。その例えが適切だろう。
ちなみに彼女たちは二卵性の双子だったらしい。だから性格や姿形が似ていなくても、別におかしな話ではないそうだ。
知らんけども。
てか今さらだけどさ、妹達はこんなにかわいいのに、僕の遺伝子だけ普通のモブってのは、いったいどういう了見なんでしょうかね?
これ、ちょっと不公平じゃないですか? 神様。
「ああ。いいよ」
明日奈は僕と一緒でゲーム好きだ。彼女はグランドテイルズもよくプレイしている。
まぁこれからやるのは、至ってシンプルなFPSゲーなんだけども。
「えー! じゃあ、私もッ!!」
僕に対して引きこもりゲーマーとか言ってくるクセに、明日奈が僕と一緒にゲームをやると言い出すと、留美は決まって必ず一緒にやりたがる。
何故かはよくわからないが、お前も立派なゲーマーだよ。
まったく。
「こないだみたいにコントローラーぶん投げて破壊するんじゃないぞ」
「ああッ! それ、言わない約束だったでしょ!」
いつも僕に毒を吐く罰だ、留美。
この事実は公にさせてもらう。
「はっはっは! 気にするな、留美。コントローラーの100個や200個、父さんがいつでも好きなだけ買ってやるから安心しなさい!」
父。
それはさすがに甘やかしすぎだと思うぞ。
「もう! バカ兄、いつからそんなに口が軽くなっちゃったのよ? そういうこと言うんだったら私もバカ兄のヒミツ、ひとつバラしちゃうんだからねッ!」
「秘密って?」
「本棚の最下段二列目左奥に……」
「だああああ!! それはダメ、絶対!!」
とまぁ、こんな感じで僕は平和に毎日を過ごしてきたワケだ。たわいもない日常。よくある家族団らんの風景。
学校は孤独でつまらなかったけど、家は温かくて居心地がよかった。
だから僕は、総じていい人生を送ってきたと今でも思っているんだ。
そう、僕は幸せだったんだよ。
◇
パチパチと、焚火のような音がどこからか聞こえる。
なにかが焦げた臭いと、鼻孔の奥にこびり付くオイルのような刺激臭をなんとなく嗅ぎ取る。
痛みや熱さや苦しみはすでにない。
音も、色も、匂いも。
そして意識さえも薄らいでいた。
そんな中、僕は脳内に残った最後の力を振り絞り、いま目の前で起こった凄惨な事実をなんとか整理しながら呼び起こす。
対向車線へはみ出してきた、大型トラックとの正面衝突だった。年末に家族の恒例行事となっていた、1泊2日の温泉旅行。
その道中での出来事だった。
「父さん……母さん……」
目の前にはトラックのひしゃげたフロントバンパーがある。
自車の後部座席まで侵食するほどの勢いはなかった。だが、前列は完全にぺしゃんこ。絶望的だ。父も母も、絶対に無事ではない。
「留美……明日奈……」
僕へ覆いかぶさるように重なる、血に塗れた二人の妹たち。
すでに意識はない。彼女たちの至る所は、トラックや自車から無秩序に突き出された剥き出しの金属たちが貫いていた。
おそらく、もう……
「くそ……なんで、こんな……」
声にならない声。
意識はかろうじてまだ残っているが、僕自身の命も残りわずかだと悟る。
そして脳裏の疑問は、あるひとつの答えに辿り着く。
「僕を……守ろうとして……」
彼女たちが命を賭して最後に僕へ折り重なったのは、たぶんそういうことなんだと思う。いや、きっとそうなんだ。勘違いでも別にいい。
愛されていた。
僕は、父や母に。そして……
最愛の妹たちに。
「……許さない」
だが、そんな家族の思いを汲み取った僕の中に芽生えた感情は、憎しみだった。
「絶対に……絶対に……そう、絶対にだ!」
現実の破滅フラグ。
運命。宿命。定められた死。
ここで僕と僕の家族が無残にこの世を去るシナリオ。
そんなもの、絶対に許されてはならない!!
「生まれ、変わったら、必ず……みんなを守れる……圧倒的な力を、手に入れる。そして……」
これが最後の言葉だ。
魂を込めて、全力で現世に刻む。
「たとえ全世界から……極悪の誹りを……受けようとも……」
僕の覇道はただひとつ。
正義も悪も関係ない。
僕はただ、僕と僕の大事な人をすべての理不尽から守りたい。
そのためならば、運命も、宿命も、そして神すらも!
植え付けられた破滅のシナリオは、この僕が必ず全てッ!!
「絶対に、ぶっ潰す!!」




