第13話 真のステータス?
「あっ! も、もう少し……やさしくめくってもらえませんか?」
「こう?」
「あ、そうですそうです。上手です。そのままゆっくり手を……」
ミルちゃんは、実は女性だった。
本に性別があることを、僕は人生で初めて知った。
ついでに年齢を聞いたら怒られた。
そこは禁書だったらしい。
「ここ?」
「そ、そこは69ページ目です……いや……恥ずかしい……」
「……」
自分の中身のことなんだから読んで教えてくれればいいだけなのに、なんでわざわざ僕に頁をめくらせるんだろう。
よく考えると、意味が分からない。
あと無駄に艶っぽい声を出すのもやめていただけると助かる。
僕は、本に欲情したりしないはずだと自分では思っている。
「見れましたか?」
「ああ」
「そこに書かれている手順通りにやってみてください」
本に説明されながら読む経験も初めてだ。
違和感が物凄い。
言われた通りに開かれた頁に目を通し、そこに書いてある説明どおりにステータス画面をアレコレ操作してみた。
すると……
―――――――――――
名 前:アーク
性 別:男
年 齢:11(+1)
身 長:149(+9)
体 重:58(-6)
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普段からよく見ていた身体的な基礎情報がコレ。そして、鍵が外れたことによって新たに見ることができるようになった、真のゲーム的パラメータがコレだ!
―――――――――――
名 前:アーク
職 業:???
レベル:??
攻撃力:???
防御力:???
魔 力:???
体 力:100(+99)
敏 捷:205(+200)
―――――――――――
「……」
「どうですか?」
「ミルちゃん」
「はい、なんでしょうか?」
彼女のおかげで、さっきまで開けなかったメニューの鍵は確かに開いた。だが、僕の視界に映ったパラメータはほとんど“???”。
確認できるのは体力と敏捷の値だけだった。
「“???”になってる部分ってどうやって見るの?」
「あれれ? いや、その表記については私もわかりません。ステータス関連はさっきの裏操作しか知りませんから」
期待しすぎた自分が愚かだった。
レベルとか魔力とか、重要な部分が確認できないんじゃ話にならないじゃないか。
でもまぁ、僕は落ち込まないけどね。
ここは前向きに捉えることにしよう。
体力値100の横に記載の(+99)。
これって、僕がこのエニグマダンジョンで周回を始めてから今までに、上がった体力の上昇値ってことだよね?
体重の減少だけでなく、体力という指標も一緒に良くなっていたいう事実を知れただけでも、これはこれで結構嬉しい。
ちなみに現状習得済みの魔法やスキルを確認できる画面も一応見れるようになってはいるが、数が膨大すぎるのでここでは割愛させてもらう。
「ま、いっか」
「ところで、アークさんはこれからどう行動されるおつもりですか?」
唐突にざっくりしたことを問うてきたミルちゃん。どうするもこうするも、僕の行動計画は最初からハッキリ決まっている。
「エニグマダンジョンでの周回をあと200日間は、続けるつもりだよ」
「そのあとは?」
「原作主人公と同じ学園に入学する。そして可能なら、そこで断罪フラグに関わるあらゆる要素を先手で排除したいと考えている」
肉体の改善は今のところうまく行っている。
このまま周回を続ければ、少なくとも病気エンドは回避できるだろう。
だがこのアークというキャラにおける最強の破滅フラグは主人公関連。ここを乗り越えてこそ、アークは自分の人生を本当の意味でスタートできるんだ。
ちゃんとしたゲーム上のステータスを知りたかったのもそのため。敵のことはある程度わかっている。あとは自分を知れれば百戦危うからず、だからね。
「なるほどです。よくわかりました」
「……どう思う?」
「なにがです?」
「僕の行動は、これで正しいと思う?」
わざわざそんな事を聞いてきたのは、なにかアドバイスしたいことがあったからなんじゃないのか?
「そうですね。当面は私もそう動くしかないと思いますけど……」
煮え切らない答えだな。
もう少し掘り下げる必要がありそうだ。
「含みがあるね。なにか気になることでも?」
「はい。さっきも話しましたが、すでにこの『グランドテイルズ』の世界は原作どおりに事が進んでいません」
「ああ」
それはわかっている。
だからそのための準備。レベルアップなんかも可能な限りしてきたつもりだが。
「これはただの仮説ですので、必ずしもそうであるとは限りませんが……」
「もったいぶらないでいいよ。早く言って」
そういう言い方をされると余計気になる。
「私に蓄積されたメタデータから推察するに、今の原作主人公さんはすでにかなりの実力を身につけている可能性が高いです。おそらく今のアークさんでは勝てません」
なるほどね。
原作を無視して強くなっていたのは、僕だけじゃないってことね。
全然ありえる話だな。
だとすると、今の僕の詳細な能力値が仮にすべて見れることになったとしても、それほど意味がないってことになる。
むしろわからないほうがよかったまである。
原作知識に頼り、数値で主人公を上回っているとわかった時点で、僕は周回や鍛錬の手を無意識に抜いちゃうかもしれないからね。
「うん、わかった。もういいよ」
「えっ?」
「逆にそれを教えてくれて助かったよ。ありがとう、ミルちゃん!」
「(トゥンク)」
僕は満面の笑みでミルちゃんにお礼を言った。
ここまで事がそれなりにうまく運んでいるからといって、自惚れてはいけないんだ。
周回の終了日まで、まだ200日ある。
僕はもっともっと肉体を磨いて、さらに強く、逞しくならなければいけない。
「それじゃ、僕は行くよ。午後からの魔法鍛錬はもう完全に遅刻なんだけどね」
デュネイのお仕置きを考えると震えるな。
前に遅刻した時は氷漬けにされたからね。
「あっ……あのっ!」
「なに?」
「えっと。あの……また、会いに来てくれますか?」
いや。もう聞きたいことは大体聞けたし、用はないから来ない……
とは、言えなかった。
なんか、本なのにやたらキラキラと光り輝いてしてるし。
本だから表情とか態度はわからないけど、彼女が心から懇願しているんだなってのは、雰囲気でなんとなくわかった。
まぁ、どのみち周回で毎日ここへは来るからね。別にいいか。ほかにもっといい情報をくれるかもしれないし。たまには顔を出してあげよう。
「週1回でいい? 僕も忙しいし」
「はいっ! 私、待ってますからっ!」
あ、そうだ。
もう遅刻は確定だし、ついでにアレも聞いてみようかな。
「あと、これはもし可能ならでいいんだけど……」
「はいっ! なんでしょう!」
すごいテンション高くなっちゃった古書のミルちゃん。なんでかはよくわからないけど、元気なのはいいことだ。
よし。たぶん無理なお願いなんだけど、ダメ元で頼んでみよう。
「エニグマダンジョンの敵、もう少し強くすることとかできないかな? 今の魔物、全然歯ごたえがなくてつまんないんだよね」
半分冗談で言ったつもりだった。
そうでもなかった。
「わっかりましたぁ! おまかせくださいっ!」
後日、僕はこのお願いをしたことを激しく後悔した。
ミルちゃんが用意した魔物たち。
それはすべて、地獄級ダンジョンの猛者たちしかいなかったから。




