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第百二十話 ペア戦第一回戦その2

 ペア戦一回戦は、まだ終わっていなかった。


 透川姉妹。

 そして新と雅。


 派手な勝ち方を見せた二組の余韻がまだ会場に残る中、次の試合が呼ばれる。


「次、橘彩葉、篠宮純香!」


 彩葉がぱっと立ち上がる。


「さて、いきましょうかっ」


「そうね。やってやりましょう」

 純香も静かに頷いた。


 対するは三年生ペア。


 一人は炎。

 そして、もう一人は闇だった。


「闇?」

 純香がわずかに目を細める。

「珍しいわね」


「でしょう?」

 相手の女子がふわりと笑う。

「闇って中々見ないもんね?」


「あ、すみません」

 純香が素直に言い直す。


「いいのよ?」

 女子はやわらかく首を振った。

「お互い頑張りましょう」


「よろしくお願いします」

 彩葉もぺこりと頭を下げる。


「こちらこそ、ふふ」


 何だか優しい人だな。


 この時は、そう思った。


     ◇


「始めっ!」


 開始の号令が落ちる。


「さて、いきましょうか」


 その一言と同時だった。


 辺りの空気が、すっと変わる。


 急に暗くなったわけじゃない。

 もっと奇妙だった。


 昼の光が、一枚ずつ剥がれていくみたいに。

 会場全体の明るさが、静かに、確実に遠のいていく。


「え、何これ」


 彩葉が思わず声を漏らした。


「……まるで夜みたいね」

 純香が低く言う。


「そうよぉ」

 闇の術者がどこか楽しそうに囁く。

「夜、好きだからね……」


 音が小さく消えていった。


 ざわめいていたギャラリーの声も、靴の擦れる音も、息遣いすら、闇へ吸われるみたいに輪郭を失っていく。


 会場のあちこちから戸惑いが漏れた。


「何だこれ……」

「何も見えなくなった……!」


 その中で。


 ぽっ。


 ぽっ、ぽっ。


 闇の中に炎が灯る。


 狐火のように、青白い炎がふわふわと宙に浮かんでいた。沈んだ闇の中で、それだけが異様に鮮やかだ。


「え、綺麗なんだけど……」


 彩葉が思わず見入る。


「彩葉、油断しちゃだめ」

 純香の声が鋭く飛ぶ。


 次の瞬間、そのうちの一つが、ゆらゆらとこちらへやってきた。


 ふわり。

 ゆっくり。

 まるで誘うみたいに。


 彩葉は反射的に手を翳す。


 そして。


「熱っ」


 軽く火傷した。


「っ……!」


 反射で水を走らせる。


 ぱしゃっ、と小さな音を立てて狐火が消える。


 その瞬間だった。


 光が失われた。


 ただでさえ濃かった闇が、さらに一段深くなる。


「……そういうこと」

 純香が小さく呟いた。


「え、どういうこと?」


「この闇の中で、私たちは動けない」

 純香の声は低いまま。

「光はこの狐火だけ」


 彩葉の背筋に、冷たいものが走る。


「触れてはいけない」

 純香が続ける。

「でも、消すと動けない」


「嫌らしい攻撃だわ」


「あ! そういうことか!」


「気づいたようね……」

 どこからか、あの女子の小さな声が聞こえる。

「でも、どうすることも出来ないわ……」


 ぞくりとした。


 優しげだった声音が、今は妙に遠くて、妙に近い。


 その間にも、狐火は増えていく。


 ぽっ。

 ぽっ。

 ぽぽっ。


 ひとつ。

 ふたつ。

 みっつ。


 視界の端にも。

 足元にも。

 頭上にも。


「うそ……」


 気づけば、上下左右、狐火だらけだった。


     ◇


 集まってくる狐火を、彩葉が反射的に水で払う。


 バシャッ。


 青白い火がひとつ消える。


 けれど、その瞬間――また闇が深まった。


「っ……」


 さっきより、見えない。


 輪郭がひとつ減るたびに、夜が濃くなる。

 ただ暗いだけじゃない。距離感も、位置感覚も、じわじわ削られていくみたいな嫌な闇だった。


 ぽっ。


