2章 【過剰感知(オーバーセンス)】Ⅱ
異世界転生したら即バトル!?
目が覚めたらそこには魔王がいた。
こんなのって
……………無理ゲー。
「あいつ、死のうとしてね?」
声が、震えた。
……分かんねぇ。分かんねぇけど。
獲物を失った化け物ってイライラしてんじゃねぇの、とか
なんで一人で行くんだ?そういうのって大人の役目じゃねぇの、とか
顔も見た事ない弟や妹の話をあんな切なそうに目を細めて話やがって、とか
そもそもあいつ
出会った時から、ずっと手ぇ震えてたじゃねぇかって
「………クソ、なんで今気づくんだよ、俺…!?」
足を止めた。
俺の足はまだガクガクに震えてる。
嫌な気分が胸を満たす。
自分で自分の悪態が止まらない。
やりたい事が出来ても、俺はいつも俺を否定ている。
やめた方がいい。
気づかなきゃ良かった。
俺はなんでこんな馬鹿なんだよ。
あと数分気づかなかったら出口についてて、手遅れになってるんだろうなとか言い訳もできただろうに。
そもそも俺が行ったところで何になるんだよ。
いつも俺が自分で言ってるじゃん。
自分のことで精一杯だろって。
どうせ俺なんかに何も出来ないって、ずっとそうやって逃げてきたじゃん。
「でもさぁ、」
喉の奥から掠れた声が漏れる。
今更だ。
今更、何にもしてこなかった自分が何をしようってんだ。
「でも、さぁ……
あいつの手、……俺よりもずっとちっちぇんだよ……。」
ぽたり。
1粒涙が零れる。
その後ぼたぼたと続けざまに勝手に溢れてくる。
何してんだよ。
何俺なんかを助けようとしてんだよ。
超クソガキじゃん。
振り返った。
足が1歩を踏み出す。
崩れた瓦礫を踏む。
こんなに必死に走ったの、小学校の運動会ぶりとかじゃねぇかな。
あれから適当に走ってたから、マジ息の仕方とか覚えてねぇ。
なんで真面目に走んなかったんだよ、と自分に毒づいたが
そういや、と思い出した。
たしか
レーンの上を走る時
だんだんクラスメイトが俺を置いていくように追い越すあの感覚が、キライだったんだ。
授業でわかんない時にばっか、先生と目が合いそうになるのが、イヤだったんだ。
大好きな漫画の新刊を、「まだそんなの見てるの」って言われるのに、傷付いてたんだ。
友達と話しを合わせるより、休みの日ゲームに空けくれんのを、親に「恥ずかしい」って言われるの、やめて欲しかったんだ。
「…………………ックソ、」
全部惨めで、悔しくて。
でもずっとずっと
好きなものを人に言うのが恥ずかしくなって
人に期待されるのが怖いって逃げて。
俺よりすげーやつが後からいっぱい現れるのに脅えて。
何かしらに理由をつけて、やりたくないって、時間の無駄だって一人でスカして。
カッコつけて効いてないフリしてたんだ。
そんなカッコ悪い最低な男を助けた馬鹿が死ぬかもしれない。
震えた足のまま地面を蹴る。
ギチリと奥歯が鳴った。
俺のせいで、死んだ人がいる。そんな世界でさぁ
お前の言う優しい人に囲まれて、のうのうと生きていたいと思うほど
俺は俺の命に価値があるなんて思えねぇし。
「そもそも、俺は……っ
そうやって逃げてばっかの俺が、
世界で1番、大っ嫌いだったんだよ……っ!!」
息が焼けるほど熱い。
それでも足は止まらなかった。
走るって思ってたよりもずっと苦しい。
俺の息の音と足元瓦礫が少し崩れる乾いた音だけがやけに耳に残る。
正直今も聞こえてるんだ。
何年も連れ添ったあの声が。
悪態は今もずっと頭の中に響いている。
俺のことをまだずっと馬鹿にしている。
