表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/37

第3話 公爵令嬢の幼馴染


 気合で早起きをして、早速ダイエットのために目的のダンジョンへと向かっていた僕、アーク・ヴィ・シュテリンガー(10)。


 今日から怠惰たいだは許さない。

 破滅回避のため、肉体改造に励む。


 ああ、あらかじめ言っておくが。

 朝食はしっかり食べてきたよ。


 まぁ、メニューについては昨日の夕食をたらふく平らげた後、料理長を叱咤しったして変えさせたんだけど。


 朝から糖と脂質が多すぎるんだよ。

 あれじゃあ太って当然。


 たんぱく質とミネラル。

 それと鉄分・食物繊維を多く含んだ食材で献立を立て直せと命令しておいた。


 まぁでも、いきなりガラッと全部変えると続かないから量はあまり減らすな、とは付け加えた。


 減量に必要なのは計画と継続だからね。

 最初から無理をしてはいけない。


「……で、なぜついて来た? メア」


 目的地を目指し、林道をゆっくりとした足取りで進んでいた僕。


 その後方。

 同じ歩速でピタリとついてくる人物がいた。


 ゴロツキや暗殺者のたぐいではない。

 尾行しているのが誰なのかは最初からわかっている。


 正直、反応するつもりはなかったのだが、あまりにも「早く気づいてよ!」オーラを沸々《ふつふつ》と発していたので、思わず立ち止まり、声をかけてしまった。


「それは違うわ、アーク。アナタがたまたま私の進行方向を歩いていただけよ」


 フフンと鼻を鳴らし、自慢げに言ってくるこの女性。

 

 彼女の名前はメアリーベル・アシュ・クリストフと言う。愛称はメア。いわゆる公爵令嬢で、僕の幼馴染おさななじみだ。性格はあまり良くない。


 まぶしいくらいに長い金色のキレイな髪が後ろで編み物のように束ねられている。


 整った輪郭りんかく。深紅の瞳は大きく、鼻と口は驚くほど小さい。


 身長は僕とさほど変わらないが、体型には天と地ほどの差がある。


 メアは全体的に華奢きゃしゃ。僕は豊満ほうまん


 しかし彼女。胸部の成長速度だけは異常に早く、同じ10歳なのに、すでに一定のふくらみを獲得することに成功している。


 ああ、ちなみに。


 僕の父、ガウル・ヴィ・シュテリンガーの爵位しゃくい伯爵はくしゃくでメアの父、デモン・アシュ・クリストフは公爵こうしゃくだ。


 だから彼女の家系は、僕の家系より格が上ということになる。


 ま、そんなのはどうでもいい話ではあるんだけどね。


 僕、悪役だし。


「そうか。それじゃ」


 ついて来たのかと思ったから立ち止まったけど、どうやら勘違いだったようだ。


 時間が惜しい。先を急ごう。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、アーク!」


「なんだ。僕は忙しい」


「アナタ、これからエニグマダンジョンへ行くんですって?」


 メアはなぜかいつもアークの行動予定をすべて把握している設定になっている。


 家の誰かが情報漏洩(ろうえい)している裏設定でもあるのだろうか。


 そういうのは良くないと思う。


「ああ。そうだが」


奇遇きぐうね。私の目的地もソコなのよ」


「そうか。それじゃ」


 公爵令嬢が護衛も付けず、そんなところまでなにをしに行くんだ?


 貴族のたしなみにしては危険がすぎる。でも、僕には関係のない話だ。


 先を急ごう。


「ちょ、ちょっと待ちなさいってば! もう、なんでアンタの態度はいっつもそんなに冷たいのよ! カラダはアッツアツで汗まみれのクセに!」


 出た、いつもの毒舌。原作通りの悪癖あくへきだ。公爵じゃなかったら、絶対すぐに命がなくなるキャラだよね。


 ちなみにまだ、汗まみれではない。

 毛穴からほんのり汗がにじむ気配を感じるだけだ。


「付き合ってほしいのか?」


「つ、付き合う!? ち、ちがうわよ、バカ! で、でもまぁアナタがどうしてもってお願いするなら、別に一緒に行ってあげても……」


 ほんのり顔を紅潮こうちょうさせながらワケのわからないことをわめくメア。


 もう暑いのか?

