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5章 【断罪の一撃(ジャッジメント)】Ⅲ

瞳に光を失くし、自分に自信のない、醜く歪んだ泣きそうな顔の俺。


ああ、カッコ悪い。


カッコ悪いなぁ、俺。


本当にヒーローなら、

俺が憧れてたヒーローなら、こんな顔しなかったのか?


笑え、笑ってみろよ。

無理矢理にでも口の端をあげてでも。


そうじゃないと、子供達が怖がってしまうから。


………そうか。


俺は、

俺は子供達に、


ーーあの頃の俺に、


かっこいいと思ってもらえるようなヒーローになりたかったんだ。


その笑顔を見ただけで、もう大丈夫だって安心できるような、


痛みも、恐怖も、全部吹き飛ばしてしまうような。


そんなヒーローに。


だから俺は、ずっと笑ってきた。


自分の心に蓋をしてでも。


………でも、

それは偽物なんかじゃない。


俺が誰かを安心させたいと願ったその気持ちは、本物だった。


普通の人間でいい。


特別じゃなくてもいい。


理想の形にならなくてもいい。


笑われたっていい。


だってこんなに絶望しても尚、


俺の中の俺は、


希望っていうこんなにも手の届かない物に、

どうしようもなく胸を焦がして止まないのだから。


「【断罪の一撃(ジャッジメント)】」


叫ぶよりも先に、もう体が動いてた。


負けたくないからじゃない。

負けるわけにいかないと思ったから。


視界の端に転がる死体。

冷たく沈黙するヘルメット。


ここで俺が倒れれば、こいつはまた人を殺す。


また誰かが、絶望の中で命を落とす。


ーーーそんなこと、


ヒーローなら、許せるわけがない。


地を蹴った。

砕けた石床が弾け、舞台用のスモークのように砂塵が舞い上がる。


魔王の目が僅かに見開かれた。


やはり、コイツは油断する。

左拳を軸に身体を捻る。


渾身の一撃が魔王の頬を掠めて空気を裂いた。


「っ……!!」


次の瞬間ヤツの黒い腕が振り上げられる。


咄嗟に上体を屈めると頭上を凄まじい風圧が通り過ぎた。

舞い散る羽根の中、懐へ潜り込み、肋骨へ一撃を狙う。


だが、魔王もそれを許さない。

肘がそれを受け止める。

鈍い衝撃が腕を走り、骨の奥まで痺れた。


まるで互角。


一歩も譲らなかった。

拳と爪が火花を散らしながら何度もぶつかる。


「っは、しぶてェな!!

さっきまでしおらしくしてやがったのに…クソッ

急にトチ狂いやがったかァ!?」


舌打ち混じりに距離を取ると俺と目が合う。

魔王の瞳に映る自分は目に光が戻っており、力強い眼光をしていた。


「……俺、お前嫌いだ。」


低く吐き捨てるような声。

……その物言いに俺は思わず笑ってしまった。


「俺はお前のこと結構好きだぞ!!」


一歩踏み込み拳を振るう。


「子供のようで可愛らしいからな!!」


「……ッキモチ悪ィこと言ってんじゃねェ!!!」


「気持ち悪くて結構!!!」


魔王にその一撃を弾かれる。

だが、俺は何故だか笑っていた。


怖かったからだろうか、

痛かったからだろうか、

それを魔王に悟られないようになのだろうか。

いや、きっと違う。


俺は大きく息を吸った。


もうこれが最後だと分かっていた。


全身の痛みも、血を巡らせる熱も、全てを拳に込める。


「【断罪の一撃(ジャッジメント)】ーーーー!!」


真っ直ぐに、

ただ真っ直ぐに。


迷いのない俺の正義そのものの一撃だ。


魔王の胸元へ、一直線に突き抜ける。


だが、

魔王の口元がニヤリと歪んだ。


「………そうくると思ったぜ、ヒーロー。」


次の瞬間、

足元の砕けた石床の下から黒い羽根が鋭く突き上がる。

避けられない。

鋭い音と共に、それは俺の脇腹を深く貫いた。

それでも、拳は止まらない。


血だらけの魔王の顔面をブチ抜くように叩き込み、轟音が響く。


そのまま俺の身体は崩れ落ちた。


血が床に広がっていく。

視界が滲む。


それでもまだ、俺は笑顔で告げた。


「………俺は、お前に負けてしまったな。

だが、


お前、いつか人間に負けるぞ。」


魔王の目が僅かに揺れる。

俺は最後の力で息を吐いた。


「だってお前、人間のこと、好きだろう。」


俺の身体には力が入らなかった。

息を吸うのも、内臓が悲鳴を上げる。


うつろな瞳で魔王の顔を見上げると


ヤツの口元がいつものように歪みかけ…

途中で止まった。


ほんの少し目が見開かれる。

まるで心の奥を不意に指で触れられたように。


理解できないものを見る目。


怒りでもない、


嘲笑でもない。


ほんの一瞬だけ幼い子供のように戸惑った顔。


………ああ。


その顔に思わず笑ってしまった。

血の滲む唇が、僅かに持ち上がる。


「………はは、


さっきの俺みたいな顔、しているぞ。……お前。」


【断罪の一撃(ジャッジメント)

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