"今ならまだ引き返せるぞ"
"悪いのは俺じゃねぇよ。気付かないふりしてればいい。
それが一番賢いぜ"
………思わず苦笑してしまった。
こんな時まで俺ってこんなこと考えてるんだ、とか。
まぁ、生き残りたいならそっちの方が賢いに決まってるよな、とか。
でも、いつの間にか前に進むのが怖くなかった。
それどころか、
このまま止まる方が、もっと怖ぇ。
もっと息しろ、俺。
頭に酸素を回せ。
考えろ。考えねぇと死ぬぞ。
背中の悪寒が強くなる。
崩れかけた回廊の先。
あの部屋だ。
あの部屋に魔王がいる。
痛いほどの殺気を放っている。
足を進めれば進めるほどに背中を突き刺すような感覚が強くなる。
………あの傍若無人な化け物のことだ。
獲物に手応えを感じてなかったら、今機嫌が悪いかもしれない。
エリオは無事なんだろうか。
扉に手を掛けたその瞬間。
背中にぞわりと悪寒が走る。
……来る。
いや違う。
"見える"
「【過剰感知】」
視界の奥がびり、と避けるように揺らぐ。
扉の向こうにはいくつかの気配。
化け物は腕を乱暴に振り上げる。その軌道が見える。
その手に当たる場所はちょうど子供の頭がありそうな低い位置。
エリオは立っている。少なくとも生きている。
そこまで分かったところで次に飛んでくる一撃が
まるで俺にぶつかって頭が弾けそうになる。
そんな光景が脳裏に焼き付いた。
間に合う。
まだ、間に合う。
まずはあの化け物の目を盗めればいい。
「エリオ……!!!!!」
なるべく大きな音で扉を開ける。
なるべく大きな声でその名前を呼んだ。
舞い上がった砂埃に、もう既にこの部屋で暴れていたのだと分かった。
「あ。」
光が埃に反射して無駄にキラキラ光る。
そのシルエットはゆっくりと振り返った。
その口元には、先程散々見た、ゾッとするほどの無邪気な笑み。
「生きてやがったのかァ、お前。」
不揃いな歯がチラつく。
持ち上がった手がゆっくりと降りる。
こちらに興味を示す魔王に、喉から短く 震えた息が漏れる。
「お前、馬鹿だなァ。」
「……っ、……」
「なァンで、自分から死にに来てんだァ?
帰ってこなきゃ、まだ生きられたのによォ?」
「…………、」
「俺様に勝てると思ってきたってェのか?
ギャハ、ギャハハハハハハハッ!!
あー?
そうか、そうかァ。
でもそうだなァ、お前って勇者ってやつなんだろォ?
人間ってやつは勇者ってやつ好きだもんなァ!」
あんまりにも可笑しそうに笑う。
エリオにはもう興味が無いようで、こちらを見据えていた。
「俺を倒したらさぞショーサンされるんだろうなァ、
みんなのヒーローってやつだ。
なんだ?そんなのになりたくて帰ってきたのか?」
カツン、カツン。
大理石に爪が当たる音。
俺に1歩1歩近づいてくる音だ。
「ギャハッ、
人間って本当に面白ェなァ!!
…………………………愚かでよォ。」
「【過剰感知】」
「……あ?」
俺はその化け物の懐に走った。
先程まで俺の居た場所には数十の羽根が突き刺さり、床が抉れて見ていられないくらいに変形していた。
「エリオ……ッ!!」
「お、お前っ……何してるんだよ……!!?」
「……っ俺、……!」
化け物のすぐ側をすり抜けて突き進む。
両手を広げてエリオを抱き込んだ。
前のめりで体重を傾けて走ったものだから2人揃って1回転した。
ゴチン、なんて間抜けな音を立てて頭とかぶつけた。
めっちゃ痛ぇ。
半泣きで目を開くと化け物と目が合った。
光の線が走る。
長い爪を振り落とすとカマイタチって言うの?