 また別の狐火が浮かぶ。


 彩葉はすぐにそちらへ水を飛ばす。


 バシャッ。


「きゃっ」


「あ、ごめん! 純香!」


 飛び散った水が、すぐ隣にいた純香へかかった。


「大丈夫」

 純香は短く言う。

「ただ濡れただけ」


 とはいえ、表情は険しいままだった。


「でも、このままじゃ身動きが取れなくなる」


「ふふ、ふふ」

 闇の向こうで、あの女子が笑う。

「水も滴る良い女性、じゃなくて? ふふ」


「ほんと嫌らしい……」

 彩葉が顔をしかめる。


 静かな包囲だった。


 激しく攻め立てるわけじゃない。

 ただ、逃げ道を奪い、選択肢を奪い、じわじわとこちらを弱らせていく。


 見えない。

 動けない。

 でも狐火は近づいてくる。


 純香は小さく息を吐くと、地面へ手をかざした。


「――テラ」


「……任せろ」


 ごご、と鈍い音がして、二人の周囲に土壁が立ち上がる。


 左右。

 背後。

 頭上まで。


 厚い土の壁が囲いとなり、狐火の侵入を遮った。


「これで狐火は防げるはず」


 純香が低く言う。


 彩葉もほっと息をつきかけた。


 だが。


 ぽっ。


 土壁の内側に、ひとつ火が灯る。


 ぽっ。


 ぽっぽっ。


 またひとつ、またひとつ。


「え……」


 壁の外ではなく、内側だった。


 閉じたはずの空間の中に、まるで最初からそこにいたみたいに狐火が現れていく。


「こんな近くに!?」


 彩葉が息を呑む。


 ひとつの狐火が、背後からゆらりと近づいていた。


「危ないっ!」


 純香が反射的に彩葉を突き飛ばす。


 体がよろめき、彩葉の肩が土壁にぶつかった。


 そのすぐ横を、狐火が掠める。


 じゅう、と嫌な音がした。


「純香!」


 彩葉が叫ぶ。


 狐火が触れた箇所を見た瞬間、水が走った。


 バシャッ。


 火が消える。


 そしてまた、闇が深まる。


「っ……!」


 視界がさらに落ちる。

 土壁の内側なのに、もう純香の輪郭すらはっきり見えない。


 ギャラリーのざわめきが漏れた。


「え、どうしようもないじゃん」

「単純な攻撃なのに、こんなに嫌らしいのか」

「さすが隠キャ」


「隠キャは余計よっ!」


 闇の術者が思わずつっこんだ。


 一瞬、場がわずかに湧く。


「おお、反応した」

「そこ気にするんだ」

「ちょっとかわいいな」


「もうっ、失礼ねっ」

 闇の向こうで声が返る。

「こういうのは繊細って言ってほしいの!」


 思わぬやり取りに、張り詰めた空気がほんの少しだけ揺れた。


 だが、状況そのものは何も変わらない。


 むしろ厳しいままだった。


 土壁を出せば、内側へ狐火が生まれる。

 狐火を消せば、闇が深まる。

 放置すれば、じわじわ焼かれる。


 彩葉と純香は、確かに追い詰められていた。


     ◇


「彩葉、水陣の準備をして」


「純香?」


「とりあえず水陣を張れば、焼かれることはなくなるわ」


 なるほど、と彩葉はすぐに頷く。


「確かにね」


 二人は背中合わせになる。


 互いの死角を埋めるように立ち、その極狭い領域だけを彩葉が水の結界で覆った。薄い水膜が半球状に張られ、近づいてくる狐火をじゅ、と小さく消していく。


 闇は深いまま。

 けれど少なくとも、今すぐ焼かれることはない。


「この間に策を考えるわ」


 純香が低く言う。


 闇の向こうで、あの女子がくすくすと笑った。


「あらあら、何を考えるのかしらね、うふふ」


 こちらは闇で何も見えない。


 向こうはどうやら違うらしい。夜目が利くのか、少なくともこちらの位置は把握しているようだった。だからこそ狐火は、迷いなく近づいてくる。


 純香は静かに地面へ意識を落とした。


「テラ」


「……任せろ」


 足元から、重く低い気配が広がる。


 同時に、彩葉の水が流れ出した。


「シュイ、お願い」


「はーいっ」


 テラはシュイを乗せて、二人の周囲を回り始める。


