第24話 生徒会室へ乗り込むぞ
「(えっ? なんでメルトくんが白豚なんかと一緒に歩いてるの?)」
「(残虐土人のカナデ・アオイまでいるじゃない)」
「(もしかしてメルトくん、白ブタに弱みとか握られちゃってるんじゃない?)」
「(え~こわ~い)」
ペンは剣より強いと昔から言うが。
デマの拡散というのは本当におそろしいものだ。あのイカサマ記事の威力が猛威を振るっている事実を、まざまざと突きつけられているようだ。
噂をしている生徒たちは僕に聞こえないよう配慮しているつもりかもしれないが、運の悪いことに、僕は耳がいいからその会話はある程度聞こえてしまうんだ。
僕の陰口や悪口自体は昔からなので、別にそれほど気にならない。
ただ、そんなことよりも……
メルトの好感度がすでにかなり高まってるフシがある会話内容のほうが、僕としてははるかに気がかりであったりはする。
「生徒会室はもうすぐだ。心の準備はできてるかい? 悪役のおふたりさん」
皮肉交じりにニヤッとしながら、僕の隣を歩くメルトが憎たらしく言ってくる。この男は本当に、性格がいいのか悪いのかまるでわからない。
「そんなモノは必要ない」
「はぁ……」
僕の少し後ろをトボトボ歩いていたカナデがため息をついている。
あの決闘の当事者で、デマ記事の被害者でもあるカナデだったから、僕が少し無理を言って一緒についてきてもらうよう説得したんだ。
彼女の名誉も一緒に回復してあげたいからね。いい加減、この学園の生徒たちに彼女の事を土人と呼ばせることをやめさせたい。
「修行は順調か? カナデ」
「もう、やめたいんですけど……」
カナデにはここ数日、毎日僕の実家でオーベルクと基礎鍛錬をさせている。
その疲れが出ているからなのか。
最近の彼女の脱力具合はものすごい。いつも朝から疲れ切っている。
いい傾向だと個人的には思っている。
耐久力や防御力を上げるには、地道な努力が不可欠だからね。
忍耐力も付くから一石二鳥だろう。
あ、そうだ。
せっかくだから彼女の筋肉の具合でも少し確認させてもらおうかな。
「ふむ」
「ひゃあっ! ちょ、ちょっと、アークくん……」
僕はカナデの背中をやさしく撫でて、背筋の発達具合を軽く確認してみた。
まぁ、さすがに数日じゃこの程度か。
「まだまだだな」
「(ドキドキ)そ、そんな数日で急に成長するはずない、でしょ……バカ……」
急に顔が紅潮したのは血行が良好になっている証拠だな。
血流は悪くなさそうだ。
「イチャイチャはそのくらいにしておいてくれないか? 着いたよ」
子供が通う学園にしては、やけに仰々《ぎょうぎょう》しい扉の前で立ち止まる僕たち。その隣には、巨大な一枚板でできた立て看板が備え付けられてる。
中央にデカデカと達筆で書かれた文字は「生徒会室」。
謎の権威を象徴しているかのような存在感。
壁にはなぜか時代錯誤の現代機器、インターフォンまで埋め込まれている。
さすがはグランドテイルズのゲーム世界。
原作どおり、中世的背景などまるで無視した世界観を構築している。
「僕が鳴らそう」
特に躊躇することもなく、僕はインターフォンのチャイムを力強く押し込んだ。
『はい、こちら王立魔法学園グリンガム生徒会です。所属科と学年、お名前、ご用件をお願いします』
「総合科1年アーク・ヴィ・シュテリンガーだ。副会長、アリスト・ルエ・デリシャリスの将来に関わる重大な話があると伝えろ」
『……少々、お待ちください』
丁寧なようで機械的な声の女性とやり取りをしたのち、僕たちは1分ほど待たされた。そして次のような回答を得た。
『お待たせいたしました。副会長のアリストに確認しましたところ、《《今は》》アークさんとはお会いになられないそうです』
「なに?」
居留守のシナリオは想定していたのだが、まさか居るのに会わないという回答を寄こしてくるとは思いもしなかった。
それに《《今は》》会わないっていうのは、いったいどういう了見なのだろう。
『アリストから伝言があります。このまま流しますので、ご清聴ください』
ピッという電子音が一瞬鳴ったかと思うと、憎しみの籠った低い男性の声がインターフォンから呪いのように流れ始めた。
『……記事を撤回してほしくば二週間後の16時、仲間二人を連れて決闘場まで来るがいい。このグリンガム伝統のチーム制クランバトル【シャンバラヤ】で貴様らが勝てば今回の記事の撤回、ついでに俺の土下座と謝罪もセットでくれてやる』
僕らが生徒会室へ抗議にやってくることは、彼はすでに把握していたのだろう。
チーム制クランバトル【シャンバラヤ】――
僕の原作知識がまだ通用するのだとすれば、このバトルのルールは3:3で争う、勝ち抜き方式のチーム戦だったと記憶している。
3人それぞれが戦い、勝者の多いチームが勝ちと言ったルールではない。勝った者はそのまま次の戦いもバトルを続け、最終的に3人全員が敗北した時点で勝敗が決するという決闘方式だ。
あえて1:1でやろうとしない辺りに狡猾さを感じずにはいられないが、ある意味冷静な判断をしているとも言える。しかも決闘日を二週間後に設定するというのもいい塩梅。綿密に罠を仕掛けるにはもってこいの時間を確保できる。
『察していると思うが、貴様が負けた時は貴様もその仲間たちも全員もれなく退学処分だ。異論は認めん。以上だ』
録音の再生だから当然だが、一方的にアリストはそう言ってこの音声は途切れた。
余計な会話はしないという意思表示が強く感じ取れる。
「こんな不公平な挑戦を受ける必要はないと思う。強制的にでも中に入って、建設的な話し合いの場を……」
「いや、僕は受ける」
「えっ?」
意外にもメルトがこの提案を破棄しにかかったが、僕は最初からそっちの方がほうが単純でわかりやすいと思っていた。なんならこちらからそれを提案しようとすら考えていた。まぁ欲を言えば、1:1で戦う方が本当はよかったけど。
アリストは僕を恨んでいる。
話し合いなど無意味。
実力で黙らせるのほうが手っ取り早く、合理的な選択肢だ。
デマの取り下げと退学じゃ釣り合わないことはもちろんわかっている。ヤツが本当に記事を取り下げるかもわからない。
だが、二週間という時間は僕にとってもちょうどいい作戦タイムに充てられる。
ただ勝つだけのつもりは毛頭ない。
僕は逆にこれを好機ととらえ、この状況を利用して学園の覇権取りへ一歩近づく戦略を練るつもりでいる。
メルト。キミの真意も暴かせてもらうから覚悟しておけよ。
『会話は聞いていました。オーケーと言う事で、よろしいですね?』
「ああ」
『それではそのようにお伝えしておきます。バトルの参加者は学園の生徒のみが対象です。事前告知はいりません。申請はこちらで手配しますので、先ほど指定された日時と場所に3人で来てください。それでは』
矢継ぎ早にそう告げられ、プツっと通信が途切れた。
「私は……関係ない……よね?」
ふいにカナデが無関係者を装う。
そうは問屋が卸さない。
「カナデ」
「な、なに?」
「期待している」
決闘参加者3人のうち、僕とカナデはすでに決定事項だ。
あとの1人は、誰にしようかな。