空気を切り裂くような攻撃が飛んでくる。
その軌道が俺の目に映る。
俺はなんとなくその光景に見覚えがあった。
そして確信した。
……俺はもう、あの化け物の攻撃なんて怖くない。
「にい、ちゃん……?」
「木村。」
「……え、?」
化け物のコメカミがピクリと動いた。
次が来ると少年を抱き上げながら走る。
「……っ、名前
教えてなかったなって。
……俺、木村 悠人。」
「……えぇ、……?」
ポカン、と目を丸くしたのは攻撃を避けたからだろうか
魔王の動きに注意しすぎてやけに冷静だからだろうか。
それとも、初めてあった時の俺のように今の状況が飲み込めてないからなのだろうか。
「な、なんで、
……なんでこんな所にいるんだよ、ハルト兄ちゃん……?」
その言葉に胸がモヤついた。
……いや、きっと魔王が語りかけている時からモヤついてたんだと思う。
ヒーローになりたかったから?
勇者なら助けれると思ったから?
魔王にムカついたから?
……多分、そんなんじゃない。
「わかんねー。」
ぽそりと言葉を零しながら走る。
速くなくていい。
持久力なんてねぇんだ。冷静になれ、俺。
ふたりで逃げれたらそれで充分だ。
「分かんねぇ、けど。
俺、まだお前にありがとうも言えてねぇなって思って。」
子供特有の大きな目が涙で揺れた。
その後、震えた声で「……なんだよ、」なんて呟くエリオ。
俺が運びやすいように、暴れはしないものの小さく震えていた。
「ハッ、
ギャハハハハハハハハハハハッ!!!
何だ 何だ 何だァ???
その理由はよォ……?
腹も膨れねェ無意味な理由だァ。
反吐が出るぜェ!!」
「……笑った。」
「………?……」
分からないから、人間は恐怖する
どこかで聞いたことのあるセリフだ。
あの化け物は笑うと大振りの羽の攻撃が来る。
逆にイラつくと必ず右から攻撃が来る。
さっき確信が持てた。
だから常に能力を使わなくても逃げ切れる、ハズ。
そんでなんで俺が急に軽々よけれるようになったか、だ。
俺も嘘だろと少し思ったよ。
でも重ねると思ったより動けるんだ。
「【過剰感知】」
黒い爪がまた右上から振り下ろされる。
見える。
その起動が頭の中で光の線みたいに走る。
右、左。床の上を薙ぐ一撃。
ゲーセンとかパソコン、スマホでも散々やってた。
弾幕ゲーとか音ゲーに似てんだ。
起動はノーツのように輝き、その危険なところだけ光で塗りつぶされる。
その合間を縫って走る。
隙間はある。たとえほんの1歩分だとしても。
そこへ滑り込めば生き残れる。
「オイオイオイオイ!!!
いいな、イイなァお前!!!
おもしれーじゃんかよォ!
なァなァなァ、人間。」
長い長い廊下を走る。
出口はエリオに教えて貰っていた。
その道で突然攻撃が止む。
「……は、?……なん……だよっ……」
「ギャハ!
ンな反抗的な目で見んなよなァ、
うっかり殺しちまうだろォ?」
ニタニタと笑いながらカツンと地面を歩く音を立ててこちらへ近づいてくる。
一定の距離を取りながらジリジリと化け物を見据えた。
「いや、なに。
俺はお前がかわいそーだと思ってさァ、な?
ガキ1匹分だとは言ってもよォ、重いだろォ、ソレ。
もう息も絶え絶えじゃねェかァ、そうだろォ?」
カツン、カツン。
楽しそうに語りながら俺と距離を詰めようとしてくる。
脇に抱えたエリオが小さく跳ねてガタガタと震えた。
「俺よォ、お前のこと気に入ったからよォ。
逃がしてやるよ。
そのガキ置いていったらなァ……♪」
「……あ、……」
エリオから声が漏れた。
俺を見あげようとして、やめた。
俺は化け物から目を離せなかったからなのかもしれないが。
なんだかなぁ、
なんだろう。
ああ、そうだ。
似てるんだ。
化け物のこの声。
俺の頭の中でずっと俺の足を引っ張ってきた声に。
あまりにそっくりに俺のことを笑うんだ。
さっきまで頭の中で静かにしてた声が久々に口を開いたと思ったら、そんなことばっか言いやがってよ。
「ハルト兄ちゃん、……俺、」
「うるさい。
んな事する訳ねーーだろ。
バーーーーーーーカ。」
目を丸くしたのはエリオだけじゃない。
多分俺もだ。
なんなら俺が1番こんなこと言えると思ってなかった。
「………ヘェ?