 最初はゆっくり。

 けれど確実に。


 土と水が混ざり合い、周囲の地面がぬめりを帯びていく。乾いた床はたちまち湿り、やがて黒く、重く、粘る泥へと変わっていった。


「あら?」


 闇の向こうから、少しだけ戸惑うような声がした。


「さあ、何かしらね」

 純香が淡々と返す。


 周囲一面が、泥の沼みたいになった。


 足を置けば沈む。

 踏み込めば絡みつく。

 ただの水陣でも、ただの土陣でもない。二人で作るからこその、最悪に足場の悪い盤面。


 狐火は浮いている。

 だからそれ自体には意味がないように見える。


 けれど――


 ピチャ。


 遠くで、微かな音がした。


 純香の目が鋭くなる。


「そこ!」


 音のした方向へ、純香が一気に地盤変化を起こす。


 泥が沈む。

 その瞬間、足首の辺りから一気に固化した。


「きゃあぁっ!?」


 悲鳴が上がる。


 次の瞬間、さっと闇が晴れた。


 目の前に現れたのは、泥に足を取られて盛大に倒れている闇の女子だった。片脚は膝下まで泥に沈み、その周囲だけ地面が岩みたいに固まっている。


「これ抜けないよ!」


 炎の相方も慌てて引っ張ろうとする。だが靴ごと飲まれた足はびくともしない。


「ほんと、完全に固まってる!」

 泥に触れた手まで汚れ、さらに顔をしかめる。

「服もドロドロだし、もうやだぁ……」

「スカートの中までドロドロだよぉ……」


 闇が晴れた時点で、もう大勢は決していた。


 純香と彩葉は、すでに間合いに入っている。


 彩葉は水をまとわせた手を。

 純香は土の術式を起こす手を。


 二人そろって静かに翳し、ただ一言だけ尋ねた。


「まだやりますか?」


 泥だらけの女子は、少しだけ沈黙した。


 それから、へなへなと肩を落とす。


「……シャワー浴びたいよぉ」


 一瞬の静寂。


 次の瞬間、会場がどっと沸いた。


「うわああっ!」

「決まった!」

「発想うまっ!」

「闇を破ったっていうか、泥で炙り出した!?」

「いやそれより最後の一言ずるいだろ!」


 彩葉はぱっと顔を明るくする。


「やったぁっ!」


 純香も小さく息を吐いて、ようやく肩の力を抜いた。


「ええ。上手くいったわね」


 泥に沈んだままの相手は、がっくりしながらもどこか納得したように笑っていた。


「やだもう……」

「ほんと、最悪の組み合わせ……」


「褒め言葉として受け取っておくわ」

 純香が静かに返す。


「うぅ……絶対そういう返しすると思った……」


 そんなやり取りに、また小さな笑いが起こる。


 こうして、彩葉と純香もまた、一回戦を突破したのだった。


     ◇


 そして。


 四回戦は、三年生と――一年生だった。


「一年生?」


 ギャラリーがざわめく。


「え? インターハイって二年三年じゃないの?」

「一年生は新人戦あるでしょ?」

「いや、ルール上問題はないね」

「珍しいよね」


 当の本人たちは静かな様子だった。


 金色の目をした方が、のんびりと口を開く。


「みんな注目してるね、纏」


 蒼い目をした方が、肩をすくめるように笑った。


「そりゃあそうでしょ、普通は出ないもん、祓」

「先輩たちも後輩に負けたくはないよね」


「それはそうだよね」


 朗らかなのに、言葉には妙な棘があった。


「あの二人、有名な縁結びの神社の双子巫女らしいよ」

「何か雰囲気似てるよね」


 対する三年は、風と雷のコンビだった。


     ◇


「始めっ!」


 号令がかかった。


「よろしくお願いしまーす」

「まーす」


 一年生らしい軽さで手を振る双子に、三年の片方が鼻を鳴らす。


「一年生だからって手加減しねーよ」


「あ、先輩」

 祓がにこっと笑う。

「うちらそういうのいらないでーす」


「生意気な一年だな」


「はーい生意気でーす」


「腹立つな」


 会場に小さく笑いが起きた。


「じゃあいくよ、祓」


「いつでもいいよ、纏」


「憑依!」