 細身のクセに僕より発汗はっかんが良好なんだな。



 いやでも、ちょっと待てよ。



 よくよく考えてみると……



 この子、確かヒーラーの才能があるキャラだったよな。状態異常の解除とかも得意だった気がする。


 現段階でどの程度の使い手なのかは不明だが、アークにはない能力を持っているのは確かだ。


 エニグマダンジョンの構造や出現する魔物の種類なんかは熟知じゅくちしているつもりだ。でもそれはあくまでゲーム上の話。


 実際になにが起きるかは行ってみないとわからない。


 保険はかけておいて損はないかもね。


「気が変わった。付き合え」


「えっ!?」


「僕について来いと言っている。後衛サポートを頼む」


「は、はいっ! って、なんでアンタが命令してんのよっ! あくまで私が……」


 ん? なんかでっかい虫みたいなのがメアの後ろに迫っているな。


 あれは、キラービーか。

 蜂の魔物。この辺りではよく出現していたと記憶している。


「よっ!」


「……へっ?」


 ほっといたらメアの後頭部にぶっとい針が突き刺さりそうだったので、僕は腰にたずさえたショートソードを抜剣ばっけんし、キラービーを両断してすぐにさやへと戻した。


 彼女の両脇に、分断された大蜂の肉塊にくかいがボトリと落ちる。


 そして僕はメアの目を真剣に見つめた。

 警鐘を鳴らした意味だ。しっかり周囲を警戒して歩けと伝えたかった。


「油断するな。行くぞ」


「(トゥンク)」


「ん? どうした?」


「な、なんでもないわよっ、バカ! は、早く行くわよっ!」


「?」


 エニグマダンジョンはもう幾許いくばくかで到着する。

 

