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第11話 白豚と秘密の部屋

 周回もいよいよ今日で300日目に突入した。


「はぁ……」


 幾重いくえにも積み上げられた、息の絶えたオークの山。その頂上に腰を下ろしながら、僕は深いため息をついた。


 もはやエニグマダンジョンの地下5階でも物足らなくなっていた。


 一応、僕がいるオープンワールド型RPG『グランドテイルズ』の世界において、オークは自身が低レベルならそこそこ苦戦するくらいの魔物だ。


 でも今の僕にとって、その程度ではまったく歯ごたえがない。シュテリンガー家の屋敷周辺で高ランクの敵が出現するポイントはないから、今はここで周回するのが最善の策ではあるのだが。


 正直僕は、少し飽きていた。


 いくらレア度の高いオークキングの出現率が高くなっているとは言え、それらに遭遇そうぐうしてもそれほど苦もなく倒せている。


 騎士団での修業も、デュネイとの魔法鍛錬も少しマンネリ化してきた。


 破滅回避のためにはこのルーティンを続けるしかないと思ってはいるが、そろそろなにか新しい刺激が欲しくなっていた。


「本格的なフラグ発生まで、あと200日か……」


 などとぼやきながら、なんとなくステータス画面を開いてみる。


―――――――――――

名 前:アーク

性 別:男

年 齢:11(+1)

身 長:149(+9)

体 重:58(-6)

―――――――――――


 歳をひとつ取った。

 身長は大きく伸び、体重もいい感じで減少の一途いっと辿たどっている。


 体型は明らかに引き締まってきた。

 走ってもお腹やお尻のお肉はもう揺れない。


 体力や筋力も、すでに他の同年代よりはるかに鍛えた自信がある。


 ちなみに鍵のかかったパラメータは依然として閲覧えつらん不可のままだ。正直いまはもう、見ること自体を諦めている。


 数値として認識できなくても、確実に強くなっているのは間違いないんだから、最近はあまりそっちに気をとられなくなった。


 忘れたころにパッカリ開いてくれれば御の字ぐらいに思っている。 


「そろそろ、デュネイに本気で模擬戦でもしてもらおうかな」


 新配合の魔素増量プロテインを一気に飲み干しながら、僕の頭にデュネイの覇気のない顔が浮かんだ。


 僕に魔法を教える時、彼女は明らかに適当だった。いつも時間ばかり気にして常に眠そうにしていた。


 デュネイも僕と一緒で、マンネリ化してるんだと思う。

 

 と、いうのも。

 実は僕、彼女が教えられる範囲の魔法はすでに全部覚えてしまったんだ。


 魔法と言うのは、各個人の魔力量に応じて習得できる範囲に制限がある。僕の今の実力では、もう教える魔法がないとのこと。


 魔女(いわ)く、「常人なら10年かかるところを半年でこなせてしまっている」とのこと。デュネイでも、今の僕レベルになるのに1年はかかったらしい。

 

 なので今、3日に1回来てもらって師匠としてやっているもらっていることと言えば、魔力量の測定と瞑想めいそうで精神が乱れた時に喝を入れることだけ。


 そりゃつまらんだろうとは思っている。


「デュネイもそっちのほうが楽しいでしょ」


 などと、今後の未来について楽観視していた矢先のことだった。


 しかばねとなったオークのいただきから望む視線の先。規則正しく並んだ石壁の一部がキラリと光った気がした。


「なんだろう?」


 目を凝らすと、そこには豆粒ほどの小さな穴が開いていた。

 地上からだとまず見えないと思う。


 さっき光ったのは、その穴の奥ということなのだろうか。


「まだ時間もあることだし。ちょっと覗いてみるか」


 このまま直線上に歩いていけば、あっちまで辿りつけるな。こういうシチュエーションでうってつけの魔法がある。


闇道ダークロード


 僕はオークの屍の頂から穴の地点まで、虹の形をした黒い道を敷きつめた。そのままなんの躊躇ちゅうちょもなく、その上をテクテクと歩いて進む。


 この魔法もデュネイから結構前に学んだ。

 空中を歩くのに凄く便利で、戦闘の時とかたまに使わせてもらっている。


「ふむ。やっぱり穴が開いているね」


 片目でのぞくにはちょうどいいサイズの穴だ。

 さて、中はどうなっているんだろう。


「……これは、驚いた」


 見ると隠し通路と思わしき空洞が確認できた。原作でこのダンジョンは相当やり込んだ僕だけど、まさかこんな天井付近の壁の奥に、謎の通路が繋がっているなんて思いもしなかった。


「ほんと、グランドテイルズは奥が深いね」


 出回っている攻略情報だけがすべてではないね。本当に隠し要素の多いゲームだよ、グランドテイルズは。


「これを押せばいいのかな?」


 穴の場所から少し右側を見てみると、明らかに不自然な盛り上がり方をした石壁。どうぞ押し込んでくださいと言わんばかりだ。


 予想通り、そのでっぱりに力を込めてグググっと押したら、豆粒サイズだった穴がぽっちゃりサイズの子供一人が通れる大きさまで広がった。


 暗いので奥までは見えないが、足元に廊下があるのは確実だ。

  

「うわ。なんかドキドキする」


 などと言いつつも新ルート発見に浮かれていた僕は、簡単な光魔法で視界をしっかり確保しつつ、その隠し通路を意気揚々《いきようよう》と進んでいくのであった。





 隠しルートは、案外短かった。


「扉だ」


 木製の古い扉がすぐに視界へ入った。

 鍵は特についていないようだ。


「罠とかないよね?」


 開けた瞬間に毒針が飛んでくるとかは勘弁してもらいたい。それほど広い通路じゃないから、もしそんなトラップが仕掛けられていれば、叩き落すしかない。


「(おじゃましまーす)」


 念のため小声で、入室の挨拶をしてコッソリと中へ入った。


「うわっ! なんだこれ!」


 扉からは想像もできないほど、広い空間が視界に飛び込んできた。いや、そんなことより目を引いたのは……


 本、本、本。

 見渡す限りの壁という壁がすべて本棚になっている。


 色彩豊かな背表紙の分厚い本たちが綺麗に並び、納められている。


「図書館、なのか……ここは……」


「まぁ、当たらずも遠からずってところですかね」


「!?」


 気づかなかった。

 この場所には先客がいたようだ。


 だがキョロキョロと辺りを見渡しても、人の姿が見えないし気配もない。


 どういうことだ?


「あ、ここです、ここ」


「ここって……まさか……」


 鼓膜こまくが反応した先を見ると、床に一冊、緑色の古い本が落ちていた。声は間違いなくそこから聞こえた。


「初めまして、アーク・ヴィ・シュテリンガー……いえ、須藤太一すどうたいちさん」


「なっ!?」


 本がしゃべったことよりもなによりも……


 この目の前の存在が、《《転生前》》の自分の名前を知っていたことに対して、僕が『グランドテイルズ』の世界に来て以来、最高の驚愕きょうがくを禁じ得なかった。

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