 纏が祓に重なった。


 空気が、ぴしりと鳴る。


 次の瞬間、そこにいた二人の術者は、一人になっていた。


 ショートカットだった髪がするすると伸びる。綺麗な黒髪が長く流れ、風もないのにふわりと揺れる。長い睫毛の下で、金と蒼のオッドアイがゆっくりと開いた。


 その瞬間、巫女のエレメントが顕現する。


 白を基調とした巫女装束。静かで、けれど明らかに常の召喚とは違う神気。


 そして。


 勢いよく片手を掲げ、妙に元気よくポーズを取った。


「はい! 大勝利!」


 一拍遅れてギャラリーがざわめく。


「二人が一人になった!?」

「あんなのありなの!?」

「え、どういう魔法!?」

「大勝利ってどういうこと!?」


 対する三年の顔が引き締まる。


「とことん舐めやがって」

「来い、風神! 雷神!」


 強い風が吹き、筋骨隆々の鬼の顔をした風神と雷神が顕現する。見るからに荒々しい、押し潰すための召喚体だった。


「生意気な一年にお灸を据えてやりな!」


「相分かった」


 次の瞬間、肉を切り裂き、骨を焦がすほどの風と雷の束が一年へ襲い掛かった。


 だが。


 祓は祝詞を唱えていた。


「天に在します風の神、雷の神――鎮まりたまえ」


 その声は大きくない。なのに、不思議と会場の隅々まで届く響きがあった。


「我らが祝詞は癒し、施し、鎮め奉ります」


 風と雷が、一年の前で霧散する。


 巫女の持つ神楽鈴が、シャンと鳴った。


「ねえ新、あれって……」

 鏡花が小声で言う。


「うん」

 新は目を細めた。

「律や一ノ瀬のに似てる」


「ってことは同系統の能力ってことか?」

 雅が眉を上げる。


「分からないけど」

 純香が静かに言う。

「可能性はあるわね」


 シャン。


 鈴の音が会場に木霊する。


 祓は半目のまま三年を凝視していた。


 三年は一歩後退る。それでも風神をけし掛けた。


「グオォ!」


 風神が祓へ襲い掛かる。


「祓い給え」


 シャン。


 襲いかかった風神は、光の粒子になって消えた。


「な!?」


「なら! 雷神!」


「応!」


 祓の頭上から豪雷が落とされる。


 会場全体が眩く光に包まれる。


「潔め給え」


 シャン。


 シュウゥゥ、と雷が消えていく。


「雷が……消された……」


 ギャラリーが騒然となる。


「何だあれ」

「何が起こった」

「攻撃してないのに全部消してるぞ」


 祓はようやく目を細めた。


「では」


 内側から纏の声が重なる。


「終わらせよう、祓」


「ええ、纏」


 祓はスッと雷神へ近づく。


 もう巨大さも威圧感も意味を持たない。


 雷神が吠える。だが、その前で祓はただ鈴を鳴らすだけだった。


「シャン」


 風神と同じく、雷神も霧散する。


「あ……」


 三年の口から、間の抜けた声が漏れた。


 祓は静かに鈴を下ろす。


「これでお祓い終了です」


「憑依解除」


 揺らいだ巫女の姿が、纏と祓に分かれる。


 二人は着地するなり顔を見合わせた。


「やったやった、纏ー」


「やったね、祓。大したことなかったねー」


「くそっ」

 三年の一人が歯噛みする。

「何だあれ!?」


 すると双子は揃って客席へ向き直り、


「ブイっ」


 と完璧なタイミングでVサインを決めた。


 大いに湧くギャラリー。


「何だあの一年!?」

「強すぎるだろ!」

「しかも腹立つくらいノリ軽いな!」

「いやでもかわいい!」


     ◇


 試合後。


 三年ペアはまだ呆然としていた。


「……いや、待って」

 風の三年が額を押さえる。

「何された?」


「分かんない……」

 雷の方も真顔だった。

「でも、とりあえず全部消された……」


 そこへ、双子がてててっと近づいてくる。


「先輩たち、すごかったですよー」

 祓が明るく笑う。

「ちゃんと形になってたから、祓いやすかったです」


「は?」


 三年の顔が引きつる。


 纏は静かに首を傾げた。