 だが僕はこの時すでに少しだけ、なんとなく疲れていた。





 道中どうちゅう、メアが実は僕の後を追ってきたことを白状した。


 十中八九そんな気はしていたが。

 それならそうと、最初から素直にそう言ってくれればよかったのに。


 強気つよきで上から目線の性格だとわかってはいるが、正直めんどくさい。


 あと、僕がダイエットのためにこれから毎朝エニグマダンジョンへもぐることを話したら、なぜかすごくがっかりしていた。


 理由は聞いていないが、そこは少し気になった。


「早速、お出ましか」


 すでに目的地へは到達している。

 ここはエニグマダンジョンの地上1階。


 入口から入ってすぐの、巨大空洞が広がる場所だ。


「茶色い……フェアラット?」


 隣にいたメアも、いま僕たちの目の前にいる魔物の姿に違和感を覚えたようだ。


 実家近くの荒野や森ではなく、あえてこのエニグマダンジョンを周回地に選んだのには理由がある。


「この時間帯にだけここでまれに出現するレアモンスター。経験値効率がすこぶるいい。減量とレベリングをねるには最適だ。初手で遭遇そうぐうできたのは幸運だったが」


「経験値効率?」


「あ、いや。なんでもない」


 思わずゲーム的視点で話してしまったが、中の人たちにその概念はないようだ。


 ってことはアレか。

 もしかしたら、ステータス画面も開けないのかな。


 まだ試してないから断言はできないが……


「普通の白いフェアラットって、結構かわいくて大人しかったわよね? 茶色のアレ、めちゃくちゃ殺気立ってて怖いんだけど……」


 メアの言う通り、通常のフェアラットは白いネズミをウサギサイズにした魔物。小動物的な顔をしていて愛らしい。ゲームの序盤でよく対峙する敵だ。


 だが茶色のアレは殺意をき出しにしてくる。ステータス的には白いのと大して変わらないのに、やたら攻撃的な態度だ。


 だが、それにも理由がある。


「いや、アイツは襲ってこない」


「えっ? そうなの?」


「ああ。アレは警戒心が異常に強いだけだからな。見ていろ」


 僕が一歩、二歩と敵に近づく。

 すると、敵も同じ間合いを保つように後退する。


 端的たんてきに言うと、ただビビってるだけ。

 弱い犬ほど吠えるってのと似ている。


「なーんだ。それなら楽勝じゃない」


「案外、そうでもない」


「はぁ?」


雑魚ざことは言え、レアモンスターだ。ただ闇雲やみくもに戦っても絶対に倒せない」


 実は茶色のアレ。

 通常のフェアラットにはない特殊なスキルを持っている。


 【侵犯不能パーソナル


 自分の半径5m以内へ敵の進入を絶対に許さない固有スキルだ。


 原作的な説明をすると、特殊なフェロモンを発して距離感をバグらせる仕様とのことらしいが、詳細はよくわからない。


 ただそのせいで、単純にこちらがスピードで上回っていたとしても、物理的にヤツとの距離をこれ以上詰めることはできない。


 魔法も半自動ですぐに察知して離れてしまう。ヤツを倒すには、まずあのやっかいなスキルを先に解除させなくてはいけない。


「メア」


「な、なに?」


「これから僕の指示通りに動け」


「はい?」


「アレを倒すには、こちらも特別な行動をとらなくてはいけない」


 当然だけど、その方法は知っている。

 

 ただ、それをひとりで実行するとなると、自身の体調や疲労感、それに熱中症のリスクをかんがみるとあまり得策じゃない。


 いきなり激しい運動は逆にカラダに悪いし。


 せっかく自らの意思でついてきたんだ。

 メアには少し、手伝ってもらうことにする。





「はぁはぁ……」


「ご苦労。うまく仕留しとめられた」


 茶色のフェアラットを倒すには、こちらがある特定のリズムで動く、かく乱の動作が必要だった。

 

 かなり激しく動くので、疲れたくないからそれをメアにお願いしたのだ。


 もちろん、経験値は僕が欲しかったのでスキルが解除された瞬間に敵は一刀両断してやった。


 やっぱり連れてきて正解だった。

 ありがとう、メア。


「はぁはぁ……」


「どうした? なにをにらんでいる?」


「アナタ……減量するために……わざわざこんなところに……来たんじゃないの?」


「ん? そうだが?」


「なんで私のほうがたくさん動いているのよっ!!」


 なんでって、そりゃあ……

 僕にいきなりそんな激しい運動ができるワケないでしょう。


 ここまで頑張って歩いてきて、魔物を一匹狩ったんだ。

 

 もうヘトヘトに決まっているだろう。


後方支援サポートしろと言ったハズだ」


「こんなの、ただのおとりじゃない……」


「不服か?」


「あったりまえでしょうがぁ!!」


 まったく。

 メアはゲームの設定どおり、ワガママな公爵令嬢だ。


 おっと、そうだそうだ。

 大事なコトを忘れてはいた。


 僕のステータスやレベルがどうなったのか。

 確認する必要がある。


 レアモンスターを倒したんだ。

 アークが初期レベルスタートだとすれば、最低でも5は上がっていてくれていないと困るんだが。


「(念じれば花開く! ステータス、オープン!)」


 お、きたきた。

 どうやらお約束の行動で能力値の確認が可能なようだ。


 目の前に空中映像が現れる。

 コントローラーはないからタッチパネルのように操作すればいいのかな?


 さて、僕の能力。

 いったいどうなってんのかな?


―――――――――――

名 前:アーク

性 別:男

年 齢:10(+0)

身 長:140(±0)

体 重:64(±0)

―――――――――――


「なにやってるの?」


「あ、いや。なんでもない……」


 どうやらメアには見えていないようだ。


 一見ステータス風のこのパラメータが、実はただの基礎的な身体情報しか表示されていないという事実が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