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第12話 その鍵、はずせますよ

「貴様、何者だ?」


「ちょっと物知りな古本ですが、なにか?」


 完全に僕をおちょくってるね、このしゃべる本は。というか、なんで僕の転生前の名前を知ってるんだよ。


 そこだけはなにがなんでも説明してもらわないと、帰るに帰れないじゃないか。


「切って捨てるぞ」


「冗談です。ごめんなさい」


「僕が最初に聞きたい事、わかるな?」


「あっ! 独身ですよ、私」


 ふざけんなーー!!


「焼却処理がお望みのようだな。炎塵クリメイション……」


「わー! 冗談ですって! ごめんなさい、ごめんなさい!!」


 いけない、いけない。

 怒りで我を忘れ、思わずデュネイ秘伝の高位火属性魔法【炎塵クリメイション】で火葬しかけてしまった。


 僕もまだまだ修行が足りないな。


須藤太一すどうたいちについて、知っていることを全部話せ」


「あ、もう無理して悪役口調にしなくても大丈夫ですよ。貴方が《《転生者》》で、本来はほがらかで優しい性格だということも、私は知っていますから」


 ”転生者”というワードが出た時点で、この生意気な本が相当の事実を知っているということは間違いないだろう。


 ……なんでかな。

 何故か少し、ホッとした。


「ほかには?」


「あとは……そうですね。貴方の叡智えいちな薄い本が、自室本棚の最下段二列目左奥に隠してあるということくらいしか……」


「わかった。もういい」


 これ以上は恥をさらすだけのようなので、須藤太一すどうたいちについて聞くのはもうやめよう。


 他にも聞きたいことは山ほどある。


「キミ(本)のことを教えてほしい」


「私に興味があるのですか?」


 興味以前の問題だ。

 あらゆることが不思議でしかない。


「興味津々(しんしん)だね。でも全部聞いてたらラチが明かないと思うから、重要なことだけ」


 須藤太一すどうたいち叡智えいちな本の隠し場所まで知っているという事は、この本はメタ的な情報をかなり多く蓄えていると考えてよさそうだ。


 今さら本がしゃべる理由や何故こんなところに図書館があるのか、などといった概略的がいりゃくてきなことを聞くつもりはない。


 あくまで自身がこの世界で明日を生きるために、必要そうな情報だけをかいつまんで教えてもらえればそれでいい。 


「どうぞ。答えられる範囲で答えますよ」


「この世界は、オープンワールド型RPG『グランドテイルズ』で間違いないか?」


「そうです」


「僕が今、依代よりしろにしているアーク・ヴィ・シュテリンガー。破滅フラグは肥満による脳卒中のうそっちゅう心筋梗塞しんきんこうそく。そして原作主人公による断罪で合ってる?」


「細かいのを除けば、《《ゲーム的》》にはそうですね」


 含みがあるな。

 ここはとても重要なところだ。


 もう少し掘り下げて聞いてみよう。


「ゲーム的には、というと?」


「グランドテイルズにおける運命シナリオというのは、本来、世界中の人々(プログラム)があらかじめ決められた行動をとることによってのみ決定します。アーク・ヴィ・シュテリンガーの行動はすでにシナリオ通りではありません」


 みなまで聞かずとも理解できた。

 つまりは……


「もうすでに、運命シナリオは大きく変わってしまっていると?」


「そうです。そして今後、私と貴方が持っている原作知識なんて、ほとんどその価値を失うことになるでしょう」


 まぁ、それはある程度わかっていたことなんだけどね。だから僕は、常日頃から強くなるための努力を怠らないんだ。


 主人公の断罪イベントを突破したくらいで、アークに幸せな日々が訪れる保証なんて元々ない。すべては僕のこれからの判断と行動によってのみ、結果はついてくると思っている。


「メアやオーベルク、僕を取り巻く他の人たちについても同様か?」


 聞くまでもない問いかけなんだけどね。

 変わる運命シナリオは当然、僕だけじゃないだろう。


「まぁそうでしょうね、としか。そっちはむしろ、とっとと滅んでくれたほうが……あ、いや。なんでもないです」


 可愛らしい声の主のトーンが少し闇を帯びた気がした。


 滅んでくれたほうがって言った? いま。

 メアたちになにか恨みでもあるんだろうか? この本さんは。


 まぁ、きっと空耳だろう。

 とりあえず気にしなくていいか。


「色々教えてくれてありがとう。あ、えっと。君、名前はあるの?」


 ほんさんってのも呼びにくいしね。

 呼称こしょうでもあるなら教えてほしい。


「ミステリアブルですっ! 長い名前だから、みんなからはミルちゃんって呼ばれてますっ!」


 語尾が少し上がった? 若干嬉しそうに聞こえたが。


 ちなみにみんなって誰だろう。

 ここで大量に眠っている、他の本たちのことだろうか。


 まぁいいか。


「それじゃあミルちゃん。最後にひとつだけいいかい?」


 初対面であまり長々と話し込むのも気が引けるし、それに今日も午後から鍛錬のルーティンがある。質問はこれで最後にしようと思う。


「えっ。もっといっぱい聞いてください」


「いや、僕も暇じゃないから」


「えー……わかりました……」


 なんか残念そうな感じだな。

 まるで部屋へ遊びに来た彼氏が、仕事だからもう行かなきゃって、すぐに帰っちゃう時みたいな空気じゃないか。


「僕のステータスのことなんだけど。鍵がかかっていて、レベルとか攻撃力と魔力とかが見れないんだ。解除の仕方とかわかる?」


 この問いについては正直なところ、答えをまったく期待してはいなかった。


 個人的なことだし、いくらメタ視点のあるミルちゃんでもそんなことまで知っているとは到底思えなかったから。


 だが、いい意味で想像を超える回答を得た。


「その鍵、はずせますよ」


「えっ?」


「《《私の》》71ページ目に書いてありますから、開いてみてください!」


「マジですかぁ!」


 本日、もっともテンションが上がった瞬間だった。

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