「弱いと、消す前に壊れてしまいますから」

「きちんと先輩を倒した感じがしました」


「それ褒めてる?」

 風の三年が眉をひそめる。


「褒めてますよー?」

 祓はにこにこしたままだ。

「手応えあった方が、こっちも気持ちいいですし」


「一年のくせに、言うこときついな……」


「はい、でも手加減って思われる方が嫌かなって」

 祓が軽く手を振る。

「だから全力で祓いました」


 雷の三年が乾いた笑いを漏らす。


「全力で祓いました、って」

「言い方がもう腹立つんだけど」


「よかったです」

 纏が静かに言った。

「ちゃんと負けたって、届いているみたいで」


 一瞬、三年の二人が黙る。


 祓はその空気を気にも留めない。


「こういう負け方、覚えますもんね」

「先輩たち、いい経験できましたよ」


「一年が言うなぁ……」


「言いますよー」

 祓は明るく笑った。

「先にいるだけで、上とは限らないので」


 また黙る。


 今度は、すぐに言い返せなかった。


 纏がやわらかく続ける。


「でも、よかったですね」

「今年のうちに負けられて」


「……は?」

 風の三年が顔を上げる。


「来年は、もう出られませんから」

 纏は穏やかな声のまま言う。

「今年知れて、よかったと思います」


 空気が止まる。


 雷の三年が口を開きかけて、閉じた。


「お前ら……」

 ようやく絞り出す。

「明るい顔で刺してくるな……」


「巫女なので」

 祓が即答する。


「巫女関係ある!?」


 周囲から笑いが漏れる。


 でも、三年の二人はもう笑えない顔をしていた。


「……もういい」

 風の三年が視線を逸らす。

「行こう」


「うん……」

 雷の方も小さく頷く。

「これ以上いると、また何か言われそう……」


「あ、はい」

 祓がにこっと手を振る。

「お疲れさまでしたー」


「お疲れさまでした」

 纏も静かに頭を下げる。


 その丁寧さが、余計に刺さった。


 三年ペアはそれ以上何も言わず、ほとんど逃げるように踵を返す。


 背中は明らかに早足だった。


 その背を見送りながら、祓が小さく首を傾げる。


「怒っちゃいました?」


「負けたからでしょうね」

 纏がしっとりと言う。

「仕方ありません」


「そっか」

 祓はすぐに頷いた。

「じゃあ、しょうがないですね」


 その一言で、また場がざわついた。


     ◇


 客席でも、ざわめきはしばらく収まらなかった。


「何だったんだ今の……」

 雅が呆れたように言う。


「相手の召喚体だけ綺麗に祓ってた」

 新が静かに答える。

「神格とか、祀られるものとか、そういう系統に強いのかもしれない」


「律や一ノ瀬に近いってこと?」

 彩葉が聞く。


「近い部分はあると思う」

 純香が腕を組む。

「でも、もっと露骨に“鎮める”“祓う”に寄ってるわね」


 鏡花が小さく笑った。


「新くんたち、次あの子たちと当たったら面白そう」


「面白くはないですよ……」

 新が即答する。


 その返しに、晶が珍しく深く頷いた。


「それはほんとそう」


 どうやら晶の中では、王様と並ぶ別種の危険人物認定が下ったらしい。


 その時だった。


 双子の視線が、客席の新たちを捉える。


「あ」

 祓が小さく声を上げる。


「見つけた」

 纏も言う。


 そして二人は、まるで最初から知り合いみたいな顔で手を振ってきた。


「やっほー、先輩たちー!」


「よろしくねー!」


「いや、何のよろしくだよ!」

 雅が思わずつっこむ。


 双子は顔を見合わせて、またにこにこと笑う。


 会場の熱は、ますます高まっていた。


 個人戦の余韻など、もうとっくに消えている。


 ペア戦は、思っていた以上に混沌としていて。

 そして、思っていた以上に面白くなってきていた。

面白い一年生出てきました

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