じゃあなんだ?
一生俺様から逃げれんのか、お前。
ギャハ、ギャハハハハハッ!!
それとも、俺様に勝つつもりかァ?!
…………………本気で言ってんのかよ。」
「そ、……そうだよ、兄ちゃん。
俺が行けばいいんだからさ。
降ろして、兄ちゃん。
お願い、お願いだよ……」
俺なんかが持ち上げて走れるくらい小さくて軽い子供が啜り泣いた。
心配させないようにか口の端を一生懸命にあげて大粒の涙を溢れさせながら泣いていた。
「だから、うるせーんだって。」
エリオを下ろし、立たせる。
そして柔らかい黒髪のその毛をくしゃりと撫でた。
「お前みたいな強ェ化け物相手に2人で生き残れるなんて、思ってねーよ。」
今度は化け物の目が大きく見開いた。
予想外だったのか、ぽかんと口を開けていた。
「エリオ、帰り道はわかるよな。」
「兄ちゃん、まって 兄ちゃん………!!」
「そうだ、結局言えてねーじゃん
………マジ、そういうとこ、俺。
エリオ。」
「…………えっ、」
「ありがとう。」
無理やり口の端をあげて笑う。
きっとクソぎこちない顔してただろーけど。
でも、
少しは漫画の主人公っぽかったんじゃねーの。
「なんだァ?ソレ。
お前が変わりに死ぬってことでいーんだな?」
「……で、……」
「は?」
「タダで死ぬわけじゃ、ねーよ………!
【過剰感知】!!!!」
踏み出す。
せめて
1発でも喰らえと、
一瞬でも永く、エリオの逃げる時間くらいやれたらと思って。
「………ッ!?」
ノーツのような光を避ける。
連続する攻撃の隙間をくぐり抜ける。
カラスの羽のようなものが生えているでかい化け物の、隙間から覗いている異色の肌。
化け物の頬へ拳を突き出した。
が、
ザクッ
1枚の羽が俺の手の甲を通過した。
その後でぷしゃりと、血が吹き上がった。
「ひっ、……ぐゥ……!!!」
「…………………。」
足が止まった。
やばい、しまった。
やっておいて後悔した。
上なんて見なきゃ良かった。
「…………死ね。」
俺は舞い上がった無数の羽根に貫かれた。
クソいてー。
でもなんか、一周まわって笑えてきた。
まぁ、俺にしてはよくやったろ。
握りしめた拳はまだ解けてなかった。
………………俺は最後に、俺がほんの少し好きになった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
気迫負けした。
………こんな弱い人間のパンチいくら食らってもなんともねーのに。
つい、反撃しちまった。
「………人間。」
1人しかいない冷たい廊下で声が響く。
ゴリ、とその頭を踏みつけて足の下で転がす。
「………なんでお前、死んでんのに笑ってんだァ?気持ち悪ィ。」
返事なんて返ってこなかった。
魔王はもう、エリオの事などどうでもよくなっていた。
……ただ人を殺したと言うのに、心にはぽっかり穴が空いた気分になった。
【過剰感知】
実はもうこの小説はほぼ完結まで進んでおります。
ただ、アナログ民でしてノートに書き溜めている状態です。
パソコン作業になれておらず打ち込みが大変遅いので週に3回(金、土、日)にあげようかなぁなんて思っておりましたが
自分は文字の打ち込み、本当に遅いんだなぁと心から打ちのめされております。
もしかしたら今のペースを維持できない可能性があります。
もしもいいねや感想、ございましたらめちゃくちゃモチベーションが上がります。
一日に何回も通知確認してニヤニヤしております。




